戦 【月夜譚No.33】
この戦場を、槍一本で生き抜くと決めた。
この命、惜しいということはない。忠誠を誓った王の為に失うのであれば、本望でさえある。
だが、刃を向けられると、ふと脳裏を過るのだ。自分がいなくなった時、この世界は――残してしまった家族や知人はどうなってしまうのだろうと。
この先、自分がいることで守れるものがあるのかもしれない。未来のことなど分かりはしないが、そう思わずにはいられないのだ。
それに何より、皆に悲しみを残していきたくはないのだ。会うことも話すことも叶わなくなってしまったら、大事な人達に最後に一言も伝えられなくなってしまう。
そんなことになったら、どんなに後悔することだろう。
だから、ここで死ぬわけにはいかないのだ。
旗色の悪くなった自陣に敵兵が流れ込んで、辺りは渾然としている。ともすれば、敵も味方も判らなくなる瞬間がある。
しかし的確に敵を見極め、男は槍を振るう。自分も味方も、これ以上殺されてなるものか。
その双眸には、強い意志の光が宿っていた。