第三話 謁見
「これで治ったと思います……」
「ありがとうございます」
俺の傷を治してくれたこの少女は先日俺がスラムで助けてこの国の王女、セラス・フォン・アルミシア様だ。
「いてっ」
体を動かすと痛みを感じた。
「まだ動かないでください。治癒魔法は傷は治せてもしばらく痛みは残ってしまうので」
治癒魔法なんてものがあることを俺は今日初めて知った。
スラムではほとんど魔法を使える人がおらず、たまに見る魔法も人を傷つける攻撃魔法だけだ。
ちなみに俺は魔法を使えない。
「ごめんなさい……。私のせいでこんな怪我を」
「大丈夫です。セラス様のせいではないです」
助けたのは俺の勝手だし取り調べの人が拷問してきたのは王女様のせいではない。
「それにしてもいいんですか?俺なんかの見舞いに来て?」
少し棘のある言い方だったかもしれない。
しかし俺みたいな下賎の者にこうも位の高い人がお見舞いに来る理由が気になる。
「このようなことになってしまったのも私のせいなので。それに助けていただいた方には直接お礼をお伝えしなければ」
王女様が俺みたいなのに見舞いに行くと言えば止める者もいただろう。
それを振り切って見舞いに来てくれたということは凄く良い人だ。
コンコンコン。部屋の扉を叩く音がなる。
「失礼します」
そう言って知らない人が入ってきた。
「陛下からのお達しです。
明日直接王女殿下救出のお礼をおっしゃりたいので宮殿に参上してくれとのことです」
王様と謁見か。
あまり気乗りしないな。
失礼のないようにできるのかどうかも分からない
少しでも無礼を働けばまたあの取り調べのようなことになる可能性がある。
かといって断ることも出来ない。
どうするべきか……。
「失礼しました」
そう言って王様の使いは去っていった。
「謁見は不安ですか?」
俺の心中を察してセラス王女がそう聞いてきた。
「ええ、まあ」
「大丈夫だと思います。父様は心優しい方だから悪いようにはしないかと」
「それは……良かったです」
それは王女様に対してであり俺みたい奴にはそうとは限らない。
ただ少しは緊張をほぐすことはできた。
「俺に礼儀作法を教えてくれる方を紹介してくれませんか?
陛下に失礼があってはいけませんので」
「分かりました。私専属の講師の方を紹介します」
ここでちゃんと礼儀を身につけて失礼のないようにしよう。
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「表を上げよ」
王様の言葉とともに顔を上げる。
今の俺の姿勢は片膝立ち。
土下座の方が良かったかもしれない。
周囲の貴族の俺を見る目は冷たい。
「今回の件ご苦労であった。
世の娘を救ってくれたこと感謝する。
改めて礼を言おう」
「はっ。身に余るお言葉でございます」
背中を冷たい汗が流れている。
一言喋る度に失礼でないか気が気ではない。
早くこの空間から出してくれ。
「してそなたに与える褒美だが王都騎士学園で学んでみるつもりはないか?」
これは予想外だ。
俺みたいなのにはなんの恩賞はないと思っていたがどうやらそうではないらしい。
「とはいえ他のものが努力して試験を突破し入学する中で一人だけ世の勝手な選択で入学させるわけにはいかぬ。
あくまで与えるのは受験資格だけだ」
なるほど。
おそらくこの報酬を考えた奴は俺が合格出来ないことを知って提案したんだろう。
スラム出身の俺に合格できるだけの学力を備えているとは思えない。
「不服か?」
先ほどの考えが少し顔に出ていたのかもしれない。
王様がそう聞いてきた。
「いえ。身に余る光栄であります。
ですが仮に入学出来たとして生活するお金も授業料を払うお金もありませんので」
「なんだそんなことか」
王様はそう言って笑う。
「安心せい。騎士学園に入学すれば生活費、授業料共にこちらで面倒を見よう」
「ありがとうございます」
何とかこの謁見を乗り切った。
これでひとまず安心といったところだ。
それにしても褒美が騎士学園の受験資格とは。
正直言ってそんなものよりも金が欲しかった。
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「俺に勉強を教えてくれる人を紹介してくれませんか?」
病室でセラス王女にそうお願いする。
ちなみに怪我が治った俺がまだ病室にいるのは住む場所がないからだ。
王女様も見舞いに来たという建前でここにいる。
「良いですよ。私も今年受験するので教わっている先生にお願いしておきます」
何度もお願いをするのは申し訳ないが頼れる人がこの人しかいない。
それにしても王女様に教えている先生なら相当良い先生なんだろう。
もしかしたら短期間で俺でも賢くなれるかもしれない。
「お願いします」
受験まで残り数ヶ月。
受験資格をもらったんだ。せっかくなら合格したい。
今の俺にできることは勉強して受かる確率を上げることだけだ。