表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/55

プリントアウト

絶妙な耳かきとカット。

2012年11月9日、ピクシブ公開。

 東坂綾乃は鏡の前にある椅子に座る、長時間座っても疲れない特注の椅子である。

 バサァ

 白い布を首から下にかけられた。その布をかけた初老の男は、綾乃の首の後ろで布を結び。

 「耳かきに邪魔になりますので、髪を束ねさせていただきます」

 細くて、とてもさわり心地のいい髪を簡単に束ねて。

 「それでは始めさせていただきます」

 「よろしくお願いしま~す」

 男の耳かきは特注品である、竹製品ではあるものの、耳かきに相応しい竹をまず見つけることから始める。

 「あんたも変わってるな」

 寒風が吹き付ける、山の急な斜面に生えているような、強い竹がいい、そういう竹は密度が良くて、案内してもらったキノコ取りの人は呆れながらそういった。

 「いえ、これは性分ですから」

 キノコ取りの人に、帰り散髪を行いたいと言うと。笑いながら快諾してくれた。

 「では」

 どこでも自分の仕事が満足に出きるように、道具は常に傍らに置いているが、これは吟味かれた物だ、こんなに少ない道具でベストパフォーマンスを出すには、もちろん腕がいいということも必要ではある。

 シャンプーは二回、余計な油分を落とし、揃わぬ長さの髪を丁寧にカットしていくが、一切りで長さを揃えていく。

 「このまま、私の切り方でよろしいですか?」

 ただで髪を切ってくれてラッキーとしか思っていなかった、キノコ取りの人も、あまりの腕の良さにびっくりしている。

 「あんまりこういうの、わかんねえから、任せる」

 所々に訛りイントネーションがはいってる。

 「かしこまりました」

 その人の顔の形によって、似合う髪型というのは違う、ツムジの場所で分け目も変わるのだが、それを意識していない人がとても多いのは、残念なのとだ。

 「お待たせいたしました」

 「あんたに切ってもらったら、他の人に切ってもらえねえな」

 髪を切る喜びを始めてわかっていただいたというのは、私にとって最高のご褒美です。


 ガザ

 耳の中で音がした。

 「これは行けませんね、耳かきを失敗して、それがこびりついたものがあるようです」

 「それは私のせいだわ」

 東坂が耳を掃除する上林に言う。

 「市販の耳かきで掃除するには、東坂さんのお耳だと、ちょっと大きすぎるんではないでしょうか?」

 「そうなんだ」

 「はい、とりあえずガサガサの元をお取りします」

 細い、選ばれた竹を使って作られた耳かきはとても細い、竹というのは、弾力があるからこそ、耳かきに向いているが、それでも材料工学的に、ここまでは薄くできるけども、これ以上だと割れてしまう、折れてしまう危険性があるという限界点はある。

 しかし、上林が見つけた竹はその点を楽々クリアしている、もちろんこの材料を見つけるまでが苦難の連続であった。

 己の道具を気に入った物で揃える、腕がある職人でも、そんなのなんで作る必要があるのなんて言われたり、そこまでする必要があるのかと言われたり。

 「あっ、そういえば東坂さん、知ってます?この間聞いたんですけどね」

 東坂が世間話の雑談をする人は結構いるのだが、する相手が一風変わった人ばかりなので、雑談をしても実りが信じれないぐらい大きい。

 「値段は普通より安いお店なんですけどね、そこの理容室、かなり腕がいいんですよ」

 「へぇ、そうなんだ」

 「それでも格安のお店が増えているから、みんなそっち行ってしまうんで、空いているからさ」

 「あなたがそんなに誉めるのならば、一回行ってもいいですね」

 「そこまで東坂さんに言われると、悪くはないね、あっ、そうそう、玉輪くんいるじゃん」

 玉輪くんとは、腕のいい職人が昔作った伝説の耳かきが玉輪といい、その持ち主の湯島という男性が、玉輪くんである。

 「どうかしました?」

 「話聞いたら、私も耳かきしてもらいたくなったよ」

 「いや、あれは一度やってもらった方がいいですって」

 マニアックな会話でした。

 夢見心地の状態はさっきから続いている。あぁ今、私は気持ち良すぎるというのが自覚出きるぐらいだ。

 寝ているんだか、起きているんだか、まるでわからないような。

 東坂が上手く取れずに、ガサガサとこびりついた耳垢を、上林は器用に音と指先の感覚だけで取られて、それを丁寧にかき出す。かきわすれがないかと、その辺りをくるりと耳かきを回しても、ガサガサといった不快な音は聞こえない。

 取るべきところはみんな取り、仕上げに綿棒で拭き取り右耳は完成した。そのまま左耳に移ると、東坂は左が利き腕ではないので、散らかされた垢を手前側から丁寧にとる。

 まるでドリルのように、手前側から螺旋をかいて、奥まで進んでいく。こちらはそんなに垢はないのだけども、耳かきが外耳を這う感じがたまらないのである。

 そして耳の中から耳かきを取り出す前に、必ず耳の中の気持ちのよいところに立ち寄ってから、出るのである。

 「素晴らしい時間でした」

 「満足していただけて、光栄です」 

 その後、東坂は髪を切り揃えられて、上林が東坂の髪質にはこれが合うとセレクトしたシャンプーで洗って、ブローしてもらった。

 (毛艶が違う…)

 最初に撮影した東坂と、髪を切った後、今の写真を比べて見せられ。

 「プリントアウトしてください!」

 思わず東坂は言ったという。

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