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盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
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75、ライナス

「やあ」


 それは気軽に。

 補足(ほそく)するなら親し気に。

 こちらに対して放たれた矢をその手で捕らえて見せては声を投げかける。


「何者だ」


 鬱蒼(うっそう)と立ち並ぶ木々の中。

 丁寧(ていねい)とは言い(がた)い整備の施された道の奥。

 その集団から上がったのは話し合いを望む声だった。


「冒険者のリンだ。そちらは?」


 長らく待たされたが、ようやくといった具合に自己紹介することが出来た。

 当初青かったその空も、今や沈みかかった太陽と共にその色を赤みがかったものへと変えて行きつつある。


「冒険者……成程な。依頼、というわけでもあるまい。どこで聞きつけた?」

「これだけ大の大人が集まっているんだ。気付かないというほうが難しい」

「そうか……。それで? 何が望みだ?」

撤退(てったい)、と言いたいところだが。それをしてしまってはここで待っていた意味が無い」

「チッ――」


 どうしますか?

 そう聞こえたわけではないのだが、何となく相手方の様相(ようそう)を見ていれば話し合っているのが分かるというもの。

 口元こそ隠してはいるが、その動きと流れを()み取ればこそ(おの)ずと意見を集約している中心人物の元へと辿(たど)り着く。

 そして見た目こそ女性には見えない格好をしているものの、こちらが探していた指揮官の女性でまず間違いないであろうその人を特定する。


「んん……って、あれ、ん……?」


 あえて振り向きはしないが、その声からしてサラスであろうことは容易(ようい)に想像がつく。


「アンタ…………来たなら来たっていいなさいよ……」


 そこには若干の怒りすら込められているようにも感じられなくも無いが、それ以上に呆れともいえる感情の方が(まさ)っているようにも思える。

 ただ背中越しの声だけでどちらと断定する事は難しい。


「一応声はかけたんだがな」


 それで一応弁解しておくことにした。


「起きなきゃ意味ないでしょ……」

「よく眠れたか?」

「えぇ、それはね。寝起きは最悪だけど」

「毛布とかあるか?」

「今かけてる最中よ」

「そうか」

「それ、分かってて言ってるでしょ」

「何かまでは分からない」

「毛布よ」

「そうか」

「それだけ?」

「足りないなら――」

「もう出してるからいいわよ」

「……」

「それだけ?」

「もうないぞ」

「起こさなくていいわけ?」

「思ったよりも消耗(しょうもう)してるみたいだからな」

「そうなの?」

「起きないのが証拠(しょうこ)だ」

「ふーん」

「……何があった?」

「私に聞いてどうすんのよ」

「それもそうか」

「まっ、想像はつくけどね。でもアンタがそんなこと聞くなんて意外よね?」

「話題に困った」

「だと思った」


 それから何を思ったのか、サラスはこちらの肩へと後ろから手をかけては横にずれるよう(うなが)し、それほど広いわけでもない倒木(とうぼく)の上へと並んで座る。


「ねぇ」

「……何だ」

「アンタはさ。サラスって私のこと呼ぶじゃない?」

「あぁ」

「何で?」

「サラスはサラスだろ」

「他には?」

「ない」

「ふーん。あのさ」

「何だ」

「私の名前知りたい?」

「知って欲しいならな」

「ふふっ。アンタってそういうところあるわよね」

「……どういう反応をすればいいんだ」

「さぁ? でも人間にしては、なんていうかさ。不思議(ふしぎ)、よね」

「よく分からん」

「ふふっ、そうねっ。私も良く分かってないものっ」

「なんだそれは」

「まっ、一つだけ言えるとしたら、これからもサラスで良いってこと」

「それ以外に呼びようもないけどな」

「ふふっ、時間みたいよ?」

「あぁ」


 目線では既にこちらへと歩み寄ってくるその者を捉えている。

 対するこちらもサラスを横に残したまま応じるようにしては遅れて立ち上がる。

 だが、それだけでその距離を自ら()めようとはしない。

 否、詰める事は出来ない。

 サラスたちを守るという都合上この場からは一歩たりとて動けないのだ。

 であるならば相手の出方を見るという意味でも争いを避けるという意味でも最早自身に出来る事はただ待つという姿勢を示し続けることぐらいだ。


「サラスってさ」


 状況に(はん)して話はまだ続いていたらしい。


「子供の頃の名前なの」

「出世魚みたいだな」

「なに? それ」

「成長するにつれて名前が変わる魚のことだ」

「……私は魚じゃないわよ」

「いてててててて、分かってるってのっ」


 何故か脇腹の肉を(つね)られる。


「はいはい。冗談はここまで」

「なら手を離せっ」

「不安なのよ……鈍感(どんかん)ね」

「どこをどうみたらそうなんだっ」

「リン……?」


 背後(はいご)からジーナの声。

 サラスの手が離れる。

 (いま)だにジンジンと痛むのは最早意味が分からない。


「おはようジーナ」


 状況が状況だけに。

 顔を向ける事は出来ないが、それでも背中越しにと言葉を送ることだけは怠らない。


「う、うん……?」

「軽く説明するけど――」

「そんなの見れば分かるでしょっ?」


 サラスがばっと立ち上がっては再び元居た場所へと戻って行く。


「サラス……?」

「何も心配いらないわよ? あとはあいつに任せておけば大丈夫だから」

「……何かあったの?」

「何も?」

「……リン?」

「ジーナ」

