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盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
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98、今日もどこかで蝶が飛ぶ

「ジーナ! サラス! マリア!」


 三人の名前を叫ぶだけで、自身はその場から動くことができない。


「リン……?」


 アイギスの声。

 それを自身が聞き逃すことなど決してない。


「アイギス! 三人を頼む!」


 元から心配などしてはいなかったが、その声に安心するわけではなく。

 信頼から全てを放り投げては意識を切り替える。


「身体強化――」


 それを選択する事に最早躊躇(ためら)いはない。

 言葉に出すことなく水面下で(かさ)ねて行く。


「運上昇――」


 声は(さだ)かでは無いが、瓦礫(がれき)粉塵(ふんじん)の最中。

 自身の体を(かす)かな熱と光が包み込んでいく。


「ありがとう」


 自身後方からの支援。

 まず間違いなくマリアであろうそれに、振り返る事無く礼を言葉にする。

 これ以上の足踏みは事態をより困難なものへと変えて行くだけのものでしかないことだけは分かってはいるものの、位置関係からして前進も後退もこちら側から切る選択肢としてはついて回る危険が大きすぎるが(ゆえ)に。

 前方からただ目を放すことなく、これから辿(たど)るであろう現実に対して少しでも生存率を上げるべくその機会を(うかが)うことだけが現状許された唯一の手か。

 分からないまでも相手方にその気がなければ(おん)の字と言える。

 なれど、登場するだけで四方を破壊し尽くし、その後も好き勝手に暴虐(ぼうぎゃく)の限りをつくすそれ。

 見た目だけで言えば自身の知る魔族、ティルスに似ている点が多々見えるその者がそうやすやすと見逃してくれるとは思い難い。

 確認が取れているアイギスとマリアで立て直しを図ったところで、一体どれほどの時間がかかるかも分からない今。

 仮に瓦礫の下であると仮定して、何とか救出に成功したとしてもこれだけの強者相手に逃げおおせるだけの体力が残っているかどうか。

 もちろん、自身が抱えて距離を取るという選択は安全上から言って取れるものではない。

 常に万全を期し、それでも渡り合えるかどうか。

 見る限り、自身が一人残って時間を稼ぐというのも最終的には現状維持程度の結果しか残せないであろう。

 むしろ、手の届かない距離にいるということが安全であるとは限らず、確証もないままに行かせてしまうのは相手にとって好都合である可能性も否定できない。

 だからこそ待っていると言えば仕方が無いように聞こえてくるかもしれないが、自身がしている行為はある意味自殺と何ら変わりないとも言える。

 こちらだけでは離脱(りだつ)も打開もただの空想に過ぎない。

 それを現実味のあるものに昇華させるには未だ足りない何かがある。

 何でもいい、ただ、その変化を待ち続けているだけでは犬死にだ。


「っ……リンっ、ぼくは――」

「静かに。息を(ひそ)めて」


 その先が何であろうと遮るだけの理由がこちらにはある。

 しかし――。


「このまま死ぬぐらいならリンと一緒がいい」


 言葉は止まらず。


「私も死ぬ準備ぐらいいつだって出来てるわ」

「リンさん。動くなら早いか、遅いか、です」

 

 こちらの背を押すように、事態の収拾を(みずか)らの言葉でもって主張してくる。


「……ダメだ。死なせるぐらいなら何とかして見せる」

「リンさん」

「今考えてる」

「リンっ」

「もう少し待てば何かが変わるかもしれない」

「リン」

「……アイギス。意見を聞かせて欲しい」

「……? 私はリンとずっと一緒だよ?」

「……ありがとう」


 答えになっているかなどどうでもいい。

 ただそれでこちらの決心は固まったという事実に変わりはないのだ。


撤退(てったい)する」


 その声を発するまでに一体どれだけの時間を無駄にしたか。

 今となっては助かっていたかもしれないなどという絵空事を頭からかき消す事は容易(ようい)で、(すで)に意識は過去から未来へ。

 そして未来から現在へと向いている。


「リン――っ!」


 声を上げたのはジーナだ。

 分かっている。

 何よりも聞きなれたその声に、間違う方が難しいぐらいだ。

 だが、声に声で返すのはどうやら許されないようで。

 こちらの逃走を感じ取ったのか、はたまたそれは偶然か。

 その者がその二本の足で()ってして、一息で距離を詰めるのと同時。

 狙いが自身の後方にあることを(さと)っては、その身を盾に無理矢理にでも割って入ることを迷い無く選択する。


「――ほう?」


 ティルスと(たが)わず、こちらの言葉を(たく)みに操っては驚きを表現するそれ。

 間近で見ればこそ、その異様さと言うものがより際立って見えてくる。


「ティルスという名前に聞き覚えは?」


 両腕を組みあったまま、一抹(いちまつ)の希望を胸に、唯一の策と呼べなくもない策を(ろう)する。


「……お前、アイツの知り合いか?」


 (ゆる)められる事の無い力。

 それでも立ち止まってくれるだけ策を弄した意味はあったというものだ。


「知り合いが世話になっている、(はず)だ」

「……フッ、ククッ、クハハハハハハハッ!」


 手を放してはこちらとの距離を取り、こちらなど意に介することなくその場でもって豪快にも笑い声を上げる。


「お前の目的はなんだ?」

「和解」

「ククッ、こいつは傑作だ。人間が、魔族に対して、和解だと? ククッ、クハハハハハハハッ!」


 腹を抱えこそしないものの、周囲に響くその声は。

 今そこに自身が存在していることを街全体に知らしめるような示威的な行為にも思えた。

 そしてそれはどうやら当たっていたようで。


「散々にこちらを目の敵にしておいて、今更よくも言えたものだな?」

「田舎者で申し訳ない」

「フッ、仮に、だ。仮にそれを受け入れたとして、お前はどうするつもりだ?」

「宿を探す」

「……つくづく面白い奴だな。だが、残念ながら今晩泊まれそうな宿はもうないぞ」


 それは比喩(ひゆ)ではない。

 現実に、実際に、建物と言う建物が(くず)れ去った今。

 宿どころか、まともに雨風を(しの)げるのかどうかすら怪しいものだ。


「なら、早く探さないといけない」

「だからないと言っておるであろう?」

「今はそうかもしれない」

「この先もだ」

「諦めるにはまだ早い」

世迷言(よまいごと)を」

「やってみなければ分からない」

「なら、やってみるんだな?」


 そう言ってはこちらに背を向けるその者。

 何故そうなって、何故そうしているのかはまるで理解に及ばない。

 しかし、そうするというのであればこちらとしては止める理由もなく。


「ありがとう」


 背に向けて短く感謝を告げる。

 返ってくるとは思わなかったが、手を上げては気にするなとそのままこちらの前から立ち去って行った。

 結局――最後までこちらから動くことは出来なかったが、街からも気配が消えた事によってようやく振り返る事に。

 そうして飛び込んで来た光景を前にして。

 何よりもまず思ったのは逃避を選択しなくてよかったという、心の底から湧き上がる感謝の念と運が良かっただけと言う何とも言えない現実そのものだった。



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