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盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
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72、領域外

「つまり……何ですか? これから鉱山内で爆発があるので退避(たいひ)させろと?」


 目の前に座す、組合の受付嬢は面倒くさそうにしながらも、一応の理解というものは形式的に示してくれる。


「えぇ。それで、組合の協力をどうにか得られないかと」

「そうですね……。率直(そっちょく)に申しまして、非常に難しいと言わざるを得ません」

「はい。ですので、依頼(いらい)、という形を取りたいのですが。可能ですか?」

「そういうことでしたら何なりとお申し付けくださいませ」

「ありがとうございます」

「いえ、仕事ですので、お気になさらないでください」

「なるほど。一つお聞きしても?」

「どうぞ?」

「ありがとうございます。(おお)まかで大丈夫ですので、鉱山内部で働く従事者の数を把握(はあく)したいのですが、出来ますか?」

「大まかに……と言いますと。どの程度まで許容(きょよう)できるかによりますね」

「では先に、依頼内容を話してしまっても?」

「問題ないと思います」

「ざっと、金貨百枚。一人につき一枚。百人程度であれば退避、または救助に必要な物資を――」

「ま、まってください! き、金貨百枚ですか!?」


 そこで目の色が変わるというのもどうかと思うが、金貨百枚という具体的な数字は相手の目を覚ますのに十分すぎるほどの効力を発揮したよう。

 それにしても組合がこちらの所持金をある程度把握していてくれてよかった。

 話の内容が話の内容だけに門前払いも覚悟していたわけだが……煩わしく思いながらもこうしてここまで付き合ってくれた受付の彼女には感謝してもしきれない。


「はい。金貨百枚。これで鉱山の件、どうにかなりますか?」

「……っ、そ、相談……してきます……」


 受付の彼女はこちらとあちらとを仕切る卓を前にその両手をつけては立ち上がろうとする。

 何の事はない。

 自身には()が重すぎる依頼であると判断したのであろう。

 しかし、それを良しとしていられるほどの時間的余裕はもはや残されているとは言えず。

 詳細を先に話したのも言わば余計な手間を(はぶ)くため。

 つまり、ここでこのまま彼女を行かせるという選択肢は元から存在していないということになる。


「ここに――」


 そう言いつつ、予め用意していた金貨の入った袋を卓の上へと乗せる。


「金貨百枚あります。面倒な審査(しんさ)や選別、その他諸々(もろもろ)全てお任せしてしまっても?」

「ちょっ、え、そのっ! 相談してきますっ!」

「えぇ、ですが、それを待っている時間は残念ながらありません。早さ重視ですぐにでもよろしくお願いします」

「そっ、あのっ、困りますっ!」

「あなたなら出来ます。では、そういうことで。事が()みましたらまたお会いしましょう」


 それだけ言ってはあとは任せたと反転する。


「ま、まって!」

「大丈夫ですよ! あなたなら出来ます!」


 背中越しにかけられる声に対しては軽く振り向いて、あながち根拠がないというわけでもない自信を声としては立ち止まらないことでその信頼を形とする。

 それから適当に手を上げて見せては扉へと直行。

 外で待つ四人とそのままの勢いで合流する。


随分(ずいぶん)かかったみたいだけど?」

「これでもごり押ししたほうなんだがな……」

「まっ、知ってるんだけどね。声、外まで聞こえてたし」

「多少の言い訳にはなるだろ?」

「どうだか」

「ぼくは別にっ、……ついて行きたかったかもっ」

「本音が出てるわよ?」

「リンは言わなきゃ分かんないもんっ」

「リンー」


 アイギスがようやくと言った具合にこちらへと気付いたのか。

 いじっていた土からこちらへと目を向けては近寄ってくる。


「だっこか?」

「ううん?」

「ごはんか?」

「ううん?」

「どうしよっか」

「マリアー」


 アイギスはその名を呼びながら優しくマリアへと()き着く。

 マリアはもちろん。

