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じゃあ、短くしようかな。

タオルが干し上がった感触を楽しんでいると。

カランカラン

お店に誰か来たようである。

「今いいのか?」

と髪が少し伸びた男性が声をかけてくる。

「何かしら?」

二人は顔馴染みのようだ。彼女がとんとんとサンダルを履いて近づいてくると。

「これな、出張のお土産」

「ありがとう」

地名の名前がついた甘いお菓子を受けとると、くるりと一回り、ふわっとスカートが揺れた、喜びの舞である。

その姿を見ると、ほんわかした。

「前髪も切ってほしいんだが」

「いいわよ」

お菓子を棚に起きながら、返事をする。

「じゃあ、こちらにお座りください」

椅子を回してジャーン!

その椅子に座るとギシッと音がした、もう今では作られていないクラシカルなデザインである。

彼女はカットクロスを広げて、ばさっとかけた。

「短いのも似合うと思うんだけでもね」

ここで髪を触るので、じゃあ、短くしようかなっていいそうになる。その言葉は頑張って飲み込みこんだ、ごっくん!

うねりが出てきた髪にぶらしをかけながら…

「時間は今日はあるの?」

「あるぞ」

「髪を洗ってもいい?」

髪を濡らすのがいちいち面倒だ、さっぱりさせてやる!の心境。

「じゃあ、ヒゲと耳かきも頼む」

シャンプー台に移動。

椅子を倒して、顔の上にはガーゼ。

シャ~

耳のすぐそばでお湯が流れて、湯気があたる。

「熱くないですか?」

「ちょうどいい」

まずはお湯でしっかりと流す、そこから夏にはぴったりな地肌クレンジングを始める。

モミモミ…

「ふぁ」

泡の力で指が頭皮に密着し、その気持ちよさで変な声が出てしまった。

クレンジング剤を流して、髪に優しいシャンプー、髪が長いこともあって、痛んだ部分にもケアできるものを選んでいる。

洗い流したあとに、手櫛の通り具合と毛先をチェックをし、トリートメント、塗り終わるとタオルを巻かれる。

「出張って山?」

「山、涼しくて今の時期はいいぞ、今度一緒に行くか?」

「私は無理よ、店の留守を任されているもの」

答えはわかっているはずなのに、がくんと来てしまう。

「洗い流すわよ」

お湯でよく洗い流して、お疲れ様でしたの声をかけた後タオル、さっきの席に戻る。そこでドライヤーの風をかけられ、前髪を切る。

もう何度もやりとりしているから、わかっているはずなのに。

「お客様、この長さでよろしいでしょうか?」

「ありがとう」

「それではおヒゲを剃らせていただきます」

この時間になると伸びてくる、そこまで気にするものではないが、彼女に剃られるとなると、とてもうれしい。

しかーし、ここで注目するのは彼女がかわいいという当たり前のことだけではないのだ。

髪を切るのが苦手なチビッ子も気に入るほどの接客、気難しいお客もご指名するほど満足な技術を持っていることだけは声を大きくして言いたい。

剃れればいいやと思っていたヒゲ剃りも。

「こうすると家でもきちんとそれるわよ」と教えてくれた。

ちょっとしたこのアドバイスが物凄い上手い、今では教えてもらったやり方でヒゲを剃るぐらいだが、やはり本家はいい。

ショリショリ…

この音は子守唄である。

ずっと聞いていたくなるリズム、睡魔が近づいてくる気配がするのだが。

「そり心地はいかがですか?」

顎をさわって。

「やっぱり上手いな」

これが明日ももちもちキープしてくれるので、カミソリがよくノル。

「じゃあ、耳かきします」

耳かき用の椅子を持ってきた。

そこに座って、始めようとするのだが、この耳かきは最高!

どのぐらい最高というと、この耳かきを思い出したながら、家で耳掃除しちゃうぐらい最高なのである。

まるで見えているような耳かきをする、うんうん、ここねといった感じで、上手いこと探りにくる。

パリ

だいたいこの一回目の音で、深いリラックスモードになった。目もトロンとしてくる、そのまま柔らかい闇に落ちていこうとすると。

「動かないでね」

顎が落ちてきたのを注意された。

つー~

彼女が本気を出す。

耳かきで気持ちのいい部分がどこか知っているのに、なぞってくるのだ。

そして一周してからツン。

ビクッとなった。

しかし耳かきは追ってくる。

まだまだ許しなどはしないといった、結構奥までの耳掃除。

コリコリコリ…

「耳は結構きれいね、自分で掃除できているじゃない」

言えない、思い出してそうじしてますって。

「はい、おしまい!」

「また来るわ」

「お待ちしてます」

涼しく静かな店内から外に出ると、アスファルトから、むわっとした熱気、さっきまでの夢心地から覚めるには十分な暑さが広がっていた。

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