【第12話】「再生――永遠(とわ)のはじまり」
―――修復率:100%(完了)
ゆっくりとまぶたが開いていく。
まっすぐな白い天井。機械音。窓から差し込む朝の光。
生ぬるい現実の空気が、少しずつ体を包んでいく。
(……ここは)
視界がはっきりしてくるたびに、夢と現実の境界が溶けていった。
だけど――確信がある。
(……生きてるんだ、俺は)
それだけで、胸がきゅっとなる。
看護師の声が聞こえる。カーテンの向こうで誰かを呼ぶ慌ただしい足音も。
でも、その騒がしさすら、今はどこか温かい。
生きているという事実が、こんなにも穏やかに響いてくるなんて。
数日ぶりに目覚めたという知らせに、家族が駆けつけ、医師がそばに立ち、淡々とした説明が繰り返される。
そのすべてが、まるで遠い世界の出来事のようだった。
少しして、一人きりになった病室。
窓辺から入る光が、ただ静かにカーテンを揺らしている。
ふと、胸の奥で何かがざわめいた。
(……ああ、そうか)
(“未来”は、ゲームで使ってた名前だった)
本当の名前は――
記憶の奥底から、そっと浮かび上がる。
「永遠――」
小さな声で、確かめるように口にした瞬間、胸のどこかがほどけた。
(忘れていたんじゃない。怖かったんだ)
(本当の自分として、また傷つくのが)
でも今は、違う。
「未来」に希望を抱き、「永遠」という名前を受け入れる準備ができていた。
これまでの後悔も、逃げた日々も、失ったものも、すべてを越えて――
ようやく、自分を赦し、歩き出せる。
「俺は……永遠だ。もう一度、生きるよ」
そのとき、ふと病室の隅に小さな影が立っている気がした。
あの、優しい瞳。どこか寂しげで、どこまでも見守るような微笑み。
――めもりんが、静かに手を振っていた。
声にはならない「ありがとう」を、心で伝える。
その直後だった。
病室の扉が、勢いよく開く。
「やっと起きやがったか、このやろう!」
懐かしい声が響いた。
ケンタ。そして、隣にはユキが花束を抱えて立っていた。
「招待状、返事がないと思ったら……まさか入院してるなんて聞いてねぇよ」
「……ごめん」
そう言うと、ケンタは大げさにため息をついた。
「まあ、いいさ。今こうして目の前にいるんだからな」
「で、もちろん来るんだろ? 俺たちの結婚式」
永遠は、一瞬きょとんとしたあと、力強くうなずいた。
「ああ……行くよ。絶対に」
ユキが、ふっと微笑む。
「おかえりなさい、永遠くん」
新しい人生の扉は、もう開いていた。
窓の外は、どこまでも青い。
希望は、いつもここから始まる――。




