4th.海と櫻貝
それから私達は三年生になりまた同じクラスになった。
由利も一緒なのは嬉しかったが三年生ということで皆勉強で忙しくなった。
遠藤と同じクラスでも進路も違い話さなくなった。
近くて、遠い距離。
そんな中三年生最後行事がある。
十二月の中旬に行われる鎌倉班別行動。
遠藤となりたくて、勇気を出してみた。
「え、遠藤。
一緒の班にならない?」
この時の私はすごく変だったと思う。
けど、頑張ってみた。
「いいよ、島田にも言っておく」
返事と一緒に返ってきた笑顔は暖かかった。
言って、よかった。
順調に計画を進めていき、私達は“時代の歴史を体験する”というテーマで行動することになった。
前もって行く場所をインターネットや本を使って調べ、その日一日は班で行動する。
お土産は駄目でおみくじのみ買ってもいい。
今まで進めてきた計画をもとに今日私達は鎌倉に来ていた。
地図を持って調べた目的地まで行くというのは子供みたいだけど楽しかった。
お昼はイタリアンレストラン。
頼んだミートソース、彼は明太子スパゲティだった。
また一つ知った、彼の事。
デザートで頼んだのは皆同じマロンタルト。
正面で顔を見合わせて笑った。
楽しい、楽しいよ。
私は地図を持って、彼はデジカメを持って。
二人で一般道を歩けるなんて夢みたい。
なんか、デートみたい。
思わず頬が緩む。
一通りまわり終えると思ったより時間が残ってしまった。
だったら海行きたかったな。
計画を進めている時見学地のなかに海をいれたら先生に却下された。
授業の一貫として行くから。
でもせっかくなら海に行きたかった。
「海、行くか」
後ろにいる島田と由利にも聞こえるぐらいの大きさで彼は言った。
「でも…」
先生に怒られるんじゃ…。
「海、行きたいんだろ?」
空でさんさんと輝く太陽のような笑顔をくれた。
「うちらはバレないように何か言われたら言っておいてあげるから湊ちゃん遠藤と行ってきなよ」
由利も言ってくれた。
「うん、皆ありがとう」
島田と由利に手を振ると私と遠藤は抜け出した。
海に向かおうと住宅地に入る。
「あ、松本見てみろよ」
上を見ながらデジカメを構える。
カシャ
その音と共に飛んでいく一羽の大きな鳥。
「わぁ」
「たぶん鷹かな」
子供のような顔をしながら満足にうなずく彼。
触れる肩が想いを募らせた。
ずいぶん奥に進んでいくと広がる光景。
灰色に染まった砂浜。
その灰色に染まる青い海。
キラキラ光るその景色を見ながら目を輝かせた。
「綺麗…」
銀色の空と同化している青。
いや、蒼。
感嘆の言葉を呟く私に彼は柔らかく微笑んだ。
「来れて、良かったな」
「そうだ記念に貝殻拾わなきゃ」
一人はしゃいで柔らかい砂浜に足を埋める。
砂浜に駆け込む私の正面で彼もしゃがんだ。
冬の海は風寒かったけど頬は熱かった。
大好きな人と、二人きりで海にいる。
それだけが幸せ過ぎて。
私が笑って君も笑う。
「はい」
目の前に差し出された薄いピンク色の綺麗な貝殻。
「すごいキレイ!」
わぁと受け取ると私の大好きな笑みを浮かべた。
「櫻貝って言って綺麗だけど割れやすくて珍しいんだ」
エッヘンと満足そうに言う彼がすごく可愛かった。
「───ありがとう」
素直に、言えた一言。
私の手のひらに乗る櫻貝。
太陽に照らされて輝く姿はまるで遠藤の笑顔みたいだった。
本当に、大好き。
今告白したら私達はどうなるのかな。
何か、変わるのかな。
もうこうやって二人でいられなくなっちゃうのかな。
幸せ過ぎて、怖かった。
君を無くしたくなくて。
自分の気持ちを押し殺した。
神様、付き合いたいなんてわがまま言わないからお願い。
もう少し、
もう少しだけ彼の隣にいさせて。
彼の笑顔を私だけにください。