・pixivいいね54ついてる耳かき小説「瓶の中」
短編からのまとめ。
このモデルになったお店は実在しておりまして、店内だけでドキドキするぞ!
「そろそろ髪を切りにいかなきゃならないんだがな」
頭がボサボサになっている。
「しかし、前に切りにいったところはいやだ」
本当は髪を切るならばあの店があるのだが、地元ではないし、混んでいるのである。
だから飛び込みで行っても、三人は待っていると思われた。
「あそこはカットもシャンプーも完璧なのだがな」
愚痴を言っても仕方がない時に、ここに行ってみたら?といわれた。
「ここにこんな店があったとは…」
本当に近所、一番そばのコンビニから見えるぐらいのところにある理容室である。
「ここがカットもシャンプーもマッサージも耳かきもしてくれて、なおかつ通いやすい価格だというのか」
しかも、腕は理容師の先生を務めるぐらいだという。
「ごめんください」
中に入ると、先客が髪を切っていた、年配の男性である。
「今日はどうしますか?」
「ええっと、髪を、そして眉をお願いします」
そういって、昼夜の寒暖差の調節で羽織っていた上着を脱ぐと。
「どうぞ、こちらへ」
などと用意される。
歴史を感じさせる椅子に座ると、ぎしりと音がしたが、そのままクロスを前にかけられ、首の後ろで結ばれる。
「今日はどうしますか?」
「長さはこれぐらいに…」
指を当てて。
「揃える感じでお願いします」
「わかりました」
奥さんがやってきて、私の頭に細い口のノズルを向ける。
ちゅ~
シャンプーだろうか、でも座ったままである。
ちゅ~
全体にまんべんなくかけ終わると、蒸しタオルをばさりと広げ、頭を包み込み、そのままごしごしと拭き取り始めた。
おじさんがそのあとやってきて、タオルを取り。
「このぐらいね」
そういって、ハサミをあてはじめた。
「普通に切るよりは、整えるだけだから、すきバサミの方がいいかな」
「ではそれで」
正直よくわからないので、お任せした方がいいのではないか?
いつでも私はその方向である。
鏡の前には瓶があって、その瓶には耳かきがさしてある。
これは期待出来るのではないか、そんな気分になったが、残念ながら、今回は耳かきはなかった。
期待させてすまない、まさか、耳かきがないとは思わなかったのである。
しゃきしゃき
髪は丁寧に切られていく、私としては前髪がきちんとしてくれたらどうでもいいところがある。
はっ!
適当にやっていることに対する殺気を今感じた。
すいません、すいません、ちゃんと仕事します、業務日誌をつけてます、問い合わせします。
などと謝っていると。
カシャン
髪を切るのは終わったらしい、熟練の理容師はその手にシェービングのためのブラシを持っている。
しゃしゃしゃ
もしもこの方が、お茶などを修めていたら、結構な腕前であろう、音がリズミカルで、小さい。
そのブラシが髪を切り終えた首の後ろにピタリと当てられ、字でも書くかのように横に一線。
ショリ
カミソリが当てられる。
しかし、それは刃物とは言えないような感触である。
耳かきに目覚めてからは、色々な所で顔そりというものをしてもらった。
下手なところは痛い。
抑える手に力をこめていたり、刃物の鋭さではなく、これまた力で切ろうとするのである。
「いい眉毛をしている」
そういわれた。
「そうですかね?」
よくわからないので聞くと。
「どういう形にする?印象がそれで変わるよ」
残念ながら、この質問にきちんと答えられるわけではなく。
「お任せします」
とだけ伝えると。
「では女らしく」
という方向性で決まった。
女性の方に顔そりをしてもらうと、眉は細く整えないのであるが、何故か男性に頼むと眉は細く、目の形にそうように揃えられる。
耳たぶや、耳の後ろもカミソリで剃られ。
ここで耳かきかなって思ったが、なかったときの気持ちを述べよ。
目の前に、あるですよ、鏡のそばに耳かきが!
そして、全てが終わり、隣にいたお客さんが耳かきをされて、うっとりと気持ちよさそうな顔を見て、店を出たとき。
(次は絶対耳かきな)
心に誓うのである。




