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耳の中は宇宙だと思う

「回覧板は回すべきだ」2013年3月30日、ピクシブ公開。

あぁ、ダメだ。

 

 私は魅入られちゃったよ。

 

 たまたま行ったヘアーサロンが、客として行ったわけじゃないんだ。

 「回覧板です」

 近所に出来たサロンに回覧板を私に行ったとき、挨拶がてらに髪を切ってもらうことになったのだ。

 回覧板を持って行くのは私の仕事じゃない、隣に住んでいるおばちゃんが、昨日おばあちゃんが倒れて、病院に行くというので、回覧板を回すことを引き受けただけだ。

 人通りがないところに出来た、新しいサロン。

 普通はこんな所に作らないんじゃないかなと思える所だった。

 「今、時間があるのでしたら、髪を切って行かれませんか?」

 男性スタッフは微笑んだ。

 「えっ、いえ…」

 「お試しってことでいかがですか?よくあるカットモデルですよ」

 ちょうどお金がなくて、服を買おうと思って、1ヶ月髪を切ってなかったので、やってもらったら嬉しいなとは思ったけど、変な髪になるのはいやだな。

 「切りそろえる程度にカットして、耳かきとシェービングもつけますよ」

 耳かきはグッと来た、実は朝、お風呂に入って以来、右耳の奥で、カサっとした音がするのだ。自分で耳かきをしたんだけど、出ないのである、これ以上は危険…といった感じなので、やめておいた。

 プロがしてくれたら、取れるんじゃないかと、とても魅力的な申し込みである。

 カットは1ヶ月、伸びた分だけ切ってもらった。

 「頭の形だと、耳にかかる長さはこれぐらいの方が綺麗ですよ」

 そんなこと初めて言われた。

 「そういうのってあるんですね」

 「ありますよ、自分の一番可愛い、格好いいは知っておいた方がいいですよ」

 「あんまりそういうのは考えたことなかったな」

 「特別なことはしたくても、綺麗になれますよ」

 その一言でグッと来たというのは確かである。

 「お化粧を落としていただけるのなら、エステもいたしますが?」

 BBクリームぐらいは塗っていたので、それぐらいならとエステまでしてもらうことにした。

 「ホテルに勤めていたんですけど、堅苦しかったんですよね、こういうキャラ出すと怒られるし」

 洗顔もしてもらった。

 もっちりとした泡をクシャクシャと立てられ、それが頬にムニリと置かれた、マッサージをするように、化粧は溶けて落とされる。

 「お化粧を落とす時間がきちんと取れないと、肌荒れの原因になったりしますからね」

 うっうっ、見抜かれてる。

 最近、適当にしてるのを…

 元来、肌というのは美しいものである、老廃物、むくみなどのせいで、醜く見えてしまう。だから老廃物を流し、むくみを防止することで、肌はとても美しく、本来の姿を取り戻す。

 (けど、この子はまだ若いからな)

 男性に髪を切られたことがないために、緊張をしていた。しかし、この頃には世間話もはずんでか、腕がいいのもあり、身を任せていた。

 「蒸しタオルを乗せますね」

 おじさんがオシボリで顔を拭く理由が、ここで初めてわかった。

 「緊張してるとさ、毛穴開いてくれないんだよね、まあ、でも初めて髪を切る人に、緊張しない方が珍しいから、苦労の連続なんだよね」

 理容師は苦笑いしながら言った。

 「あっ、知ってる?理容師ってさ、白衣着るんだよ、試験の時」

 公衆衛生の観点からである。

 「同級生でさ、金がないのか、そんなの着たくないかわからないけどさ、着なかったから、それで試験が終わっちゃった奴いるんだよね」

 なので白衣は忘れないように。

 「でも白衣は高いからさ、美容師・理容師になるには大変なんだって、お金がね、すぐ無くなるんだわ」

 「どこの世界も大変ですね」

 「そうそう、まあ、腕がつくまでが一番難易度が高いから、そこから先は自由にやれるから、楽しいよ」

 私もそんな風に思えるようになるのかしら?

