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ifの世界  作者: トナカイ
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第一話


 目が覚めたら、青空の下の木陰に、なぜか大の字で寝ころんでいた。

 ああ、いい天気だなぁ、なんてことを考えて……いやちょっとまって、何でこんなことになってるんだっけ?

 気持ちのいい天気だし、気候も穏やかだし……目を閉じたらこのまま眠れそうだけど……ってそうじゃない。そもそもなぜ、こんなところで寝転がっているのかということが思い当たらない。

 ゆっくりと体を起こし……特に痛いところや怪我はなさそうだ……あたりを見渡して――……再び、思考が逃避しそうになる。



 そこは、見たこともない場所だった。



「…………まじで…………?」


 広い景色、と評して差し支えないと思う。

 ぐるりと見渡せば……遠くに見えるは山、それよりは手前に見える森や小高くなった丘に草原っぽい草地、そのただ中に見える……あれは塀か? 人工物の塊と思われる建物やひたすらに長い塀と、その向こうにちょこちょこ見える屋根や塔。おそらく町だろう。

 目の前にあるのはアスファルト舗装などはされていない……しかし人が歩くためか、均されてはいる少し広めの土の道。

 田舎、という表現くらいしか思い浮かばない乏しい自分の語彙力に悲しくなる。

 どうやらその道らしき傍ら、いくらか草木が茂った木陰に大の字で寝ていたらしい。

 弁当でも持っていたらピクニック気分としゃれこめるが、あいにく手持ちの荷物は……そうだ、荷物どこいった?

 寝ころんでいた周りをきょろきょろと探す……までもなく、すぐ近くに普段持ち歩いている少し大きめのカバンが一つと、先ほど友人から土産として受け取った手提げの紙袋が放り出されており――…………

 その先に、同じように大の字で寝っ転がっている二人の友人を見つけたのだった。


「え……なーに……ここ?」


 叩き起こした友人の一人が、辺りをきょろりと見渡して、ごく当たり前の疑問を口にすると、


「何でこんなとこで寝てたんだ……?」


 もう一人の友人も、同じように辺りを見渡し、至極まっとうな疑問を述べた。

 多分こんな状況に陥ったら、十人中半数以上はこんな疑問を持つだろう。


「や、あたしも今さっき気づいたところなんだけどさ……何でこんなとこにいたか覚えてる?」


 こちらも当然の内容を口にして……二人は一瞬顔を見合わせ、少しの沈黙ののちに首を横に振る。


「いや……覚えてないな」

「だよねぇ…………」


 小さくため息をつきつつ、まるで某TRPGの導入かなんかだな、などということを考えた。邪神様かなんかの暇つぶしか何かですかね? そんな非現実的なことあるわけがないのだが、いざ自分が直面した事態が普通ではないと、人間、思考が停止するものらしい。


「荷物……は、一応あるのねぇ。中身確認しないとわかんないけどー……誘拐とか物取りって線は薄い……かなぁ?」


 手荷物を引き寄せ、カバンの中身をざっくり確認しながらそういうのは、同年代の趣味友達、ぱっと見はおとなしそうに見える佐倉久美子その人だ。黒髪のサラサラストレートのロングヘアで、ふわっとした前髪でおでこを隠し、いかにも大和撫子然たる様相。服装もふわふわした、いかにも女の子らしい小花柄の落ち着いたピンクのワンピースと、袖が軽くふんわりとした無地のベージュのカットソーに白のカーディガンという、まさに鉄壁の女子スタイルだ。

 ……外見と中身、性格がかみ合うかどうかは別として。


「そら俺らくらいのオッサンオバサン誘拐しても、別にいいことないだろーしなあ」


 もう一人も、やはり同年代の趣味友達、さっぱりとショートに整えられた濃い茶髪の、一応それなりに明るく好青年、と称しても差し支えがなさそうな、銀縁のメガネが似合う、稲垣和也という男性だ。麻色のジャケットにグレーのTシャツ普通のデニムジーンズという、服装には一切頓着がないような恰好ではあるが、まぁおかしくないからいいんだろう。うん。Tシャツに描かれた大きなアルファベット2文字のブランドロゴがちょっと目立つくらいだろうか。

 あたしはあたしで、いたって普通の春用の、濃いベージュのジャケットに、七分袖の薄めのグレーのチュニックと、濃紺のジーンズにワラビータイプの茶色い靴という恰好の、セミロングくらいの茶髪を後ろで一つにまとめただけの、まあいたってどこにでもいるような、本当に普通の日本人だ。体型も身長も、特筆して珍しいこともないと思う。

 久美子と和也とあたしは、学友とかではないのだが……まあそもそもの出会いはネットの趣味交流だったし……なんだかんだと十年来の付き合いがあり、日付が変わっていないのであれば、仕事の休みがかち合った今日は、今度参加する趣味のイベントの話をしつつ飯でも食おうと集まった……はずである。

 あたしも手荷物をざっくり確認し……土産にと受け取った食べ物やら化粧品やらの入った紙袋の中身は、すべてを把握していたわけではないため完全に無事かどうか知るすべはないが、とりあえず自分が持っていた手荷物の中身は、特になくなったものはなさそうだ。


「財布もスマホもあるし、取り合ずここがどこか調べてー……あれ?」


 スマホを取り出し現在地を確認しようとして……電波が来ていないことに気が付く。


「どした?」

「電波ないや……あ、GPS使えないか。地図……、あれ……起動しない…………?」


 接触不良かな、と触り方を変えたりツメでつついたりしてもみるが、どうにもいうことをきいてくれない。


「ひらけたところだからー電波ないとかー?」

「そーかも……何か田舎っぽいから? でもなんで起動すら……こら、言うこと聞けこいつっ……!」

「……なに、やってんだ?」

「や、なんか地図が起動しなくて……あれえー? GPSなくても地図見るくらいできたよね? エラー表示も出ないとかどういうこと、なんっ、だっ!」


 スマホを振ったり全力で押してみたり連打したり再起動もしたが、特にこれといった変化はなし。ダメもとで持っていた別のタブレットも立ち上げてみるが、こちらに至っては大半が電波を必要とするものしか入れていなかったため、ダウンロード済みのものだけを考えると、持ち歩ける書庫でありメモ帳であり、ちょっとしたカメラ程度の役割に成り下がっている。

 いや十分なのかもしれないけど。くっそー、パソコンとケーブル位持ち歩くべきだったか。接続できたらまだなんとか……でも重いし、ただでさえスマホの充電器だけでも結構重量あるし……あとの祭りである。


「まいったなぁ……とりあえずあっち行ってみる? なんか人工物っぽいよね」


 素直にスマホとの格闘を諦め、遠くに見える建物の密集している辺りを示す。

 人里だろうし、聞いたら何かわかるかもしれないし。


「そうだなー……見覚えは?」


 ちらり、と和也がこちらに視線を向けてくる。あいにく、と肩をすくめて首を振った。


「見たことも、覚えもないね。少なくても知ってる限りの日本の建築様式じゃなさそう」

「ゆいちゃんがわからないならー……、とりあえず都会とか一般的なものじゃない、ってのは確かみたいねー」


 久美子が人差し指で自分のほっぺたを触りつつ、小首をかしげて、ならどこなのかなー? とつぶやいて――…………


「あら?」


 後ろを振り返り、そう声を上げたのだった。



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