3章 西から東へ掘り進め ブラック企業の研修にて 田中の章
ヒロはマスコミ志望。面接は上手くいくのか?
昨日一晩は宿舎の寮で泥のように寝てしまった。枕が普段と違って首が少し痛いが。それ以上に非日常を体験して疲れがどっと出てしまった。
大坪は上手くやっているのだろうか。友達はできたのだろうか。まあきっと上手くやっているだろう。
朝食を食べながら、そんなことを考えていた。
隣に座ったメガネの真面目そうな奴と簡単な会話をした。
彼は名門中学の出であったが、コミュニケーションが苦手なようで、終始会話の主導権を俺が握っていた。彼のようなタイプは社会でつまずくことも多いようだ。机の上の勉強と実社会のサバイバルは違う。俺は自分でゆうのも何だが、そういった嗅覚には自信があった。女とのセックスもそうだし、テストの点より教師に胡麻をするのは得意だったから成績は比較的良かった。こうゆうタイプはストリートスマートという。ストリートスマートとは実生活で役立つ考え方や行動ができる人間だ。そんなことを朝食のシリアルを食べながら考えていた。
この世界。キッザニアは机の上の勉強ではない。生きるための力、システムを理解する力そういったものが問われる。ある意味中学校より遙かにタフな環境といえる。ストリートスマートかどうかが試される。昨日周りを見回した感じだと、それに気が付いている勘のいい奴はいないように見えた。
上手く立ち回れば、このキッザニアの世界で上の方まで行けるのではないだろうか。そう感じた。この世界で生き残るには一日も早く、この世界の仕組みを理解する必要があるように感じた。その仕組みさえわかれば行動は、おのずと決まってくる。今日からは、それに注意を集中しよう。
食堂から部屋に戻って制服に着替えた。制服は中学の夏物のままだ。制服や背広は仕事が決まってから着ることになる。今日は面接がある。これでつく仕事がほぼ決まる。小さなミスが無いように注意深いコーディネータのように鏡をチェックする。大丈夫だ問題ない。
面接官も同じ中学生だが、気を抜けない、今日一日で今後3か月が決まってしまうこともある。だから今日は特別なのだ。忘れ物の無いのを確かめて僕は家を出た。
ビジネスエリアにある採用センターについた。昨日集まった学生が来ていた。皆、今日が大事な一日であると気づいている。
大坪は、すでに来ていて昨日知り合った女子と話していた。背の低い、丸顔の可愛い女の子だ。いい機会だからお近づきになりたいな。
「よう大坪。もう知り合いが出来たのか?」
すこしびっくりしたようだが、すぐに俺に気が付いた。
「あら、あんた生きてたの?」
「釣れないなあ。そっちの子はだれ?」
「私たちと同じ公立出身で、接客業志望なんだって」
「島村れなといいます。よろしくお願いします。」
「よろしく。」
「ところで大坪は企業は決まったのか。」
「一応公務員だけど、人気あるから入れるかどうか。」
「なるほどな、島村さんは?」
「はい、公共の仕事をしたいなと思います。」
なるほど、保守系のの女子か
「俺は広告代理店だな。第三希望まであるけど大手の便通にはいりたいな」
時間だそろそろセンターに入るか。3人はセンターの中に入っていた。
センターでは面接についての説明を受けた。業種ごとに面接を受ける。一人20分。3か月で最も大事な20分間。上手くいくといいのだが。
「面接うまくいくといいな」
「大丈夫でしょ。アンタ面接上手そうだし。口が達者だから」
大坪が軽い嫌味混じりに言う
「大坪もルックスがいいから面接官が好感をもってくれるだろう」
面接において顔は大切だ。ある大学の研究によると写真だけの履歴書と写真と履歴書のセットを100枚ずつ用意して、仕事をしたい5人をえらばせたという。そうしたところどちらも同じ5人が選ばれたそうだ。つまり文章は読んでいるけど結局は見た目で選んでいるということだ。マスコミのアナウンサーはもちろん一般企業もそういった傾向がある。これは広告代理店で働く親父の受け売りだ。