「話し中悪いがこちらが先だ。問題無いな?」


 割り込むように指揮官であろうその女性がこちらへと向けて口を開く。


「あぁ」


 ジーナを優先したいところだが、この機を(のが)せばどう転ぶか分からない今。

 先に済ませてしまうに越したことはない。


「リンとか言ったな?」

「あぁ」

率直(そっちょく)に言おう。仲間になれ」


 そう来たか。

 と思ったのも一瞬。

 ある程度時間があったために選択肢はいくつか用意してある。

 後はその内から適当なものを言葉にするだけでしかない。

 だが、どれにしようか。

 悩むには悩む。


「すぐには答えが出ないか? なら付け足そう。こちらにはお前を迎え入れるだけの準備がある」

「いや、悪いがそれは必要ない」

「拒否するというのか?」

「拒否じゃない。辞退(じたい)だ」

「変わりないものだと思うが?」

「嫌ではないということだ」

「では理由があると?」

「あぁ。(すで)に仲間がいる。冒険者という立場もある。そして何より今はこの街に世話になっている」

「成程な。では、どうする?」

「どうもしない。そちらが何もしなければ」

「くくっ、面白いな。やはり仲間に欲しい。お前が望むならお前の仲間も同じ待遇(たいぐう)(むか)えるが?」

「平行線だな」

「そうか。残念という他ないな」

「こちらから質問しても?」

「あぁ、いいとも」

「仲間にならないか?」

「…………正気か?」

「見ての通りだ」

「正気には見えんな」

「何でだよ」

「冗談だ」

「面白い奴だな」

「仲間になれ」

「こっちの台詞(せりふ)だ」

「なら仕方ないな。力づくでもお前を部下にするとしよう」

「正気か?」

「見ての通りだ」

「正気には見えんな」

「冗談だろ?」

「本気だ」

「……」


 指揮官は目を細めてはこちらを(にら)みつける。


「女性に手を上げるような真似はしたくない」

「何の事だ?」

「もしこちら、もしくは街に手出しする様であれば見せしめとしてまずお前を血祭りにあげる」

「血祭りってっ、ふふっ」


 サラスから笑いが漏れる。

 そんなに面白いことを言ったつもりは無かったのだが。


「分かっていてそうさせると?」

「する。これは決定事項だ」

「……お前の振る()いを見ていればそれなりに腕が立つであろうことは分かる。だが、それだけだ」

「それだけで十分だと分からないか?」

「フッ、それもやってみれば分かる事」

「強がりはよせ。部下の手前引き下がれないのも分かるが身を(ほろ)ぼすなら自分で決めろ」

「自分で決めた事だが?」

「強がるな。お前なら分かる筈だ」

「物分かりの悪い奴だな。試してみれば分かると言っているだろう」

「その試しで取り返しのつかないことになるぞ」

「いい。もう分かった」


 目の前の女性が手を振り上げる。

 続く様に離れて待機していた集団が前進を開始、こちらへとその足先を向ける。


「……これが最後だ。この世界の罪人に対する扱いは知らないが、後悔だけはするなよ」

「お前こそあの世で後悔しても遅いぞ?」

「……分かっ――」


 と。

 その時と言えば大差ないか。

 いつしか聞いた覚えのある爆発音が辺りに鳴り響いた。


「――!?」


 アイギスは寝ているので例外だが、自身以外の者たちから動揺と困惑、同時に畏怖(いふ)()き立ち、それは周囲へと急速に広まっていく。


「なっ、何っ!?」


 事態の把握(はあく)(つと)めようと懸命(けんめい)に声を出したのはサラス。

 その答えを教えるのは容易だがそれよりも今すべきは現状の打開か。


「いくぞ」


 ()れ動く視界に耳をかき鳴らす轟音(ごうおん)

 そんな中発せられたこちらの言葉に、反応を示せる者がいるのかどうかはさておいても、何も律儀(りちぎ)に合図を送る必要性はどこにもない。

 されどこちらが動き出したことだけはかろうじて理解することが出来たのか。

 対応に追われるようにしては各々腰から背からとその武器を抜き放っていく。


「ッ――」


 だがそのようなことはどうでもよいというわけではないのだが、一番近いという意味でも言ったことを守るという意味でも、目の前の女性に手を伸ばしたのは初めからそうすると決めていたからに他ならない。


「舐める――なっ、かッ、あっ、うぐァッ」


 抜刀と同時に振るわれた剣を大地へと足で押さえつけては首を(つか)む。

 そのまま持ち上げては足が()り所を失い、女性から当然のように苦し気な声が漏れ出る。

 そして予定通りに後退。

 もがく指揮官から殴る蹴る引っかくといった児戯(じぎ)にも等しいあがきが繰り出されてはいるものの、文字通りその程度でしかないため気にせず続行。

 後ろの集団からこちらへと突出してくる者も居るにはいたが、後続に止められ、停止を余儀(よぎ)なくされている。


「さて、問題だ」


 揺れが収まったのを見計らっては周囲へと声を向ける。


「――!」

「この者はこの後どうなる?」

「やッ! よせッ! 頼む! 隊長は何もッ――」

「分からないか? お前たちがやってきたことだ」

「…………」

因果応報(いんがおうほう)自業自得(じごうじとく)。色々あるが、まぁ、そうだな。自分が言えた事じゃないな……」

「何で落ち込んでんのよ……」

「いや、実際それで以前吊るし上げられてな」

「……そういうのはもっとこう、なんていうか、あぁもうっ! あとでじっくり聞いたげるわよっ!」

「いや、そこまでじゃない」

「って、死ぬわよ? それ」

「あ、あぁ」


 忘れていたと言わんばかりに手を離す。

 そうして仰向(あおむ)けにしては選択を迫るようにその上へと腰を下ろした。



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