 それを拒否するような事も無く、ただ平然とした面持(おもも)ちで受け入れては困ったように視線を彷徨わせている。


「え、っと……アイギス、さん?」

「マリアー」

「……リンさん。私はどうしたらよいのでしょうか?」

「さぁ……分からないな」

「アンタは甘やかしすぎなのよ」

「突然だな」

「心配してるんじゃないかなっ?」

「ん?」

「えっと……そのっ、何となくだけどっ」

「ジーナが言うんだから間違いないよ」

「そっ、そんなっ、そんなことないよっ」

「いや、間違いない。今、確信に変わった」

「へっ――?」

「えっ?」

「成程……」


 ジーナは何を言っているのか分かるが(ゆえ)の驚きから。

 サラスは何を言っているのか分からないが故の困惑(こんわく)から。

 マリアは理解した上での納得から。


「行こう」


 その場に(もっと)相応(ふさわ)しいであろう言葉を選んでは先陣を切る。


「ちょ、いいけどっ、なっ、なにっ?」

「思ったよりも広いな」

「指示を」

「最短距離で頭を(つぶ)す」

「分かりました」


 (かん)(おそ)らくそうであろうなと思われる場所へと足先を向ける。

 マリアが反対意見を示さない以上あながち間違っているというわけでもあるまい。


「う、うへぇ……ぼくも気付いちゃった……」

「え? え? ちょ、何? 何かぐらいは説明してくれても良いんじゃないの!?」

「リンさん。アイギスさんを」

「……いや、大丈夫だ」


 アイギスへと目を向けるもマリアから離れる様子はない。

 その行動の意味を正確に推し量ることは出来ないが、おそらくアイギスはマリアの身を案じているのであろう。

 この際マリアの傍にアイギスがついていてくれるというのであればそれはそれで安心できるのでその手を無理にこちらから取ったりはしない。

 アイギス、マリアを頼んだぞ。

 そう心の中で呟いては先を急ぐことにする。


「リンー」


 そう思った直後にこちらへとその身を寄せてくるアイギス。

 その行動の意味を分かってやりたいが、分からないものは分からない。

 ただ、いつものように抱え上げようとすると嫌がられた。


「……凄まじく悲しい……」

「重症ね」

「な、何のだ……」

「アイギス症候群」

「かかっててもおかしくはないな……」

「リンーっ。リンにはぼくがいるから大丈夫だよーっ?」

「あ、ありがとう……ジーナ……」

「重症ね」

「重症だっ!?」

「重症ですね」

「リンー」


 再びその距離を縮めてくるアイギス。

 先程の失敗からしてこちらから手を差しだすようなことはしない。

 いや、出来ない。

 次拒否されたらと思うと……。

 かつてないほどの憂鬱だ。


「ど、どうした?」

「リンー」

「どうした?」

「リンー」

「……ん?」


 ふと、視界の(はし)に何かを(とら)える。

 否、視界になど何も映さないその感触。

 見えない姿、希薄な存在、掴みどころのない気配。

 知っている。

 自身はその存在を知っている。

 気が付くと足は前へと踏み出され、握られた拳はその相手を求めるように空を切っていた。


「――!?」


 当たらない。

 しかし明らかな動揺が空気越しに伝わってくる。


「――!?」


 それが二度続く。


「リンさんっ!」


 これ以上ない程の追撃。

 後方のマリアから投擲された短剣。

 領域外――。

 正にそう呼ぶに相応しい場所から放たれたそれは、空中にて不自然に動きを止めることで相手の存在を証明し、同時に位置を確定付ける。


「あぁ」


 大地を()り上げ、砂を巻き上げようとしていた足をそのままの勢いで短剣へと向かわせる。


「フッ――」


 不意に、どこか自身の勝利を確信するような、そんな声が聞こえた。


「リン――!」


 ジーナが(さけ)ぶ。

 こちらも気付く。

 (さっ)する、悟る。

 だがこちらの思惑(おもわく)とは裏腹に。

 足が、膝を残して両断されるのは最早避けようのない未来であり、だからこそ一つの運命と化した確定事項を受け入れるまでにはそれほどの時間はかからなかった。



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