運命の1台
俺は、瀬里香との未来を描いていた。そんなキザシもクリスマスイブの夜にぶち壊された。運命なんて信じない。
ふと、兆志は中古車販売店のショールームに目が止まった。奇抜なデザイン、フロントのメーカーのSの字が何だか不思議と俺を呼んでいるかのように。
俺はそのスズキのセダンに惹かれるように、店へ入っていった。
俺は
「スズキのなんていう車だろう?」
後ろを確認した。
「スズキ キザシ?って俺の名前と一緒!!」
「いらっしゃいませ!」
店員の山田大輔が笑顔で迎えてくれた。
「この車、キザシって言うんですか?」
俺は驚きと興味を隠せずに尋ねた。
「はい、そうです。スズキのキザシです。珍しい名前の車ですよね。お客様のお名前と同じとは、運命を感じますね。」
山田が笑顔で応じた。
俺はふと、運命という言葉に引っかかった。先ほどまで運命なんて信じないと思っていたが、今ここに立っている自分に少しだけ運命を感じてしまった。
「この車に試乗できますか?」
俺は衝動的に尋ねた。
「もちろんです。少々お待ちください。」
山田は手際よく手続きを進め、すぐに試乗の準備が整った。
車に乗り込むと、革のシートが心地よく体を包み込む。エンジンをかけると、その音は静かで力強かった。心の中に少しずつ希望が戻ってくるような気がした。
試乗中、街の明かりがクリスマスの装飾で一層輝いて見えた。恋人たちの姿が目に入るが、それを見ても悲しみは薄れていた。車の中で流れる音楽と共に、心は少しずつ平静を取り戻していた。
「どうですか?気に入りましたか?」
試乗を終えた後、山田が尋ねた。
「うん、すごく気に入った。この車、買います。」
俺は迷いなく答えた。
瀬里香との未来は終わったが、新しい未来がここから始まる気がした。スズキのキザシと共に、新しい兆しが見えてきたのだから。