 「美容師になるか、理容師になるか迷ったんだけど、耳かきしたくて、理容師になったの」

 「耳かきって理容師にしか出来ないんですか?」

 「最近は可愛い女の子の耳かき屋さん出来たけどね、この間、東京に行ったんだけど、歩いていたら、そういう店の女の子からチラシ渡されたんだけど、高いよね」

 「男の人なら、女の子に耳かきされたいんじゃないですか?」

 「されたいけどさ、そういう人ばっかじゃないっていうか、俺の周りは上手くなきゃ嫌だって人多いかな、やっぱり耳だからさ、んじゃ、お待ちかねの耳かきしましょうか?耳かきは1人でやってる?」

 「はい、してます」

 「任せて!バッチリ、1人では出来ないようなテク見せるから!」

 アルミ製のLEDライトを持ってきた、スタイリッシュだ。

 「色々ライトとか探したんだよね、俺としては折り畳めて、先端にライトがあって、結構強い光でとか欲しいんだけど、なかなかなくて、これで我慢」

 耳かきに巻きつけて使う奴出たらいいのに、何てことを言ってた。

 「俺は本気で思ってる!」

 朝からカサカサ言ってる、右耳から耳かきをされる。

 カサカサ

 多少奥の方に耳かきが入っていったら、耳の中で鳴りだした。

 「鳴ってるね、入ってるね」

 もちろんどんなものかは見れない。

 「テローンってなってる、これはピンセットだね、もちろんちゃんと用意してるから、心配しないで!」

 耳かきの流儀的には、溜まっているところから片付けるらしい。

 「周りから攻めても、いいんだけどさ、なんていうのかな、周りが本命じゃないじゃん?」

 周りを片付けると、本命を取り損なったりするらしい。

 「やっぱり耳かきが終わった後に、見ますか?って聞くから」

 大抵は『是非』と答えるらしい。

 「まあ、もちろん、ないときもあるけど、気持ちも大事、耳かきはテクニックだけじゃないのさ!」

 大きいもの、そのカサカサしたものはビッ!という音で抜かれた。

 「痛くなくて良かったよ、たまにさ、カサブタな時がある、まあ、その時はとる前に色で判断、これは怪しいときは耳鼻科を勧める、いるんだよ、たまに、耳垢を放置プレイしちゃってさ、中耳炎になってる人」

 「中耳炎はなったことないです」

 「いいね、強い耳してるよ、耳の中綺麗だね、普段から掃除してるのかな?綺麗、綺麗、物足りないけど、いい大きさのものはあったから、取る側としては、これで許してやる!って感じ」

 「何ですか、それ」

 「俺の素直な気持ち、最近は耳かきのお客さんも増えているからな、耳かきしてくださいってくるんだけど、そういう人に限って、髪を切りたくて…」

 何かが騒ぐらしい。

 「オシャレしようよ!って、俺の血が騒ぐのよ」

 この人はかなりオシャレだ、白いボタンシャツのボタンがみんな違うとか、一歩間違えば、それはどこで買ったんですか?レベルの服であるが。

 「だからね、世話とか焼いちゃうんだけどね、おおっと、耳かきね」

 耳の中は宇宙だと言う、暗闇の世界で、光が当たって、初めて、どんな形をしているのかがよくわかる。

 「耳かき好きな人は毎日でもしたがるから、だって気持ちいいからね」

 業務用耳かき用品を扱う会社から仕入れた使い捨ての耳かきはとても気持ちがいい、ちなみにこれは後でもらえたりするので、使い捨てらしい。

 「素材は紙なんだけど、これいぐらいするの?って聞かれる、結構安くていいんだよね」

 感触も紙とは思えない。

 「あそこの会社、何でこんなもの作り始めたのかわからないけど、新製品はね、一応買っちゃう、んですごい、これは凄い!を連発してる俺がいる」

 この紙の使い捨て耳かきは表面もザラザラしているので、なかなか取れない耳垢が、耳かきに触れると、引っかかって、今までより簡単に耳垢が取り出せるようだ。

 「1人で耳をかいている時にも結構使える、特許取ればいいのになって思った」

 耳かき愛に溢れる会社らしい。

 耳かきのサジの部分で取れる大きさの垢をみんな取り出し、次は耳かきで軽く耳の中をなで回してから、綿棒を使う、耳かきで撫で回して、ポロポロになった垢が根こそぎ綿棒で拭き取られるといった感じであろうか。

 「右耳終了!と、取ったもの、見るかい?」

 見たい気持ちに負けた。

 「うわぁ」

 自分の中から出たとは思えぬ耳垢。 

 「どう?俺の耳かきすごいでしょう?左も行っちゃう?」

 そのままお願いした。

 このヘアーサロンは、本当に奥まった所にある、回覧板はその時一回だけだったけど、たまに近道する時に、そのヘアーサロンの前を通ると、高そうな車が停まっていたりする。

 あれだけ腕が良ければ、お客さんは不便でもやってくるんだろうな。

 私には別に夢とか目標はないけども、ああいう生き方をしてみたくなった、絶対に面白いと思うから、でも出来ないかもしれない。

 そう思うと、勇気をもらいに行くためにヘアーサロンに行く、髪を切って、産毛を剃ってもらって、耳かきが終わる頃には、何で悩んでいたのか、忘れてしまうからだ。

 「よ~し、頑張ろう」

 まずは部屋の掃除からだと、伸びをしながら私は家に帰ることにしてる。

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