71、脱皮
「ちょっと!」
扉に手をかけるこちらに対して、サラスはそれを咎めるように声を荒げる。
「大丈夫だ」
それに対する答えは一つ。
今までと何も変わらないもの。
ただ、その意味合いは少しばかり違って――。
扉を開け放す。
背中にはまだサラスの声が聞こえる。
だがそれも、扉が閉まるまでのことでしかない。
ゆっくりと踏み出す。
その足に迷いはない。
後悔も必要ない。
今この体を突き動かしているのは、言ってしまえばただの諦めであり納得。
自信が何者であったかを再認識させる、原点回帰に至るまでの過程。
この手で何を成し、何がどうなったのか。
過去は証明する。
未来を変えるのは、変えられるのは、あの時と何も変わらない自分自身だと――。
しかし、その意思も決意も思考も何もかもを否定するように。
「リンっ」
突き飛ばされ。
「リン」
蹴り飛ばされ。
「リン!」
殴り飛ばされ。
あえて濁すことなく今の現状を言葉にしたならば。
「リンさん……その……。バカ、ですよね?」
一回転した上で壁を突き破り、上下逆さまの状態で見る光景。
隔絶という概念をその身で以って体現する扉が。
こちらとあちらなど区別つけられるような状態ではなく。
「ほらっ、いくわよ?」
サラスから伸ばされた手。
それを掴んだ瞬間から。
全ては戻らぬものとなり、今という現実が、自分という個人を再構成していくのを感じた。
「あぁ。ここから全て守りきる」
「ふふっ、そうこなくっちゃ」
「お供します」
「だっこー」
「あぁ」
「あーっ、ずるーいっ、ぼくもぼくもーっ」
「あぁ」
「アンタね……」
「肩なら空いてるぞ?」
「仲間が仲間ならアンタもアンタね」
「では私が」
「あぁ」
「……たっく……仕方ないわねぇ!」
「あぁ」
サラスが勢い任せに飛び乗ってくる。
「わわっ、サラスっ」
「大丈夫よっ。怪我したら私が治してあげるからっ」
「ではサラスさんがお怪我された際には私が」
「アンタは病み上がりなんだから大人しくしてなさいよ」
「じゃーぼくはリンが怪我したら治してあげるね?」
「それは私」
「ではアイギスさんがお怪我された際には――」
「アンタは――」
「うーっ! 前々から――」
「ははっ、大丈夫大丈夫」
「何でよ!」
「リンはアイギスがいいのっ!?」
「私は別に何も。信じていますので」
「リンーっ」
「うん。もう大丈夫だから」
「あーもうっ、さっさと終わらせましょっ?」
「リンっ。後でゆっくりお話ししようねっ?」
「私も同席します」
「えぇっ!」
「リンーっ」
「はっはははっ」
回復四人。
盾一人。
最早守れないものなど何もない。