面接においてルックスは大きなアドバンテージになる。
センターのロビーで集まったところに、スーツを着た職員がやってきた。無論中学生だ。
「面接を受ける皆さんこちらにどうぞ。」
受験生が彼のもとに集まる
「これから皆さんには面接を受けてもらいます。」
「3人で受ける集団面接です。30分程度です。皆さんお呼びしたら部屋にノックして入ってください。」
いわゆるグループ面接というやつだ。最初に質問をされなければ、回答者が話している時間考える時間が与えられる。一人面接よりは幾分くみしやすいと思う。
しばらく、椅子に座って自己PRとか志望をまとめていこう。
「面接の話すこと考えた。」
誰かとおもったら大坪だった。
「まあ大体考えた。」
ルックスレベル高いな。背は低いが髪が茶色で可愛らしい
「昨日同じ列車で知り合った。島村さん。私たちと同じ公立中学」
笑顔を投げかけてきた。俺も愛そう笑いで返答する。
「島村さんよろしく。お互い頑張ろう」
そろそろ自分の番だ。
「田中さん部屋に入ってください」
職員が呼んだ。
「今行きます。」
すでに面接室の前には2人が並んでいて面接が始まるのを待っていた。
「それではノックして入ってください。」
職員に言われて先頭の学生がノックする。
「どうぞお入りください」
中から面接官が返事をした。
「失礼します。」
ドアを開け3人が部屋の中央のイスに並ぶ。
一人がイスに座る。
マヌケ。面接官がおかけくださいというまで待つんだよ。素人が。
「どうぞおかけください」
俺と、もう一人も腰掛ける。
ここで真ん中の座った彼女は失点で動揺してるな。
「今日は、ありのままの皆さんでリラックスして面接してください。」
中央のメガネの面接官が穏やかに話す。無論俺たちと同じ中学生だ。
「右の方から、簡単な自己PRをお願いします。」
俺は一番左だ。右の男が話し出した。
「わっ私は中学で将棋部で副部長をしておりまして、その時に培ったコミュニケーション能力を生かしていきたいと思います。それから学業の方では・・・。」
退屈なPRが2分続いた。思わずあくびしそうだった。
隣のフライング着席の彼女は意味不明な自己PRをし、次に俺の番になった。
「私はサッカー部で3年ではないですがレギュラーとして活躍しています」
嘘だ、レギュラーどころかベンチにも入れないこともある。
「そのサッカーを通じて仲間と協力して勝利する喜びや精神的なタフさを身に着けてきました。」
うちのサッカー部は弱く、精神的にタフになることもない。口から出まかせにもほどがある。
「このサッカー部で培ったタフさや精神力を生かしていきたいと思います。」
一般的に体育会系は就活で有利だ、適当な部活生活をふんだんに生かした。
「生徒会活動では保健委員の書記を務め責任感を持って仕事にあたり・・・。」
実際はでたりでなかったり。責任感??そんなものはない。
そうして、嘘9割の自己PRが終了した。
面接官は俺の自信たっぷりの演技を信じたようだ。うなずきながらメモしている。
「次に田中さんから志望業界と志望理由をお願いします。」
質問は不公平にならないようにランダムにスタートする
「はい、私は広告代理店などのマスコミ志望です。理由は父がマスコミで働いており、その仕事ぶりをじかに聞き世の中を動かすダイナミックさに惹かれました。加えてサッカー部で培ったタフさを試せることも魅力です。自分の能力をどこまで発揮できるか試したいのです。」
面接官は首を縦に振って面接を聴いていた。勿論、入りたいのは、可愛い女の子と合コンしたいからで仕事内容に興味はない。マスコミはモテルこれは社会の常識だ。
「田中さんは広告代理店の仕事を知っていますか。」
「はい、部署によって違うと思いますが、営業がメインだと思います。クライアントの要求にこたえられるようにアイディアを出したり、他のメディアとも連携したりして売り上げに貢献する仕事だと思います。」
