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衝動はヴィーナス  作者: ひがしりっか
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きらめき

「みやびさんはかわいいから分かんないよ…」絶望みたいな、諦めみたいな顔して黒鉄君はつぶやく。愛されてたいんでしょ?綺麗だもん、簡単じゃん。続けられた言葉にカッとなってわたしは言い返してしまった。

「黒鉄君は愛されてるから分かんないんだよ!…もういいよ」

涙がぼろぼろ零れてきそうで、わたしは回れ右してしまった。体は熱くて、この場から去れって命令する。結局そのまま走り出してしまった。

あーあ、一緒に走るのとかすごく楽しかったのに。何となく始まった、わたしが自転車で先を行き、彼がひたすら走る30分。ぐだぐだなわたしをきらきらの笑顔で見つめてくる黒鉄君。軽快なリズムでわたしのおふざけに突っ込んでくる黒鉄君。

わたしは彼が羨ましくなってしまったんだ。わたしの欲しいものを彼は自然に手に入れられる。黒鉄君は愛されている。輪の中心ではなくてもみんなが彼を好きでいる。友達にも、家族にも。わたしみたいに無理やり愛して!ってしなくても。

嘘でも無理やりでもその場限りでもいい、ここに居て良いんだって証明が欲しかった。だからだいすきだよって言われるのは誰でも良かった。そうだったはずなのに。黒鉄君はあの言葉を言う時、違う星の物を見るような表情をするようになった。まるで眼鏡を外して遠くを見るように。彼のそんなだいすきだよ、はなぜだかいらなかった。

寂しいよって指がスマホの画面を滑っていく。最近の悪い習慣。でももういいや、知られてるし。黒鉄君はわたしに幻滅してどこかに行ってしまって、わたしは今より先のステップを別の人と進んでいくんだろう。今日はご飯だけで済むかな。

嫌に明るい音楽がかかっている駅前では、まともに本も読めなかった。待ち合わせているのは隣のクラスの男の子。カラオケしてもご飯を食べても手を繋がれても、ずっとずっと寂しかった。

家に帰るエレベーターの空調が、わたしの前髪をふわりとかきあげる。伸びてきちゃったな。…伸ばしちゃおうかな、前のわたしに戻りたい。「可愛い」わたしをみんなが見つめてくれるようになった。全部黒鉄君のせいだ。前髪を切って、スカートを巻かせて。わたしに触る時の崇拝するような、真剣な目をわたしは雪の日の太陽みたいに思った。鈍くて重いのに眩しいきらめき。ランニング後の水分補給さえなければ、あんなことにならなかったのに。わたしだってお母さんに用意された水筒でお茶を飲んだりしたかった。そういうところも含めて彼はわたしにとって届かない光だった。

綺麗だから、可愛いからってお姫様にはなれないんだよってもう伝えられない言葉が、口から溢れてしまった。


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