九曲目
「僕は主に音楽関係のステージをプロデュースする仕事をしています」
私の乗った車椅子を押しながら、自分のことを話してくれているのは、目覚めた時に側にいてくれた男性だ。
「かっこいいですね」
「まだ駆け出しですけどね」
にっこり笑った時に目に皺が出来る彼の顔は、知らない人なのに知っている誰かを思い起こさせる。
「あの」
「はい?」
「私に、メッセージカードをくれたのはあなたですか?」
私が一番、気になっていたこと。
「あ...えぇ、その、毎日それを読んで、枕元に。声は届くと、聞いたことがあったので」
少し照れた声が頭上から降ってくる。今、私が上を向いたら、彼は更に照れるだろうか?
「私、読んでました。毎日、夢の中で」
「なんだか恥ずかしいですね」
「色々お聞きしたい事があります」
「何でしょう?」
きゅ、っと、車椅子が止まった。
「まず、あなたは何故私を知っているのですか?」
「父の店で、見かけた事があるんです」
「え...?」
それは、予想外の告白だった。
「貴女は幸せそうな顔でオルゴールを聴きながら無意識に曲を口ずさんでいました。そんな貴女の声に惹かれたんです。失礼ながら着ていた制服から貴女のことを調べました」
「あ、あの!!」
「はい?」
「あなたのお父さんって...」
まさか!!まさか!!!!
「そうです。貴女の通っていた雑貨屋の店主ですよ。貴女が目覚めるひと月ほど前に、病気で他界しましたが」
「え.....」
た、かい....?亡くなったってこと....?
「僕よりきっと父の方が貴女に会いたかったと思います。だから、というわけでもないんですが、父がどうしても貴女にプレゼントしたいと言っていたオルゴールを、父が亡くなったあと枕元で流したことがあるんですよ」
「あっ....あの!夢の中でも、お店に行ってたんです」
「そんなに想っていただけて、父が聞いたら喜びますね。そんなわけでこのオルゴール、貰ってくれませんか?」
彼がポケットから取り出したのは、白い小さなオルゴールだった。
夢の中で聴いた、愛の挨拶が流れてくる、あの、優しいオルゴール。
「えっ....」
「父との約束なんです。貴女に渡すと」
そうだ。
笑った時、あの男性の目にも皺が出来ていた。
そうか。だから、彼を見たとき懐かしかったんだ。
嬉しさと寂しさが混じって、私の目からは涙が溢れていた。
「......ありがとう、ございますっ....」