2つの意味で凸凹
まず私達は第一被害者にあたる行商人の豪邸に訪れる。差し障りない会話と美味しい紅茶を呑むだけ、特に進展のない会話をして終わった。美の魔女について話を聞き取ってみるも、特に収穫はなかった。
流石に何か得られるだろうと期待して街に降り、商店街やカフェ、図書館に交番など聞きまわるがそういった噂については一切なく、まるで存在していないようにさえ感じられる。
兎にも角にも情報がほしいとなった私達は、遺体の第一発見者の家に出向いた。
私とロテオが横に並び(非常に不本意)、白地に花柄の可愛らしいティーカップが置かれたテーブルを挟んでの調書となった。
「ゴートリーさん。お時間頂いてありがとうございます。」
「いえいえ。私も今の時期は暇なので大丈夫ですよ。」
ゴートリーさんは今年で五十歳を迎える木こり。日々の労働によるものか杖を使って歩き、二本の足は震えていた。その為今の寒い時期は若手に任せているようで、基本的には暇なんだそうだ。
「前回とも重複して聞く内容も多いと思うのですが…」
「かまいませんよ。重複してもいいのでお話ねがえますか?」
ロテオの胡散臭い笑顔は、その性格性を知らない人間にとっては覿面だ。優しく物腰柔らかなゴートリーさんも対応がさらに柔らかくなったように見える。
ゴートリーさんは私たちと向き合うように椅子に座り、杖を背もたれに引っ掛ける。
「それではお聞きします。貴方が先日の件で通報されたということですね。」
「丁度弟子たちの仕事の出来を見に行く道中でした。いつも通りの昼過ぎにいつも通る道を。すると道脇の茂みに何かが見えて...」
「はい。伺ってます。商会の言質も頂いてるので、作業の証明もされています。」
この街での木の伐採などは、交易を仕切るサナマル商会に報告する義務がある。以前多発した倒木と交易馬車との衝突事故を防ぐためだそうだ。だからゴートリーさんが嘘をついていなかった、という弱い証明になる。
「では話を変えてお聞きしますが、ゴートリーさん。あなたは何か願いはありませんか?」
ロテオの質問は的を得すぎていて、あまりに露骨だった。その失礼な質問を静止しようと身を乗り出しかけたが、ロテオは細目を少し開いて青い瞳で気圧してきた。
私たちの問答をしている間に、ゴートリーさんはポツリと呟いた。
「やはり魔女の仕業なのですね...」
2人は我に返ってしまった。基本的には断定できない段階でこういう話を察せられてしまうのはご法度だ。だがロテオは観念したのか返事を返した。
「まだ、断定しかねる段階です。」
「そうですか...」
「それはそれとして、魔女について知っていることはありませんか?」
「___魔女。人々の夢や希望を叶えると浮ついて、その実、自分の理になる行為をする。命すら弄ぶ残虐な魔法使いの字名、でしたか。そう言った話も聞かなくなって長いので記憶ももう曖昧ですなぁ。」
話を区切って顔を外へと向けるゴートリーさん。その横顔は儚げだが、優しい瞳の奥底に何か熱いものが蠢いてるのが分かった。
「仮にそういう誘惑があったとしても、それをよしとはしませ___」
「何故ですか?」
ロテオの容赦なし気遣いなしの切り返し。ゴートリーさんは、そんな鋭い言葉にもまるで包み込むように、皺を寄せて作る優しい笑顔を見せる。そこには窓から刺した光が注がれていた。
「美の魔女は恐らく理想の体を魔法で作ってくれる。ゴートリーさん。あなたは無理をしてきたこれまでのツケが、その両足に来ている。戻りたいとは思わないのですか?」
日陰に沈んでも小さくて、座っていても尚震える足をもって、ゴートリーさんは隠さず答えた。
「死んだ家内は最期まで今の私の事をカッコイイ。愛してると囁いてくれました。今際の際まで老いぼれて、腐り始めたこの身体を愛してくれた人がいる。これを元に戻したらその証明もなくなってしまう。そうなると、向こうで待つ家内にフラれてしまいます。それだけはごめんですなぁ」
「そう___ですか。」
流石のロテオもこれ以上キレのある問答ができなかった。なんとも言えない雰囲気が漂った中で、私はゴートリーさんがかっこよく見えている。
ティーカップに残った紅茶を飲み干して、私達は足早に家を出た。
商店街を歩く私達は、屋台で買ったフランクフルト棒を1つずつ持って歩いていた。
何か後味の悪さを至高の肉汁で埋めながら歩く私の横には、なんの反省の色もない糸目神父が笑顔で食べていた。
「ねぇロテオ。」
「ロテオ神父。」
「ロテオ神父はなんであんな聞き方をしたの?なんかトゲトゲしいよ。」
なんというか最初から疑って聞いていたというか、信じる気を微塵も感じさせない言動が気になってしまって仕方なかった。
というのも以前からこう言った事案に対しては、彼は毎度同じようにささくれだっているのだ。
答え辛い質問に、ロテオはゆっくりと唇を這わせて答える。
「なんというか、私はこの世界に来る前は他人の裏をかく人間でした。」
「というと?」
「よく言えば...そうですね。見破り師とでも言いましょうか。嘘に鼻が聞くのですよ。あの人はかなり【クサイ】ですね。」
その時だった。雑踏の中で後ろから足音が駆けてくる。なんとも刻みよく、そして焦ってるような足取り。それに気づいたロテオは握り拳を作っている。
「ロテオ。敵じゃないから大丈夫だ。」
「加護ですか?」
「そうよ。敵意があるなら私が気づく前に反撃してる。」
確信を持って振り向けば、人の波に逆らって来る牧師がいた。牧師は私と目が合うと大声を張り上げた。
「戻っ___戻ってください!!!ゴートリーさんが___」
連れてきた問題はなんだろうかと考える。だが牧師の告げた言葉はあらぬ方向へ。
「ゴートリーさんが消えましたぁッ!!!」
予想外過ぎる答えは、私たちの思考を止める。




