第四話 入学試験
今日王都には多くの人が集まっている。
これだけの人数を集めるイベント。
それは王都騎士学園の入学試験だ。
門の外ではこれから受験に臨む子供達を応援する声でいっぱいになっている。
王都騎士学園に受験しに来ているのは俺以外全員貴族だ。
よってその応援方法も桁違い。
応援団や楽団を導入する親も見られパレードのようになっている。
門が閉じる瞬間、子供を応援する声や音楽は最高潮に達した。
いろいろな音楽が混ざり合い独特なメロディを作りだしている。
案内を担当する教官について行くとかなり広い講堂に到着した。
ここで筆記試験が行われるようだ。
少しの準備時間が取られた後いよいよ試験が始ま
る。
準備時間でトイレに行き用をたした。
筆記試験の時間はかなり長い。
おまけに途中に休憩時間はないため途中で漏らす者が毎年出ているらしい。
俺はそんな醜態を晒したくないのでちゃんとトイレに行く。
俺がトイレから戻ってくるとちょうど教官がやって来て休憩の終わりを告げた。
いよいよ試験が始まる。
「それではこれから筆記試験を始める。この試験はこれからこの国を担う君たちにとって重要なものとなるだろう。ではこれから試験についての注意点を話す。試験中の離席や発言は一切認められない。
これらをした場合不正行為として例外なく不合格となる。それとカンニング等の不正行為はやめてくれ。カンニングをしたところで誰も得をしない。
不正行為をしたものには厳罰が待っている。そのことを忘れないでくれ」
そう言って教官は全員にテストを配った。
「では、始め!」
教官がそう言うと共にテストを裏返し解答を始める。
中々順調に問題を解くことができている。
これもセラス王女の専属教師にテスト対策をしてもらったおかげだ。
専属教師は中々に、いや、とてつもなくスパルタだった。
テストまでの数ヶ月間毎日眠らずに勉強させられた。
こんな無茶ができたのは俺に疲労が蓄積し睡魔が襲ってくると回復魔法を使ってくれたからだ。
まあこれくらいの無茶をしなければスラム出身でまともな教育を受けていない俺が数ヶ月で王都騎士学園の入学試験を解くことができるようにはなっていなかっただろう。
そんな勉強を頑張った俺だが一つ大きな壁がある。
それは歴史だ。
計算などはスラムにいた頃からある程度できたのだが歴史なんかは使ったことがない。
受験対策をするまではこの国の現国王の名前も知らなかったほどだ。
ただ俺ほどでは無いが貴族の子息令嬢にとっても歴史は難しい科目だ。
歴史の勉強は過去問や本を使ってしたのだが本は著者によって解釈が違ったり時系列が滅茶苦茶だったりして勉強しにくかった。
専属教師によると地方の貴族とかだと自分たちに都合がいいように改変されていたりもするらしい。
正しい情報が乗った本を持っているのはほんの一部の貴族だとも言っていた。
数学などを解き終わり後回しにしていた歴史に手をつける。
案の定難しい。
今の国王の功績を答えよ、などのボヤっとした問題が多い。
他の問題も似たり寄ったりの悪問だ。
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試験が終わった。
長い間同じ姿勢で机に向かっていたので背中が痛い。
周りの人達も疲れた顔をしている。
「それでは添削が終わるまでこの教室でお待ちください」
そう言って教官は集めたテストを持って出て行った。
王都騎士学園の合否はかなり早くでることで有名だ。
それほど長い時間待つことにはならないだろう。
「ねぇあの子って例のスラムの子じゃない?」
「ほんとだ。貴族以外がこの学校を受けるなんて」
「落ちてくれないかな」
後ろの方でヒソヒソ話しているのが聞こえてくる。
この感じだともし入学できたら大変そうだ。セラス王女が俺に結構親切だから本来の貴族がどんなのかをすっかり忘れていたよ。
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しばらくして講堂に入試の結果が張り出された。
やっぱり採点が早い。
どうやったらこの人数分の採点がこんなに早く終わるんだ?
まあそんなことはどうでもいい。
今の俺が一番気になっているのは入試の結果だ。
受かっているのか落ちているのか。
上から順番に名前を確認していく。
俺の名前はなかなか見つからない。
もう残っている名前も少なくなってきた。
とうとう一番下にたどり着く。
あった。俺の名前が。確かにアヴェルと書かれている。
隣にはご丁寧に平民と書かれていた。
まさか俺が合格することができるとは。
合格者の中では最下位だがこれは価値のあることだ。
俺に受験資格をプレゼントした王様も俺が合格するとは思わなかっただろう。
この前までスラムの浮浪児だった俺が貴族しか本来入学できないはずの王都騎士学園で学ぶことができるようになるとは大した出世だ。
だがおそらく貴族ばかりのこの学校で俺は異端扱いされるだろう。
学校にいるのが俺を逮捕した貴族みたいに話が通じないタイプ奴らばかりだと考えると少し憂鬱だ。
まあ特に周りと関わらなければ何とかなるか。