父親の受け売りだ。合コンはモデル、女子大生、OL一通り経験したと聞いた。
他の受験者にも同じような質問があり、それぞれ答えていたが、しどろもどろで、正直自分の受け答えが一番良かった。彼らはいい中学の出だったが。面接はコミュ力が物いう世界。
俺が一枚上手だった。
「皆さんお疲れさまでした。今日の夕方、職業体験の先を書いた書類を寮にお送りします。」
その日のうちにわかるらしい。
俺たち3人は面接会場を後にした。今日という1日が終わった。結果は寮に帰ってコーラでも飲みながら待つことにしよう。
昼になった、5月にしては暑い一日だった。
商業エリアのカラオケで発散して、普段着を追加した。寮についたのは夕方になってしまっていた。もう結果はついているのだろうか。
寮に入ると自分のポストに選考結果と書かれた封筒が入っていた。その場で封を切り結果を確認した。
中にはこう書いてあった。
「厳正な審査の結果 あなたは 広告代理店 便通で就業することが決まりましたのでここにお知らせいたします。なお、詳しい手続きは明日所定の場所にて行ってください。」」
思わずガッツポーズした。よっしししっしやああああああ。
これで俺も便通マンだ。
食堂に入ると皆今日の面接の結果で、もちきりだった。一緒の食卓の奴は公務員(裁判所)
新聞社、アパレルと色々なところに入っていた。
俺が大手広告代理店に内定したことにエリートの連中は驚いていた。公立高校の学生がマスコミに入れることは殆どないようだ。
自慢じゃないが女の子を口説くのと面接はそんなに変わらない。彼らは勉強はできるかもしれないが、面接ではコミュ力が重視される。男子校の奴なんて女の子と話すだけでビクビクするやつもいる。勉強と恋愛は別物ではない。女を求めていく中で学んでいけることもある。そのことに彼らは気が付いていない。
恋愛することもまた勉強なのだ
今回の面接で結果を出せたことは自信になった。今まで女を抱く中で社会の仕組みに手が届いている実感は薄々とあった。今回の結果を通して確信になった。
大事なのはバランスだ。勉強やスポーツ、恋愛、を偏らずにバランスをとってあげていく。これが成功する秘訣なのだと思う。
もし俺が名門高校の奴を蹴散らせるとしたらそこなのだ。恋愛を通じて培ったコミュ力。気が付いた社会の仕組み。これが公立の俺の武器なのだ。
机の上でなく実生活を通じて得た学び。ストリートのサバイバル法。ストリートスマート。
俺はストリートを極めていこうと思う。今日の情報交換もほどほどに俺は自分の部屋に帰った。
そして、ベッドに寝そべり通知を確認した。
便通に決まりました・・・。か。
自信はあったが実際に受かるのは、やはりうれしい。
これで、モデルや可愛い子と合コン三昧でモテモテだな。勝ち組。いい響きだ。明日からの実習が楽しみだ。
スマホを見ると大坪から着信が入っていた。早速かけなおす。
「もしもし、どうした?」
大坪は少し沈黙したようだった。
「あー田中?結果どうだった」
やっぱり気になるんだな
「受かったよマスコミ。そっちは?」
確か公務員志望だったか
「公務員だめだった。飲食。すごいね。便通?」
少し残念そうだったが、明るい感じだった。すこし我慢しているのだろうか。
「ああ、ラッキーだったよ」
「今日はお疲れ。明日から忙しくなるけどお互い頑張ろう。連絡は気軽にしてくれ。」
そういって電話をきった。
彼女は公務員志望だったが飲食は意外とあっているかもしれない。飲食の子は可
愛い子多いからな。合コンにでも誘おうかな。
そういえば、あの小柄な子。島村はどうだったのかな。聞けばよかったが、まあ今度でいいだろう。
明日からいよいよ俺も広告マンか。バリバリ働いて、バリバリ遊んで人生を充実させるぞ。
今日は、素晴らしい日だった。だから、このいい気分のまま寝よう。もう9時を回った。少し早いが安心したら急に眠気が来た。
明日も1日張り切ってこう。