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涙目で懇願

普段強気だからこそ、そういう姿を見るのがたまらない。2012年7月15日、ピクシブ公開。

体力が持たないので、日に何度か、ソファーにごろんと寝て、肘をかける部分を枕にしている。

 「おやすみのところ申し訳ありたせん」

 ソファーに寝ている彼女より、何歳か年上であろう男性が、丁寧な口調で話しかけた。

 「なんだよ」

 もう彼はソファーのそばに椅子をを置いて座っていた。

 「これから耳かきをしますので」

 彼女は目つきが悪くなったが、彼の顔を見ないように、そのまま向きを変えたので、彼は手にした耳かきをそのまま彼女の耳に持って行った。

 「昨日、耳の中がカサカサ音がするんだよねと、仰っていたので」

 「そうだよ!」

 何故怒っているのかというと。

 「耳かきぐらい自分でやるよ」

 「えっ、でも私がするよりら下手じゃないですか」

 「そうだけどさ」

 この男とは、子供の頃から約十年ほどの付き合いで、今では社長様になっている。私は逆に体力が昔から無くて、体に負担がかからないように働いていて、何故か未だに、この男は暇を見つけては、この物件の保証人してもそうだ、私は保証人会社に頼むつもりだったが。

 「なる人がいないならば、ともかく、余計なお金を支払う必要はないでしょう?」

 私の意地を正論で片付ける。

 昔はそうじゃなかったのにな。

 なんて思い出していると、耳かきが耳の縁をなぞり始める。

 「後で、マッサージもしますからね」

 耳の垢が、サジに乗らなくなるまで、同じ方向から何度何度もなぞる。

 「じゃあ、中を掃除しますから、痛かったら言ってください」

 「わかったよ」

 普通の人よりも狭い耳の穴だった。だから耳かきを選ばずに掃除をしようとすれば、耳かき自体が中に入っていかない。

 そういえば、耳かきをしてくれるようになったのは、あれか、うちの親が健康保険証が無くなるかもしれないって言った時あたりからかな。

 あの時学校の健診に行けずに、後日病院に行かなければならなくて、健診はお金がかからなかったんだけど、耳垢の溜まりやすさは注意された。

 何しろ耳鼻科が手こずるような耳なのだから。

 普通、耳かきをする時に、手が疲れると、クルリと耳かきを反転させたり、持ち替えたりするのだが、それをやると、耳のどこかに引っかかってしまうので、耳かきを入れたその手のままを維持しなければならないので、難易度が高い。

 (ならば別に、寝転がってやる必要ないんじゃないか?余計に疲れるだけじゃないか?)

 などと考えていると、耳の奥のとある点に触れた。

 ゾク

 鳥肌のような物が立ち。

 そのまま続けられる耳かきに、思わずソファーの生地を握るが、ピンと貼ったソファーだから、握れるもんじゃない、猫のように爪を立てるぐらいしかない。

 「ここが痒くて、しょうがないんですよ。一人でここを耳かきしたい気持ちはわかるんですが、無理に入れちゃって、かさぶた作られても困りますから」

 何回か、この男の目を盗んで、耳かきをしたが、耳せつという、おできが出来てしまった。

 「全く、言えばやってあげるものの」

 耳かきが中から出たタイミングで。

 「誰もやってほしいって、言ってないし」

 反抗的な事を言われたので、カチンと来た。

 「耳かきが終わるのは、まだちょっと、いや、結構かかるので、寝てていいですよ」

 その言葉が終わると同時に始まった耳かきは、とても激しいものだった、言葉通りに寝ていられるものでは全くなく。

 まず今まで耳掃除をしたところをもう一回、薄いかけら一つ残さぬように、耳かきでかきとっていくのだった。

 使っている耳かきは竹製のもので、とても細い、耳かきをされている方としては、かき心地は全然違う。

 「前に、ホテルで髪を切っていただいたときに、理容師さんが使っていたもので、とても良かったんですよね、だから販売先に問い合わせて買いました」

 そこからが社長であるが故にすごい所なのだが。

 「そんなにいいならば、売ったらどうだ?耳かき好きは多いわけだし」

 「それもそうですね」

 今では全国の耳かき好きに、この耳かきの名前も定着してきたらしいけどね。

 この耳かきを販売するか、しないかぐらいの時までは、この男に耳かきをしてもらうのも、しょうがないなって思ったんだが、さすがに自分でするからと、やったら、あんまり上手では無かったことは認めよう。

 「痒いところだけ、耳かきをしてしまって、それ以外がまだ耳垢が残っている」

 耳かきがばれた後に、そういう感想をいただいた。

 ビク!

 そんなまどろみと思い出を覚ますように、耳かきが指では届かぬほど奥にいる。

 「動いちゃ駄目ですよ」

 音もここまで来ると違ってる。

 耳垢が溜まっているせいか、耳かきが動くたびに、嵐のような音がする。

 ザンザン

 屋根を叩く風の音に似ているが。

 ベリー!

 という音とともに、先ほどの騒がしさが嘘のようにシーンとなった。

 「終わりましたよ」

 「…そう」

 「まだ左耳がありますけど」

 「今度にして、さすがに耳かきをするたびに疲れるのはちょっと…」

 「体の方はまだ悪いんですか?」

 「いつも通り悪いよ」

 起き上がった彼女を見て、また痩せたんじゃないかと思った。

 「ちゃんと食べてます?」

 「食べないと、体が保たないよ」

 「あなたの体はどうしたら治るんでしょうね」

 下手にこの質問に答えられない。何しろ何気なく言ったことを、実行しようとするのだ。金を持っているから、なお性質が悪い。

 「別に、お前に何とかしてもらわなくても、何とかするさ」

 反抗的な態度に。

 「やっぱり左耳もしてしまいますか」

 「えっ?」

 今度は逃げにくいように、膝枕で耳かきをされてしまうらしい。

 


 「もう、無理です、許してください」

 涙目で懇願しない限り、それは続いた。

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