靴下と恋。
ある日、妻が洗濯物を干しながら僕に言った。
「ねぇ?今さ、何気なく干してて思ったんだけど。」
「ん?どした?」
そばで床に座ってバスタオルを畳む僕は答える。
「夫婦とかパートナーとかってさ、靴下に似てない?」
「…どういう事?」
妻の言った事が唐突で僕はちんぷんかんぷんだ。
「いつもね、洗濯物を干す時に思ってたの。靴下って好みが分かれるなぁって。好きな柄とか色とかそれなりにこだわりがある人もいるじゃない?」
「うん。まぁ、そうだね。」
「でもさ、色々混ざったまま洗濯しちゃって干す時に相方を探すのが大変だなぁ…とも思ってて。」
「あぁ〜微妙に長さが違うとか、色がちょっと違うとか?」
「そうそう。干す時には合ってると思ってたのに、意外と乾いたら違ったぞ?とか。」
「あるある。なんで干す時に気づかなかったかなぁ〜ってね。」
僕はクスクス笑いながら言う。
だが、妻はとても真剣に真面目な顔で言うのだ。
「私は貴方とピッタリだなって思ったの。」
「えっ?…どうしたんだよ、急に。ははっ。」
僕は何だか急に照れくさくなって笑って誤魔化した。
そこで「ありがとう。僕もだよ。」と素直に言えないのが僕の悪い所だ。
何となく彼女の言わんとしている事はわかっていた。
だからこそ、嬉しくもありくすぐったくもあり照れくさかった。
「貴方って素直じゃないわよね。」
ため息混じりに妻が言った。
「…ごめん。」
「違うってば。欲しいのはその言葉じゃない。」
「あぁ…あ、ありがとう?」
「う〜ん。75点。」
「えっ!?点数つけるの?」
笑いながら僕がそう言うと、妻は洗濯物を干す手を止めて僕の前にやって来て向かい合わせで座った。
「私は貴方が好きよ。だから一緒に居るし、これからも居たいと思ってる。貴方はどう?」
真っ直ぐ向けられる眼差しに目を逸らすことが出来ない。
僕は突然、妻と出会った日の事を思い出した。
この真っ直ぐな目に見つめられて僕は彼女を好きになったんだった。
「…ねぇ?聞いてるの?」
「ん?あ、あぁ。聞いてる。」
あの時とちっとも変わらない彼女の目。
(やっぱり好きだなぁ。)と思ったのは、ひとまず内緒にしておこうかな…。そして僕は「もうっ。」と少しふくれながら立ち上がった妻に声をかけた。
「洗濯物が片付いたらさ、二人で少し話さない?」
「…じゃあ、温かいココアでも飲みながらどう?」
「それいいね!ホントそういう所、好きだわ〜。」
その言葉を聞いた妻が洗濯干しを再開しつつニヤリと笑いこちらを見る。
照れながらも僕もドヤ顔で返してやった。
やっぱり僕達夫婦は似たもの同士らしい。