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3rd.願い




皆が願い紙に書いている。




今日は七夕。




学校では生徒会が昇降口で短冊に願いを書いてそれを笹の葉に付けるというイベントを毎年行っている。




笹の葉は取り付けられている短冊と共に静かに揺れる。




私の手にも黒い字で願い事を書いた薄いピンク色の短冊が握られている。




私の願いは一つ。




“皆の想いが届きますように”




小さな紙に託した小さな願い。


別に遠藤が美波ちゃんと別れて私の想いが届いて欲しくて書いたわけではない。




ただ皆が私と同じ想いになって欲しくないから。




あんなツラい想いして欲しくなくて…。




「遠藤と美波ちゃん別れたって」




どこかしらからまわってきたウワサ。




私の席に由利が来た。




「今本人に聞いたらやっぱり別れたって」




私は喜びも悲しみも感じなかった。




他人事のように感じてしまう。




だって昨日散々美波ちゃんは彼の話を隣のクラスの子としてたから。




“まさか?”って感じ。




そんな虫の良い話し、信じられなかった。




「なんか少し前から美波ちゃん先輩と付き合ってるらしくて別れたのってあんまり最近の事じゃないみたい」




ってこともしかして昨日美波ちゃんが話していた“彼”はその先輩の話だったの?




抱いてしまった期待に心は踊る。




まだ、好きでいてもいいですか?




また私の心は色付き始めた。




私の中心はいつだって君でした。




「今日生徒会長引きそうだから先帰ってて」




部活の終わった後由利のところに行くとそう言われ一人昇降口に向かった。




人がいない下駄箱で床に響くローファーの音が私を孤独にさせる。




「雨だ…」




こういう淋しい時に限って空は静かに地を濡らす。




深呼吸して傘を差した。




私が一人なのは空のせいじゃないから。




学校の前に流れる川は雨のせいで水面が上がっている。




普段は聴こえない自然の囁きに耳を澄ました。




「松本じゃん」




優しい優しい君の声。




「遠藤…」




横にある彼の顔に心臓が働き始める。




私の隣に彼がいて、一緒に帰ってる。




「今日一人なの?」




…一人なんて久しぶりだからな。




「うん、由利が生徒会だから」




淋しいのがバレないように自然に返す。




何で遠藤は声をかけてきてくれたんだろう。




「松本が淋しそうに見えたから」




口を開く前に彼が言った。




まだ、聞いてないよ?




なんで君には伝わるの?




淋しいって思ってたことも江口には見透かされちゃうんだね。




嬉しくて頬が緩む。




いつもは憂鬱な雨も、好きと思えたんだ…。




掃除はいつもホームルーム前にやる。




でも今日はいつもと違ってワックスやらクレンザーやらが用意されている。




そう、今日は“大掃除”の日。




それぞれが担当のところに行き念入りに掃除をするのだが私の班は階段なのですぐに終わってしまった。




大掃除の時間は決められているのでホームルームまでヒマになる。




由利のところにでも行くか。




立ってても仕方ないので由利の掃除場所の被服室に向かった。




被服室は今来週行われる体育祭のスローガンポスターが保管してあった。




「あ、これって…」




書いてあるスローガンは私のだった。




友達と遊び半分で出したスローガン。




“皆の笑顔と君の想いを胸に走り抜け”




ありきたりなのしか浮かばなかったつたない言葉に恥ずかしくなる。




「“皆の笑顔と君の想いを胸に走り抜け”ねぇ」




耳元から聞こえた声に心臓が跳ねる。




「び、びっくりしたぁ」




腕を組んでいる遠藤がいた。




いるならもう少し離れて話してよ。




ドキドキするじゃん。




「松本んとこ掃除終わったの?」




「あ、うん」




そう答えると彼は手に持っていたモップ二本を渡してきた。




「どうせヒマだろ?


手伝って」




わざとらしい笑顔を軽く睨む。




……。




「分かったよ」




しょうがない、惚れたもん負け。




ワックスがついたモップを床につけないように流しに運んだ。




「隣の流しにもう一本あるから」




嬉しそうに笑う顔が可愛いから許してあげよう。




ゴシゴシと水洗いするが全然きれいにならない。




しばらくやっていると江口が来た。




「まだ一本も洗い終わってねぇの?」




目を見開きながら言う彼に苦笑いしかできない。




「ど、努力はしたんだけど…」




そんな私に彼は何も言わず立掛けてあったモップに手を伸ばす。




「こんなの洗ったって事実さえあれば適当でいんだよ」




子悪魔っぽい顔をするとモップを干していなくなった。




は、早く終わらせなきゃ。




私もモップを干すと隣の流しに行った。




でもそこにあるのは干されたモップだけだった。




「遠藤…」



隣に彼の持っていたワックスもあった。




そういう些細な優しさが、私をキュンとさせる。




好き、大好き。




ありがとう───。





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