子守歌
あなたの耳にも届いてますか?2012年6月17日、ピクシブ公開。
耳かきをされるのが好きだ。
「それでは耳かきを致します」
髪が切り終わった後のお楽しみが始まる。
ガタン
椅子を上げて、耳かきしやすい高さにしていく。
この理容室は最近通うことに決めた。ちまたに千円カットとか、安いお店もあるんだが、ここに決めた理由は、シャンプーしてくれる、ひげ剃りしてくれる、そして耳かきをしてくれるだ。
実際千円台で、カット・シャンプー・ひげ剃り・耳かきしてくれるお店はある。
私の調べでは、1500円でそれをみんなやってくれるところがあるんだが、それぞれで満足させてくれる腕があるか、それが大事なことだった。
そしたらこの店になった。
今はだいたい検索すれば、値段は出るが、それでも出ない店もあるし、また腕とかも感想だけではイマイチわからないのである。
だから、この店の前を通ったとき、値段が貼ってあった。まあ、これぐらいならいいかなと思った。そしたら、次は腕だ。
店の中は混んでた。
お客さんは本を見ながら待っている。ふと、思ったのは、他にも安い店があるのに、なんでこんなにお客がいるのかな、まあ、試しに入ってみるかという気分だ。
腕が悪かったら、来なければいいし。そんな気楽な気分であったが。
(あれ?)
あんまり外見を気にするタイプではないが、鏡の中の自分を見て思った。
(この人、髪を切ってくれたの姉ちゃんなんだけど、上手くないか?)
カットのつなぎ目が見えない。
鉄板をレーザー使って、曲線に切ったみたいに上手い。
あれ?私の例えおかしい?(高専卒)
とりあえず初めて上手いなと思った。
「お姉さん、髪切るの上手いですね」
ふと、話すつもりはなかったが、誉め言葉が出てしまった。
「あぁ、うちのお店、カットもひげ剃りもシャンプーも耳かきも試験があるんですよ、それ合格しないと、お客さんを相手に出来ないんですよね」
「理容師さんって、みんなそうなの?」
「いえ、うちの店ぐらいじゃないかな、他のお店じゃ聞いたことないもの」そうなのだ。ここはみんなとても素晴らしい技術を持っているのは、試験があるからなのだ!
つまり耳かきも耳かきの試験を突破した、猛者がしてくれる。
「それでは耳かきをします」
前にもしていただいたが、この人妻さんは耳かきが上手い。
耳を摘む。
そうすると耳の中に風が入ってくる。そこを入り口の方から、カサリカサリと耳かきをする。
耳垢が取れているかはわからないが、耳の中を耳かきで撫でられるのがとてもいい、ずっとしてもらいたい。
自分で耳かきをしてもだ、そんなに丁寧ではないだろう。
何しろ直接自分の耳を見ながら、耳掃除をするのは、マイクロスコープでもない限り無理だ。
音だけで判断する。
耳垢に触れると、耳かきの音が違うから、その微妙な音の変化で掃除をするが、それに集中すると疲れるものだ。誰かに任せる、そういう幸せもある。
耳かきを奥に入れて、耳垢をかき出すために、手前側に持って行く。この時の力加減は、耳の中を傷つけないように優しく、しかし垢をはぎ取るように正確に。
ガサガサ
あぁ、耳の中に、耳垢が溜まった部分があるようだ。
森の中、風が枝を揺らすような音がする。
枝についたものを風がみんな奪いに行く、そうするのが一番いいと、私は思う。
ボロ
何かが転げ落ちる音がして、この妄想は終わった。
「とても大きいのが取れたんですよ」
人妻さんが、びっくりして眠りから覚めた私にそういった。
「あぁ、そうなのか」
「終わったらお見せしますか?」
「そうだね、どれぐらいの物があったのか、見たら、もうそんなに溜め込まないようにしたいって思うかもね」
「そうかもしれませんね」
そういって、耳かきはもう一度耳の中へ、そうして私は目をつぶり、耳かきが耳の中で動き回る音を子守歌のように聞いていた。




