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ショートショート4月~2回目

押し買い騒動

作者: たかさば

ピンポン♪


休日の昼過ぎ、昼ごはんに食べたうどんの器を洗っていたら、チャイムの音が聞こえた。


「はい」


インターフォンをのぞくと……見慣れない、黒い服の……男性。なんかのセールスかな。


「どちらさま?」

「この辺りを回っている、買い取り業者です」


ああ、宝石とかの押し買いか……。テレビで見たことある、貴金属をだまくらかして根こそぎ奪ってっちゃうんでしょ……。


「ごめんなさい、うちは結構です」


プツン。


インターフォンを切って、洗い物に戻ろうと。


「やあやあ、こんにちは。お邪魔しますね」


?!


「ちょっ……ええっ?! は、はい?!」


うそ……!!!

男性が……ドア、ドアをすり抜けて、部屋の中に入ってきた!!!


「どうも、どうもどうも。わたくし、嘘を買い取る仕事をしておりまして」


驚きのあまり、強烈にシンクの縁に腰をぶつけた私に……どこかへらへらした様子で名刺を差し出す、男性!!!


「出張ウソ買取サービス……?!」

「先日、エイプリルフールがあったでしょう? 嘘をついてもいい日というやつです。その影響で、巷にずいぶんウソが溢れましてね。正直ね、今、稼ぎ時なんですよ」


ウソを買い取るって、何!!! そんなの、買い取れるの?! 悪い予感しかしないじゃない!!!


「ここにはウソなんて一つもないです、出てってください!!!」

「いえね、この辺りに……ずいぶん活きの良い嘘が溢れていると、聞きましたものですから」


ウソに活きの良いも悪いも!!!


「私正直者なんです、ここにウソはありません!! 出てって!! お願い!!」

「まあまあ、そうおっしゃらず。査定だけでも……ね?」


男性の目が……ひか、光ったああああああああ!!!


「……はは、あなた、ずいぶんな正直者ですね、嘘とは無縁の生活を送ってらっしゃる? ……なるほどねえ」


ビジネスバッグの中から、何やらノートのようなものを取り出した、男性。


「私は大丈夫」

「毎日楽しく暮らしてる」

「おいしい食事が食べられるだけで幸せなんだ!」

「みんな大好き!」

「彼氏なんかいらないよ!」


「この辺り、ぜひ買い取らせていただきたいんですけども。買い取り価格はずみますから、売ってはいただけませんかねえ?」


う゛っ……!!!

絶妙なところ、突いてきた!!! 普段私が口にしている台詞のオンパレードだ!!!


「う、ウソじゃないもん!!! 私大丈夫だもん! 毎日楽しいもん! ごはんがおいしかったら幸せだもん! みんなイイ人ばっかだもん! 彼氏だって、ひっ、必要ないんだからね?!」


ねえ、何で涙出てくるの、私ひょっとして情緒不安定なんじゃないの……。全部、本心で、言ってるって、言ってるって……うう……言いたくて言ってるわけじゃ、ないやい……。周りが、外野がいろいろうるさいから、セリフが口に慣れちゃってるだけだい……。


「……なんだ、じゃあ、ウソって認識ないんでしょう、じゃあ買わせてくださいよ。別に言えなくなっても困らないでしょ、全部合わせて……そうですね、弱音を吐ける人との出会いで買い取らせていただきましょう、オプションで将来

「ちょっと!!! なにそれ!! 言えなくなる? のは別にいいけど、買い取りってお金じゃないの普通!! っていうか、出会い?! 間に合ってます!!!」


お前は経理の内山さんかっ!! いつもわけわかんないおっさん連れて来ては、私とくっつけようと躍起になってさ!!! 断っても断ってもしつこくされるこっちの身にもなってよ!!!


「あ、お金がいいですか、じゃあ……大サービスで、ストーカーから逃げ出すために宝くじの列に並んで買ったロトが53万円当たるパターンで買わせてもらいます!!」

「何それ?! ストーカー?! 冗談でしょ!!いらないよそんなの!!! もうお帰り下さい、帰って!」


なんで事件に巻き込まれなきゃなんないのよ!!! 私はね、枯れてる女子だから、お金にはそんなに言うほど困ってないのよ!! 絶対……いらないやつだ!!!


