79、雲を掴む
「そうね。簡単に言っちゃえば諦めてるのが腹立たしいのかもね」
サラスはライナスを一瞥しては続ける。
「ただ単に諦めるだけならまだしも、それを受け入れてるのがなんていうかさ。泣くほど嫌ならやらなきゃいいのに、何で? って感じかしら」
「何度も言わせるなエルフ。私は泣いてなどいない」
「それよ。何で私には言いたいように言えるのに、何故リンには言えないわけ?」
「……勝負はついている」
「勝負? それでいうならリンが勝者でアンタが敗者ってことかしら? でもおかしな話よね。敗者が勝者に従わなければならないなんて」
「エルフに何が分かる」
「分かるわよ? 私たちだってその勝負とやらに負けた事があるもの」
「……べつに珍しくも無い話だ」
「あら、この世界でもそうなのね、やっぱり」
「常識だ」
「……リンっ」
ジーナに肘で突かれる。
それは非常に分かり易いもので。
こちらに対して何かしらの行動を促すべきというそういう合図だろう。
「サラス」
「何?」
「いや……」
何を言うべきなのか、そもそも何か言うべきなのか。
突かれた手前、声を上げずにはいられなかったが考えなしにもほどがあるというもの。
「続き、聞かせてくれるか?」
「リンっ」
「ふふっ、無駄よっ。リンはこの件に関して何とも思ってないみたいだから。ねぇ?」
「いや……まぁ、どうなんだ」
サラスに対しての受け答えだが、目線はジーナに助けを求めている。
しかし、当のジーナはといえばその頬を膨らませてはそっぽを向いてしまう。
心当たりはないが、何か気に障るようなことでもしてしまったのであろうか。
こちらの腕に絡み付いたまま離れないのでそこまで怒っているというわけではないのであろうが、それでも分かり易く機嫌を損ねてしまったことには変わりない。
どうにかこうにか手段を講じたいところだが、対外的にもサラスにはこちらから話しかけた手前。
会話を打ち切るには時期尚早、今度はサラスの機嫌を損ねてしまうことにもなりかねない。
「これ――何か分かる?」
サラスは言いながらも裾をたくし上げると、短剣を露出させては無造作に引き抜く。
「自決用、だったか」
「そっ、自決用。って、よくわかったわね」
「自分で言ってなかったか?」
「……? まっ、いいわ。アナタにその意味が分かるかしら?」
目の前でひらひらと振って見せてはライナスにその答えを問う。
それにしてもあれは本当だったのか。
「愚かな。エルフの考えそうなことだ」
「具体的には?」
「そのままの意味だろ?」
「そこまで分かってるのに動けないなんて哀れよね」
「どっちがだ」
「アンタでしょ?」
「現実逃避の果てに死を選ぶような種族に言われたくは無いな」
「あら、それすら出来ないアンタたちに言えたこと?」
「負けた事を受け入れられないものほど醜いものはない」
「負け? 違うわ。私たちは勝てなかっただけよ」
「それを敗北というんだ」
「いいえ? 敗北というのは、アンタみたいに負けを認めた時に初めて成立するものよ?」
「……屁理屈だな」
「屁理屈でも何でも自分たちのやりたいようにやった上での結果だから。アンタみたいにめそめそ泣いたりするような真似はしないわ」
「……エルフ風情が」
「人間には少し難しかったかしら?」
サラスはわざとらしく笑って見せる。
「ふふっ、まさか他人の悪意に触れて安心する日が来るなんてね」
サラスはご機嫌。
何故だかとっても嬉しそう。
「サラスさん」
「何かしら?」
「相談するべきです」
「あら、そう?」
「はい」
マリアは何もかもを省いては、その用件だけを短く言葉とする。
「じゃあ、お言葉に甘えて、ってのも変な話よね」
自分で言って自分で目を細めるサラス。
その視線の向かう先はこちらだ。
「……何だ?」
「別に?」
サラスは細めていた目線を元に戻すと、ただこちらに対して不可思議な微笑を浮かべては何でもないとわざとらしくもそう取り繕う。
「まぁ……そうか」
探してはみたが見つからない。
結局言えることもないので必然的に言葉は短くなる。
そんな中、再び合図を送るように脇を突かれる。
「ジーナ……?」
「リンっ。何かいうことあるんじゃないかなっ」
「ん……うーん」
そう言われてもと頭を抱えたくなるような難題。
そもそもとその議題が何が何やら分かっていないというのに、事はこちらのことなどどうでもよいと言わんばかりに前へ前へと勝手気ままに進んで行く。
つまり、どういうことだ?




