プリントアウト
絶妙な耳かきとカット。
2012年11月9日、ピクシブ公開。
東坂綾乃は鏡の前にある椅子に座る、長時間座っても疲れない特注の椅子である。
バサァ
白い布を首から下にかけられた。その布をかけた初老の男は、綾乃の首の後ろで布を結び。
「耳かきに邪魔になりますので、髪を束ねさせていただきます」
細くて、とてもさわり心地のいい髪を簡単に束ねて。
「それでは始めさせていただきます」
「よろしくお願いしま~す」
男の耳かきは特注品である、竹製品ではあるものの、耳かきに相応しい竹をまず見つけることから始める。
「あんたも変わってるな」
寒風が吹き付ける、山の急な斜面に生えているような、強い竹がいい、そういう竹は密度が良くて、案内してもらったキノコ取りの人は呆れながらそういった。
「いえ、これは性分ですから」
キノコ取りの人に、帰り散髪を行いたいと言うと。笑いながら快諾してくれた。
「では」
どこでも自分の仕事が満足に出きるように、道具は常に傍らに置いているが、これは吟味かれた物だ、こんなに少ない道具でベストパフォーマンスを出すには、もちろん腕がいいということも必要ではある。
シャンプーは二回、余計な油分を落とし、揃わぬ長さの髪を丁寧にカットしていくが、一切りで長さを揃えていく。
「このまま、私の切り方でよろしいですか?」
ただで髪を切ってくれてラッキーとしか思っていなかった、キノコ取りの人も、あまりの腕の良さにびっくりしている。
「あんまりこういうの、わかんねえから、任せる」
所々に訛りイントネーションがはいってる。
「かしこまりました」
その人の顔の形によって、似合う髪型というのは違う、ツムジの場所で分け目も変わるのだが、それを意識していない人がとても多いのは、残念なのとだ。
「お待たせいたしました」
「あんたに切ってもらったら、他の人に切ってもらえねえな」
髪を切る喜びを始めてわかっていただいたというのは、私にとって最高のご褒美です。
ガザ
耳の中で音がした。
「これは行けませんね、耳かきを失敗して、それがこびりついたものがあるようです」
「それは私のせいだわ」
東坂が耳を掃除する上林に言う。
「市販の耳かきで掃除するには、東坂さんのお耳だと、ちょっと大きすぎるんではないでしょうか?」
「そうなんだ」
「はい、とりあえずガサガサの元をお取りします」
細い、選ばれた竹を使って作られた耳かきはとても細い、竹というのは、弾力があるからこそ、耳かきに向いているが、それでも材料工学的に、ここまでは薄くできるけども、これ以上だと割れてしまう、折れてしまう危険性があるという限界点はある。
しかし、上林が見つけた竹はその点を楽々クリアしている、もちろんこの材料を見つけるまでが苦難の連続であった。
己の道具を気に入った物で揃える、腕がある職人でも、そんなのなんで作る必要があるのなんて言われたり、そこまでする必要があるのかと言われたり。
「あっ、そういえば東坂さん、知ってます?この間聞いたんですけどね」
東坂が世間話の雑談をする人は結構いるのだが、する相手が一風変わった人ばかりなので、雑談をしても実りが信じれないぐらい大きい。
「値段は普通より安いお店なんですけどね、そこの理容室、かなり腕がいいんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「それでも格安のお店が増えているから、みんなそっち行ってしまうんで、空いているからさ」
「あなたがそんなに誉めるのならば、一回行ってもいいですね」
「そこまで東坂さんに言われると、悪くはないね、あっ、そうそう、玉輪くんいるじゃん」
玉輪くんとは、腕のいい職人が昔作った伝説の耳かきが玉輪といい、その持ち主の湯島という男性が、玉輪くんである。
「どうかしました?」
「話聞いたら、私も耳かきしてもらいたくなったよ」
「いや、あれは一度やってもらった方がいいですって」
マニアックな会話でした。
夢見心地の状態はさっきから続いている。あぁ今、私は気持ち良すぎるというのが自覚出きるぐらいだ。
寝ているんだか、起きているんだか、まるでわからないような。
東坂が上手く取れずに、ガサガサとこびりついた耳垢を、上林は器用に音と指先の感覚だけで取られて、それを丁寧にかき出す。かきわすれがないかと、その辺りをくるりと耳かきを回しても、ガサガサといった不快な音は聞こえない。
取るべきところはみんな取り、仕上げに綿棒で拭き取り右耳は完成した。そのまま左耳に移ると、東坂は左が利き腕ではないので、散らかされた垢を手前側から丁寧にとる。
まるでドリルのように、手前側から螺旋をかいて、奥まで進んでいく。こちらはそんなに垢はないのだけども、耳かきが外耳を這う感じがたまらないのである。
そして耳の中から耳かきを取り出す前に、必ず耳の中の気持ちのよいところに立ち寄ってから、出るのである。
「素晴らしい時間でした」
「満足していただけて、光栄です」
その後、東坂は髪を切り揃えられて、上林が東坂の髪質にはこれが合うとセレクトしたシャンプーで洗って、ブローしてもらった。
(毛艶が違う…)
最初に撮影した東坂と、髪を切った後、今の写真を比べて見せられ。
「プリントアウトしてください!」
思わず東坂は言ったという。




