宝の山
「それはあなたの耳の中に」
2014年5月13日ピクシブ投稿作品。
「お前さ、耳かき上手いの?」
達哉がそう聞いてきた。 「どうだろう?」
真未はのんびりと答えた。
「耳が痒いんだけどな」
そういいながら、達哉は耳の中に小指を入れている。
「世の中の女子が、耳かきを身に付けてるとは思うなよ」
「そりゃあ、そうだけどよ…」
沈黙
互いに目を合わせる。
「挑戦してみるぐらいなら」
「おう!」
真未の言葉に、何故か達哉は勝ち誇った顔をした。
「そうか、耳かきをしてくれるのか」
表情もぱぁぁぁと明るい。
「じゃあ、これ使ってくれ」
差し出された耳かき。
「なんかこれ、細いね」
「あぁ、一回これ使うと、他に戻れなくなる!」
「じゃあ…」
「待った!」
「なんでしょう?」
膝枕でお願いします!
付き合ってから、初めての膝枕でもあったので、頭をのせたときの、この柔らかさ。
「ぷにぷにしてる」
「太もも太いのは気にしてるのよ」
何をいってる、むしろそれは誉めている。
左耳から頬の辺りまで、ぷにっとした触感に包まれ、耳かきが始まっていく。
「なあ」
「なぁに?」
「自分の耳かきはどうしてるんだ?」
「自分でしてるよ」
「きちんと取れる?」
「最初は下手くそだったけどね、いたかったわ」
「今は?」
「痛くはないかな」
「ふぅん」
「覚悟はよろしい?」
「お前なら何でもいいよ」
「はいはい…」
「いや、ここはちょっとは照れるところだぞ」
「こっちは慣れない作業でいっぱいいっぱいです」
「…すまん」
自分の耳かきと違いがなんなのかわからないけど、痛くしない、耳鼻科の世話にはならないようにしようと、心の中で目標は定めた。
先程、達哉が小指を入れていた辺りを耳かきでなぞるが、何も出てこない。ということは奥であろう。
「ライト使う?」
「あるの?」
「キーホルダーの奴」
「あっ、あれね」
鍵の束につけられた、小さいLEDライト。
「っていうか、こんなに小さいのか」
真未はあまり機械とかガジェット類は詳しくない。
「それでかなりの光量があってだな、リチウム電池だけでいいんだ」
「ふぅん」
仕様の話をしてもあまり興味はないようだ。
カチ
スイッチを入れると。
「達哉、これは床屋さんに任せた方がいいのではないですか?」
「汚いか?」
「毛が生えてます」
「…」
予想外だったらしく、言葉に困ってるようだ。
「これは痒いんじゃないかな、まあ、耳掃除はするけども、毛はなんだっけ、剃ってもらった方が痒くないかと」
「そんなに生えてるのかよ…」
「無精髭って感じかな」
「…」
「奥の方に色が違うのあるかな…」
奥まで見ようと、角度を変えて覗いている。
「耳かき、嫌になったか?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「なんか嫌そうだったからさ」
「嫌じゃないよ、むしろ任命されたなら頑張ろうと思う」
「そうか…」
それならば何も言うまい。
「達哉の耳はまっすぐだから、ライトあれば簡単かもね」
「じゃあ、お願いする」
「わかった」
手前側から耳かきは初める。
しかし、取り出しても当たりはなく、匙の上には何も乗ってない。
ちょっと深い部分を掃除しようと、さっきよりも奥に入れると。
パラ…
欠片のようなものが匙の上に乗り出した。
こぼれ落ちぬように掬い上げると、気持ちいいのか、頭が軽く動く。
それを見ると、まるで子供をなだめるかのように、頭を撫でて安心させる。
欠片のようや耳垢は、まだ新しいようだった。
しかし、その欠片から見て取れるに、長年耳の中にお住まいの主のようなものがいるのではないかと、推測してしまう。
とりあえず、色が変化してる、古い耳垢まではたどり着かなければ、この耳かきは終われないし、不完全燃焼である。
コリコリ
指では届かない深さになってきた、痒いのはここかもしれないと、耳かきで撫でていくと、竹の耳かきと耳がハーモニーを奏でる。
ピン!
そのハーモニーの終わりは、垢が剥がれることで完結を迎えるのだが。
(色が変わってきたな)
達哉は自分で耳かきをしてるが、あまり上手くはないようだ、明らかに結構な月日が経過してる垢が取り出せたのだから。
「ねぇ」
「なぁんだ?」
うとうと来ていたらしく、寝ぼけるような声である。
「今の痛い?」
「いや、気持ちよかった…」
そういってあくびをした。
「もう、寝ちゃいなさいよ」
「そうする」
そういって、すぐに目を閉じた。
取り残しがないようにと、手すり代わりに、外耳をつつ~と伝って奥まで向かう。
どのぐらいの深さ入れているか、耳かきについてるメモリで確認する。
(ここにモノサシつけた人は天才ね)
三センチまでのメモリがついた細身の耳かきが、現在通販で結構売れてるようです。
「どこまで入れたか、わかりやすい!」
耳かきメモリー、ただいま好評発売中!
「なんか、今、宣伝が入ったような、まあ、いいか」
気にせずに続けよう。
奥の方まで耳かきを入れていくと、それだけでガサリと音がした。
いわゆる宝の山に当たった。
もうここはちょっと動かしただけで、大きくて、色が黒っぽく変化した垢が取れる、取れる。
匙からはみ出した垢が二回も取れるぐらいであった。
これにはさすがに興奮する。
(こんなに大きいの?)
その垢の中には毛も見える、短いことから髪の毛ではなく、耳の中に生えている毛が巻き込まれてるのだろう。
これは楽しい。
取れば取るたびに、取れなくなるのが寂しいぐらいだ。
さすがにこれ以上深くはできないという前に、このような耳かきが出来て、非常に満足するものであった。
「さあ、達哉」
「なんだ?終わったのか?」
「さっさと左耳を出せ」
勢いよく掃除してくれるわ!
左耳は右耳と違って、耳の中を傷つけたらしい垢が出てきた、なんか血が混ざってるっぽいのが、さすがにそういうのが出てきたので
左耳は早々と終わらせたが。
「治ったら、また掃除するから」
そう真未は予約してみたら。
「おう」
「照れてるの?珍しいな」
「うっせーよ」
次の日、達哉は耳かきの話を友人にしたくて、したくてしょうがなかったのでしたが。
「人のデレた話など、へぇ~そうなんだで聞けるほど、俺は人はできてない」
とか言われてしまった。