異伝3 大魔王という存在
大魔王とは何か?
フレイザー兄妹は、家族と離れ離れになった後、マーサから大魔王についての話を耳にする。
「ケント、こんなことがあったんじゃ」
「どんな話? 話を聞かせてくれないか?」
「いいじゃろう。今からわしの話を語るとしよう。わしは、幼い頃、大魔王に会っていた」
マーサは、ケントとソフィアに、幼い頃、大魔王に会っていた話を語った。
マーサは、魔法使いの家系の末娘として魔法使いの里で生まれ育ち、幼い頃から、魔法以外のことに興味を示していた。
マーサは、両親にこんなことを言っていた。
「パパ、ママ、あたしはね、魔法以外のことを学びたいんだ。ずっと、この里の外のことを知りたいんだ」
マーサの父親は、「そうか? お前がそう望むのなら、パパは止めはしない」と、マーサのことを理解した。
ところが、マーサは学校での成績は、優等生とは程遠いほど叡智に恵まれていないのだ。
担任教師から、「マーサお前、どうしてこんなに成績が優れないのだ? 補習を受けないと、留年だぞ」と言われた。
マーサは、学校ではあまり友人作りには馴染めておらず、ずっと孤独だった。
「あまりこんなとこに居ても、友達は出来ないし、外の世界に憧れても皆にちょっかいを出されるし、良いことないよ」
そんなマーサの元に何者かが来ます。
「君は、孤独かい?」
「そうだけどあなたは誰?」
「私は、君の助けになりたいんだ」
「ありがとう、あたしその言葉を信じるよ」
「君は何がお望みかね?」
「あたしは、友達がほしい。そしたら、外の世界に行きたいんだ」
「そうか。そういうことならいいことを教えてあげよう。友達を作ることは、極めて難しくないのだよ」
「どういうこと?」
「君が想像したものを、君自身の思いで実体化する魔法を使うといい」
マーサは何者かの言葉を信じ、マーサ自身が想像したものを実体化させる。
マーサは、実体化した何かを見て、「これは、あたしの友達?」と言うと、「そうだよ」と言われ、マーサは初めて友達が出来て嬉しかった。
何者かは言う。「君は使い魔を生み出すことができたようだな」
「使い魔? それって何のこと?」
「使い魔は、魔法使いであれば、思いで生み出せる存在なのだよ。それを出し入れするには、魔法陣を使うといい」
マーサは、自身が生んだ使い魔を魔法陣で収めた。
しかし、マーサは何者かが言ったその教えが、後に魔法使いの里を襲う惨劇を招くことを知る由もない。
ある日のこと、マーサは、学校で魔法陣で使い魔を取り出した。
それを見た生徒から、「なんだよこれ」「こんなもん連れて来あがって」「気持ち悪い化け物」などと、マーサの使い魔に対し、ひどいちょっかいを出したのだ。
「やめて、あたしの友達に手を出さないで」と、マーサは傷ついた使い魔を涙ながらに庇った。
帰宅後、マーサは、両親と上の兄弟3人にこんなことを言った。
「今日学校で、みんなからひどいことされた」
「マーサ、大丈夫?」「いったいどうした?」
「あたしの友達が傷ついたの」
「なんてこんなことを……」
「そんなの、俺は許さん」
「パパやママ、お兄ちゃん、お姉ちゃんじゃどうしようも出来ない」
その夜、何者かが、マーサの寝床に来て、「どうしたんだ?」と声をかける。
マーサは、「ひどいちょっかいを受けたの。だからみんなに復讐したい。あたしの助けになってほしい。あたしの家族じゃ力になれないし……」と、言った。
「わかった。君の望みを叶えてやろう」と、何者かは、マーサのお願いを聞き入れた。
夜が明け、マーサの父は、「しばらく、家族みんなで旅をしようか」と言い、マーサは学校を欠席した。
学校では、マーサがいないことに、生徒たちは、喜んでいた。
しかしそれは、魔法使いの里の崩壊を引き起こした。
マーサの一家は、旅の帰り、想像を絶する光景を目の当たりにした。
なんと、魔法使いの里が魔物に襲われ、破壊され、燃やされていた。
マーサは我に帰り「ああああああああぁっ…………」と、荒い声を出した。
魔法使いの里は、マーサの家だけは免れたものの、里の長をはじめ、里の人達は魔物によって皆殺しにされた。
何者かが現れて、「これで、君が復讐したいという望みは叶ったようだな」と、マーサに、言い聞かせた。
生き残っていた、魔法使いの里の人達が居ると悟った何者かは、その場を去る。
「おっと、邪魔者が来るようだ。私はここで失礼させていただくとしよう」
そこに、老人が来て、「お主、なんてことをしてくれたのじゃ? よくも、取り返しのつかぬことを。さっきお主の隣に居たのは、大魔王じゃぞ」と、マーサの一家に言った。
学校の教師や、生徒が来て、「マーサ、君のせいで学校がめちゃくちゃにされたじゃないか」と、言った。
(あたしは、復讐してほしいとお願いしたのに、命を奪い取ってとは願っていなかったのに、なんでこうなるの?)
魔法使いの里を破壊されたことをきっかけに、マーサとその家族は、魔法使いの里を去る。
ケントは、マーサの話を聞き、「なんて恐ろしいことなんだ」と、言った。
マーサは、大魔王という存在に気づかず、魔物に加担していたことを後悔していた。
「あれ以来、大魔王の恐ろしさを思い知ってしまい、わしは、故郷を失った」
「あの時、何故父さんと俺の足を止めたんだ?」
「知りたい? それは、わしはケントのおばあさんの妹だからじゃよ」
ケントとソフィアは知らなかった。
マーサがケント達7人兄弟の父方祖母であるウェンディの妹だったことを。
マーサは、魔法使いの血筋を残すため、魔物に加担しないことを誓った。