リア充
「仲間入りしました」
2016年1月2日、ピクシブ公開。
ただ付き合っているのと違い、多少は生活を共にすると、色んなことがわかってくるものである。
例えば彼女はリンゴよりミカン派であったり。
「リンゴがミカンみたいに向けるなら、りんごについても考えてあげてもいい」
とか。
果物の入ったゼリーを食べると、幸せそうな顔をするだとかである。
はっ!
ここは自分一人だけではないと気がついた彼女は、表情を戻した。
「うん、美味しい」
いつもの調子で感想を述べる。
「可愛い」
「いいよ、そういうのは」
照れているというか、恥ずかしいと言うか。
先程温泉に行ってきた、温泉というよりは銭湯といった感じか、ここら辺は掘れば適当に温泉が出る地帯なので、娯楽のひとつである。
「ねえ、耳を掃除してよ」
「ダメよ、あっ、でも綿棒ならばいいか」
ぽんぽんぽん
その場を叩いて急かす。
「善は急げ!」
気分が変わってしまっては困るから。
「大丈夫だよ、ちゃんとするからさ」
「膝枕で」
「髪とかちゃんと乾いている?」
そういって先に髪を触って確かめてきた。
「まだちょっと冷たいわね」
そういってドライヤーを当ててくれる。
「サーキュレーターがあるのならば、その前でドライヤーあてると早いんだけども」
ドライヤーだと髪が熱でやられてしまうので、気を付けてブローしなえればならないなどといいながらも、彼女はソファーの下に彼を座らせて、自分は上からドライヤーを当てれるようにソファーに座った。
左手で髪をいじりながら、ドライヤーをあてていく。
彼女の細い指が、髪を絡ませる感触にゾクッとするのである。
ピクッ!
今耳に触った。
指が耳の後ろに当たった程度だが、背筋がくすぐられたかのようであった。
(相変わらずやばい)
正直、彼は彼女にベタぼれなために、後は言わなくてもわかるであろう。
理性が飛ばないブレーキになっているのは、嫌われたくない、それが一番で、二番がたぶん自分のことを軽蔑したくなるあたり。
「やっぱり冬道歩いて来ると、耳冷えているわね」
そういってまるで母親が子供にするかのように、両手で耳を押さえてくれた。
じんわりと熱が伝わり、自然と目を閉じた。
(これがリア充というやつか)
好きな人が出来るとは彼女ができるまで気がつかなかったし、彼女になってくれるとは思わなかった。
(あんまり気がつかないけど、ここぞって言うときに、消極的なんだよな)
どっかに行こうかなどと話していると。
「私はいいわ」
なんて断ることが多い。
でもどこかに行くのが嫌と言うわけではない。
そういう女は普通面倒くさいと思うものなのだが。
彼は違った。
(そういうのも楽しめばいいや)
そんな結論がでた。
「髪を切りにいったら?」
「休みあけにでもいってくる」
「そんなにお髭とか生えないのね」
「そうでもないよ、少ない方だけどもね」
後ろから頬を触ってきた、指が唇に当たってきたの。
ペロリ
「次やったら、もう何もしないわね」
「ごめんなさい」
調子にのって怒られた。
「綿棒ぐらいなら、自分でも出来ると思うんだけども」
「やってもらった方がいい、寝れる」
「寝れるのはわかるけどもね」
彼は膝枕の上にいる。
さわさわ
太ももを撫でてくるので。
「君がそういうお店にいったら、歓迎されないだろうね」
「ご、ごめんなさい」
本日二回目の謝罪。
「手に職でもつけようと、耳かきを習いにいったはいいが、あの業界も世知辛いのよね」
そういって綿棒で耳の外側から拭いていく、ガサガガサとでこぼこな音がして、拭いた後を見ると、綿棒の色が変わっている。
「でもそのお陰で、耳かきとか楽しめるからとってもいい」
「元々、介護の仕事しようかなって思ったんだけどもね」
耳かきを習うといっても様々なやり方がある、ぱっと思い付くのが理、次にそのまま耳かき屋、でも彼女が研修にいったのは、介護であって、入居者の爪を切ることと耳かきなども行うので、研修生同士でやりあった。
「結局は介護の仕事つかなかったしな」
今は産休や育休がきちんととれる職場で、子育てに忙しい人たちの代わりに走り回っているといったところか。
「優良企業だからいいと思うよ、そういうのとても大事だし」
「たまたま声がかかったから、そのまま勤めたけどもね」
「人生は短いとはいえないけども、やりたいことがあるのならばやるといいと思う、我慢していることはないと」
「それは確かにそうね」
言い終わると、綿棒が耳の中をくすぐりながら入ってくるのだ。
「やっぱり耳かきだけだと、細かいのはとれてないわね」
「気持ちいい~」
リラックスしてしまう。
ゴソ!
ちょうど窪みに綿棒が入る、そこをくるりと動かすと。
「あらあら、こんなに大きいのどこに入っていたのかしら」
枯葉のような色をした耳垢が、綿棒にぷら~んと下がっているではないか。
「この間、結構綺麗にしたはずなんだけどもな」
そういって指はさわさわと耳をくすぐってくるのだった。
(絶対、これ楽しんでるでしょ)
そうは思っても口に出さないのは、自分もそういうのを楽しんでいるからであった。




