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遊園地、人混み。2人きりの瞬間

作者: 熊倉恋太郎

 心臓が縮み上がる。


 周りでは遊園地のパレードが行われているはずなのに、だんだんと音が遠くなってきた。


「えっと……急に呼び出しちゃってごめんね」


「いや、大丈夫。……それで、えっと。どうかしたのか?」


 色とりどりの光が私たちを照らしている。私に勇気をくれるような、私の緊張を笑っているような、雑音とも取れる音が耳を叩いている。


 体を揺らす鼓動は、打ち上がる花火のせいにしよう。


 私は、ここでこれからの幸運を使い果たしても後悔はないと思っている。


 臆病だった私の、一世一代の、全力。


「私は、とってもドジで。間抜けで、バカで」


 彼に独白するように、こんなことを語ってしまう。


「うん、よく知ってる」


 苦笑い、という表現がよく似合う顔で、私の言葉に相槌を打ってくれる。


「それでも、あなたは私のことを見捨てないでいてくれる。私がどんなに困らせても、あなたは私を笑わせてくれる」


 今までの日常が、私の頭の中で流れ出した。楽しかった日、辛かった日。どんな時も、この人は隣にいてくれた。


「だから……私は……!」


 最後に一言「好き」と言えたら、私の想いは伝わるだろうか。勇気を出して言ったら、彼に正しく理解してもらえるだろうか。


 世界がカラフルに染まって、目の前には私の大好きな男の子がいて。


 一瞬だったような、数十分経ったような。時間の感覚がおかしくなってきた。


 今の私の世界にいる、唯一の人。私は、私の想いの全てを、たった一つの行動にして彼に渡した。


「っ——!」


 唇がそっと触れ合うだけの、キスとも呼べない行動。それが、私がしたこと。


 そんな事だったのに、彼は顔を真っ赤にして照れてくれた。私のことを、一人の女の子だと思ってくれていたみたいだ。


 でも、私が彼のことを見られたのはそこまでだった。思い切ってキスまでしてしまって、恥ずかしいという感情が溢れ出てきてしまった。


 彼の顔を直視できなくなってしまい、思わず足元に目線をやる。


「俺に一方的に気持ちを伝えてきて、俺の返事は待たないのかよ」


 思っていた以上に近くから声がした。かと思えば、私の肩を優しく掴まれた。


 そして、前を向いた私に、キスを返してくれた。


「んっ」


 唇同士はすぐに離れてしまったが、まだ彼の温もりはそこに残っている。じんわりと幸せが広がっていくような感じがして、夜なのに真昼のように熱い。


「これが……俺の返事だ…………」


 照れを隠すとき、彼は顔を背けて右の頰をかく。そんな彼に、私は愛おしさを抑える事はできなかった。


「ちょっ、まっ!」


 彼が何か言いたげだったが、それを無視して唇を強引に奪う。最初こそ驚いていた彼だったが、私のことを否定しないでくれている。


 この人と二人なら、どんな困難も超えていける。


 私は確信めいたことを思いながら、これから続く幸せの始まりの味を噛み締めている。

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