在りし日の文明
街が崩れていく。
うねる枝葉が建物を貫き、クッキーを下手に食べるようにぼそぼそ瓦礫を地に落とす。
穿つ根がアスファルトとインフラを台無しにして、地形を別物にしていく。
唸る一つ目の植物の化物は大きな口を開き、目の前のなにもかもを食らい尽くす。
この世の終わりを、人類の破滅を眺めることしかできなかった。
下半身をあの化物の食べ残し、瓦礫に潰されて身動きが取れなくなっている。
どくどくと流れる血を止める術はなく、荒くなる息、白く飛んだ視界、思考もおぼろげで――死を待つのみだと直感する。
嫌だ。
こんな終わり方ありえない。
俺はもっと生きてやるつもりだったのに!
「よっ、少年。生きてるー?」
誰だ。敬語も忘れて、少し年上らしい女の子の声に反応するつもりが、声が出ない。
声帯が潰れているのか。息が漏れるだけだった。
「いや愚問だったよね。生きてなきゃ、そんな目は出来ない。意地汚くも生き延びてやるっていう、胆力のある目だ」
もう視界は白い。女の子の正体を見ることすらできない。
俺の視力は褒められたものじゃなかった気がするけれど。
「君の寿命が尽きる前に聞かないとね。せっかく知性を得たものだから、おしゃべりな性質になっちゃったみたいだぜ」
女の子は咳払いをする。
「化物と相乗りする勇気、君にはあるかな?誰とも知らない、いたいけな美少女にその死に体を預けてみない?」
言葉遊びを理解できるほど、今頭は活発的ではない。
声は出ない、目も見えない。最期の力を振り絞り伸ばした片腕、それはたまたま女の子の足を掴んだ。
握力のない血濡れた手は足首あたりに触れて、靴下を赤く染めただろう。
生き延びられるなら、化物とも仲良くしてやる。
嫌がるでもなく女の子は、はきはきと喜ぶ。
「よし!これからは救い巣食われの関係だ、よろしくするよ相棒」