表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2



 三月二十六日、土曜日。新たな年度を気持ち良く迎えるための、休日を利用した大掃除の最中だった。服の整理を最初に終わらせ、本棚の整理をしている。すると、昔好きだった小説の間から、懐かしい写真が出てきた。

 写真に写る自分を見て、懐かしいやらおかしいやらで、少し笑いが零れた。それが少し乾きを含んでいたのは、僕にちゃんと心があるからなんだろう。

 写真には、4年前の自分が写っていた。

 被写体の名前は、喜納明日。読みは『キノウアシタ』と読む。彼は大分県出身福岡県在住の二十一歳。職業は大学生で、性別は男だ。ああ、写真の胸はパッドね。

 この写真の撮影者は、喜納杏子。被写体の彼――つまり僕――には杏ねぇ、と呼ばれていた、2つ年上の姉である。 「懐かしいなぁ」思えば、これが俺の大学生活で一番大きなイベントだった。 『カシィ!』

 突然の音に驚いて振り向くと、そこには愛用のコンデジを向けた、姉が立っていた。 『カシィ』振り向いた瞬間、またシャッターが切られていた。 「おったんや。杏ねぇ」

 いないと思っていた姉の存在に音よりも驚いたが、ここは姉のアパートだ。別段、おかしいことではなかった。姉の部屋にはよく出入りしている僕がいることも、おかしいことではない。もっとも最近は避けていたから、久しぶりに来たのだけれど。

「……うん。撮っといてなんだけど、どうしたの?」

 いつも勝気な姉が、珍しく戸惑っていた。

「んー。どう? 似てる?」

 両手を広げて、杏ねぇによく見せてみた。

「これだけ近かったらわかるけど、遠目だとわからないんじゃない。いや、似てるけどさ」

 まだ戸惑いながらも応える姉。まぁ、よく似ているとは言われるが、双子でもなし。駄目なミステリのような、入れ替わりが出来るほどではないようだ。そもそも僕の方が、少しは身長が高い。

「たまにはこういうのもいいかなって。女装美男子は好きでしょ?」

 気にせず続ける僕。

「んー。いや、好きだけど。なんか今日のはわたしに近づけてるのが丸わかりで、ちょいきしょいって」

 それにアシタが自分からそういう格好するなんて珍しいし、と加えた。

 一応、いつものメイクも髪も、杏ねぇと似ないように気を使ってたからね。そう答えながら、姉へと歩みよる。

 僕がすぐ近くまで来ると、彼女はまだ困惑していたが、体を固くしつつ一歩だけ歩みよった。

 そして、二人はキスをした。浅いものから、徐々に深いものへ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