「そんな!!! 困るんです、買わないと!! 欲しがってるお客さん、今週中に絶対欲しいって……前払いで徳払い、三割増しで貰っちゃってるんですよ、助けてくださいよ!!!」


……うっ!!!わ、若い男性の、な、涙っ!!! 私地味にこういうのに弱くって!!!


「わかった!! わかりましたから!!! じゃあ、あげます!! どうせウソついてるって自覚ないんだから、差し上げます!! これでいいでしょ!! もう……帰ってよ!!」

「そういうわけにはまいりません!!!世の中、対価という仕組みがですね!!!」


すったもんだの挙句、私は出会いという奴でウソを売る事になった。……まあ、出会いだったらさ、出会っても別に縁結ぶわけでもないし、いやだったら逃げちゃえばいいもんね。というか……、ストーカーは絶対困る!!!


「ありがとうございました!!またのご利用の際は、ご連絡くださいね!!」

「絶対……ない!!!」


めちゃくちゃいい笑顔でドアをすり抜けて帰って行った男性を見送った私は、キッチンにあるソルトポッドを抱え込んで……思いっきり玄関に塩をまいてやった!!! もう……二度と来るんじゃ、ない!!! あとで日本酒買ってきて玄関先に撒いておこう!!!



「え、指導、ですか?」


休みの明けた翌日、部長から呼び出しを受けた、私。なにやらめんどくさそうな、予感が……。


「今度異動してくる細田さんって人ね、ずいぶん…自己肯定力の無い、貧弱な人らしくて。悪いんだけど、原田さんマンツーマンで指導に当たってもらっていいかな?」

「どんな感じの人なんですか、私で大丈夫でしょうか、繊細な森本さんの方がいいんじゃないですか?」


私が新人さんを指導したのは、二年前に一度だけ。割と大雑把な性格である私のもとで、几帳面な新人さんが切れてしまって大問題になった事があってね……。正直、人材教育に自信がないのよね。



「なんかね、すぐにもう駄目だとか、自分ほど不幸な人間はいないとか言うらしくて…とにかく下向きな人なんだそうだよ。君の強引な明るさで、細かいことを気にしない器の大きさで、陰気を吹き飛ばしてやってはくれないか。君が適任なんだよ、助けてやってくれ、頼む。」

「はい、了解です。」


微妙にディスられているような気がしないでもないけど、私は指導を引き受けることにした。


翌週やってきた細田さんは、少々気弱な人ではあったが、聞いていたような、自己肯定力のない、貧弱な、陰気で下向きな感じは……しないぞ???

むしろこう、生き生きとして、それなりに気を使いつつも、ちゃんと笑えているようにしか、見えない。


……ただ、自分がそうであるように、作り笑いとか元気な振りをするのがうまい人ってパターンもあると思うんだよね。


「細田さん、企画部、慣れましたか?異動の緊張が取れて、そろそろ疲れが出てくることだと思うんだけど、無理してません?いやな事とか、気になる人とかいませんか?日常を、楽しむ余裕、あります?」


時折、少し遠くを見る目が……なんとなく、寂しそうに、見えるのが気になっていた私は、就業後のロッカールーム前で声を、かけてみた。

にこりと笑顔を向けるものの、コンマ一秒くらい? 憂いのようなものを、感じてしまうのだな、この人には……気のせいかな……。


「はは、大丈夫ですよ。僕、毎日楽しく暮らしてますし。ごはんおいしいと幸せ感じるタイプだし!ここ、みんなイイ人ばかりですもんね、彼女作る必要もないくらい充実した人間関係が……。」


……ん???


なんか、こう……どっかで、聞いたような、言葉が。


「あの!!! ちょっと、お茶でも、飲んでいきませんか!!!」

「……は、はい?」


まさかね?


自分の売ったウソをね?


買った人が、現れるとはね???



まさかね?



五年ぶりに、彼氏ができることに、なろうとはね???




まさかね?




ステキな旦那様と、幸せな日々が送れるように、なろうとはね???




……思いもしなかったと、言う、お話。

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― 新着の感想 ―
[一言] 嘘が引き寄せた運命。 というか、売った代金というか、ですね。 エイプリルフールから変な人が来ますよねー。ねー。相変わらず。
[良い点] うぎゃl!! 運命だ! [気になる点] >>……うっ!!!わ、若い男性の、な、涙っ!!! 私地味にこういうのに弱くって!!!  まじですかい。こういう方面への理解が弱くてですね。助かりま…
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