香り
「見えないので鼻だけが利いてくる」
2015年4月17日ピクシブ公開。
ルール
アイマスクをして、横になって待機。
誰かが自分の耳を掃除するが、こちらからは会話をしてはならない。
ドキドキして待つことになる。
さぁ、誰が来るのだろう。
キィー
誰かが部屋に入ってきた。
バタン
ドアが閉まり。
カチャン
鍵を閉めた。
近づいてくる気配がする。
スッ
音からすぐそばに座ったのであろうということがわかった。
ピタッ
耳に手を触れると、手はとても冷たかったので、少々のけぞってしまった。
つ~
指が、細い指が耳の窪みを撫でて。
ズボッ!
耳の穴の中に入ってくるので、またそこでびくっとなった。
柔らかい花の匂いのような、いい匂いがする。
膝小僧が後頭部に当たっていたので、そのままちょっと無理な体制ではあるが、膝の上に頭を乗せにいく。
柔らかい…
太ももの間に天上を見るような形で頭を乗せているが、もちろん目隠しをしているので、見えない。
すぐにさわさわと、耳の穴を触ってきたので、横を向くことにする。
耳たぶを引っ張られた。
耳の穴を広げられ、奥を覗かれているようであった。
しばらくもしないうちに、肩の辺りにタオルのようなものがかけられた。
シュシュ
ティッシュペーパーを抜く音がする。
もういつ耳かきが始まってもおかしくはない。
カリカリ
耳の窪みを耳かきが撫でてきた。
その後に引っ掻けるような動き、垢がとれているようだ。
そこを何回か往復した後、耳の中の、そりゃあもう敏感な産毛が生えている場所を耳かきがさわってくる。
「あっ、そこは…」
思わず手を口にあてて、身をこわばらせ我慢する。
しかし、それは許さぬと、もう一度その気持ちのいい場所を触るのである。
こりこり…
しかも、さっきとは違い、あきらかにわざと、狙うように円の動きであった。
(ドsだな)
気持ちがいいとわかってるからこそ、やるのである。
単純に問題としては羞恥心ぐらいか、後は急に動いた際に、耳のなかを傷つけてしまうであろう事故ぐらい。
頭の位置が動いたので、直しに来る、手もきちんと耳に添えられてくる。
手は小さい、指も細く、冷え性であった。
そして何より、耳かきは上手い。
本業の人なのかなと、それこそ理容業の免許をお持ちの方ぐらい、いや、もっというと、この間耳掃除してくれたお店の人よりは遥かに上手いと思われる。
まず耳がどうなっているのかわかっている、これが大きい。
初めて掃除する耳なのに、どこを掃除すればいいのか、手際がいいのである。
手前側からきちんと片付けて、奥に進んでいくのだが、途中で必ず、どこが気持ちいいのが探りを入れに来る。
むしろ、探れ、ドンと来い!こっちはそんな調子なのだが、今までそういうことをしてくれるタイプはいなかった。
カリカリ
そして、こちらが気持ちいいポイントを見つけると、そこを重点的に責めてくるが、もっとほしい前にやめるのである。
それを何回か繰り返せば、汗ばみもする。
何度足を組み替えたかわからぬ、声を我慢したかわからぬ、しかし、これの数を数えるのは野暮というものだ。
この時間が素晴らしいわけだから。
「ふぅ~」
楽しい時間は過ぎ去り、最寄りのコンビニで、水分補給の買い物をした。
コンビニの前で、ごくごくと飲んで、一息ついたその時に。
さっき自分を惑わした香りが漂った。
すぐに香りの主を探してみるも、雑踏の中に紛れて、誰なのかわからない。
せめて香りの正体だけでもわかるのならば、悶々とした気持ちの整理ぐらいは出来たであろう。
きっと先程自分の痴態をさらした相手は、こんな人ではないだろうかなどと、しばらくの間、妄想ばかりが膨らんでいくのであった。




