78、はしゃいだ者勝ち
「答えは決まったか?」
約束通りにと、指揮官たちを前に一度だけ問いかける。
「あぁ」
指揮官は制止した集団から一歩前へ。
それからこちらへとたった一人で歩み寄ってくる。
「……何のつもりだ?」
指揮官はこちらの手の届く範囲にまで近寄って来ては、おもむろにその全身を覆う装備を外し始める。
「ライナス……?」
こちらだけならばまだしも。
あちら、後続の集団からもお互いの顔を見合わせては疑問符が浮き上がっている。
それがどういったものであるのかは分からない。
策であるか、案であるか。
単純に行動と結び付けられる、意味合いとしては降伏か。
はたまたこちらに対する騎士なりの一種の作法であろうか。
何にせよ理解に及ばないその行動を今はただお互いに黙って見守るほかない。
「……リン、と言ったな」
それは二度目の確認。
その後、最後の砦とも呼べる薄い布へと手をかけてはこちらに対してその素顔を晒す。
「あぁ」
前回と変わり映えしない返答。
指揮官は笑う。
自嘲気味に。
「後生だ。私一人でなんとかならないか」
なるほど。
それで納得する。
しかし、どうやらそう思っているのは指揮官一人のようで。
「ライナスッ! よせッ! 何を言っている!」
「隊長ッ! そんなの認められませんよ!」
「俺たちもお供させてください!」
そうだそうだと指揮官に対して際限のない反論が続いていく。
しかし、それと同時に終止符を打ったのは指揮官である他でも無いライナスその人だった。
「よせ……? 認められない? お供したい? お前たちはリンの話を聞いていなかったのか?」
振り向く事無く吐き捨てられるその言葉。
小さいながらも誰しもの耳に届いてしまうそれ。
「リンは言った。断れば殺すと。そうして一度だけ聞くと。そしてお前たちは選択した。こちらに選択の自由などないというのにも関わらずにだ」
「ライナス!」
「それが何だ。口を開けば拒否だ拒否だと。揃えるのは構わないが後先というものを考えられないのか?」
「隊長! そんなの、だめですよ!」
「何がダメなんだ? 私はお前たちを代表してお前たちの選択を実現させるためにただ全力を尽くしているだけだぞ? それの何がダメだと言うんだ?」
「ライナス!」
「ダルガン、お前なら分かってくれるだろ?」
「ライナス! はっきり言うがお前は間違っている!」
「何が、だ。何が間違っているというんだ。それとも何か? お前等は死にたいのか? ここで」
「ライナス! そうじゃない!」
「なら黙って従え!」
ライナスと呼ばれた女性が叫ぶ。
そこには最早指揮官としてではなく、一人の人間として仲間を思う気持ちだけが存在していた。
押しつぶされるような沈黙が訪れる。
かみ殺してはいるが、こちらからはその頬を伝っていく涙が見て取れてしまう。
その状況を作り出しているのが自分自身であるという事がまた何とも言えない。
「……さぁ、煮るなり焼くなりしてくれ。覚悟は当に出来ている」
ライナスは俯かせていたその顔をこちらへと向けては真っすぐに見据える。
正直、この展開は予想だにしていなかったので、こちらとしても対応に困っているといえばその通りなのだが。
しかし、考えようによっては上手い事まとめることが出来るのか?
いや、まとめなければ街と共に一転してこちらの立場が危うくなるというもの。
何とか、何とかしなければならない。
「泣くほど嫌なのか?」
「泣いていない!」
時間稼ぎにと投げかけたそれは一瞬のうちに否定され、無残にも撃ち落とされてしまう。
ならばと本人を通り越して奥の集団へと目をやるが、それまでの勢いはどこへやら、食いつきは全くと言っていいほど弱くその鳴りを潜めてしまっている。
「ライナス……」
心配するような、案ずるような、窺うような声はところどころから上がるものの。
それ以上はライナスという者の放つ気迫に因って口をつきさえすれど、そのそばから言葉と言う形を保てずに自ら霧散していってしまっている。
そこで一種のちゃぶ台返しのように、この話の根幹へと触れてみることにした。
「そもそも前提がおかしいとは思わないか?」
「言っただろう。後生だ」
「それで済むとでも?」
「……私はこれでもそれなりの家の出でな……」
ライナスは衣服へと手をかける。
それはいつしか見た光景と重なるようで――。
「ライナス! やめてくれっ!」
懇願する様な声。
よもやこちらがそれを許すとでも思っているのだろうか。
立ち上がっては腕を掴み、有無を言わさず制止する。
「よせ」
「……お前の仲間に比べればそうかもしれないが……私はそんなに魅力がないか……?」
「よせと言っている」
「ははっ……遠慮する事はない。お前も最初からそのつもりだったんだろう?」
「よせと言っているのが聞こえないのか?」
「思えばお前だけだよ。あの姿で私を女だと見抜いたのは……」
「分からない奴だな。……分かった」
「そうか……」
「ライナス……っ!」
「マリア」
「はい」
その返事は素早い。
いつでも動く準備は出来ていると言いたげだ。
「サラス」
「……何よ」
こちらは遅い。
何か思うところがあるようだ。
「ジーナ」
「うんっ」
待ってましたといわんばかりの快活さがそこにはある。
「アイギス」
「……」
立った反動でその位置を変えてはいるが、腕の中で依然として眠りこけている。
「多数決を取ろうと思う」
「分かりました」
「うんっ」
「……サラス。何かあるのか?」
「別に? ただ……ちょっと不快なだけよ」
「……自分が原因か?」
「違うわ」
「……これは……聞いた方が良いのか?」
「聞かなくていいわよ。そこの女に苛立ってるだけだから」
「そうか。なら――」
「リンっ、そこは聞いてあげようよっ」
「ん?」
「聞いてあげるべきかと」
ジーナからだけでなくマリアからもそれを促される。
「話したいのか?」
「……? 別に?」
「サラスっ、話すだけでも少しは楽になるよっ?」
「私は元々その道の専門です」
「あら、そういえばそうだったわね」
「ほとんどその機会はありませんでしたが」
「向き不向きってのは誰しもあるものよ?」
「ありがとうございます」
「まっ、それはそれとして――聞きたいの?」
サラスは別に面白い話でもないのにと続けては、こちらが頷いたのを確認した後、何の気なしに口を開いてはその理由を語り出した。




