69、四季折々
「……あながち嘘というわけでもなかったな」
サラスを背後に、前方へと控える二度目の洞窟。
その奥へと続く暗闇に意識を集中させてはいくつかの気配を掴み取る。
「うそ……どうするの? 何か策は?」
サラスは不安げな表情を浮かべ動揺を隠しきれていないようだが、その表面上とは裏腹に思考は冷静を保っている。
というのも気配に関してはこちらよりより鮮明に捉えられているであろうサラスのことだ。
おそらく攫われたという事実に揺さぶられながらもジーナたちが生きているという事実を前にして、その気持ちは既にどうやって助けるのかという方向へと切り替わっているのだろう。
「問題ない」
対するこちらから返せる言葉はそれ以上でもなければそれ以外でもない。
あえていつものように大丈夫と返さなかったのは意図してだ。
「それは……アンタが言うんだからそうなんだろうけどさ……」
「不安か?」
「私はいいけど……あの子たちはまだ子供よ?」
「まぁ、自分達よりは年下だろうな」
「アンタも私からしたら子供みたいなもんよ」
「…………この話はやめておこう」
「何? 子供扱いされるのは気に障る?」
「いや、年齢は曖昧なほうが良い気がしてな」
「知りたい?」
「知って欲しいならな」
「ふふっ……ってこんなときに不謹慎ね。さっさといきましょ? みんな待ってるわ」
「あぁ」
サラスは言葉こそこちらに先行するが、決して前には出ようとしない。
それは間違っていないし信頼という意味でもありがたい対応だ。
サラスへと了解を得るように目線を送り、頷き返したのを確認してはアイギスよろしく腕へと乗せる。
抜けるの茂み、飛び込むのは洞窟。
前回との違いを感じさせるように無人の入り口を何事もなく通過しては徐々に失われていく光。
二度目とはいえ遂には辺り一帯を完全に暗闇が支配する。
「……何だ?」
しばらくしてサラスから頭をトントンと優しく叩かれる。
「……喋っていいならそういいなさいよ」
「いや、聞かれなかったしな」
「聞く前に言いなさい?」
「それと――」
暗闇の中、何かが奔る。
「声を出すのは控えた方が良い」
回避を選ばず掴んだそれは、矢でもなければ槍でもない。
短いながらもその大部分を刃で占めた、紛れもない正真正銘の剣だった。
「へ……?」
サラスは見えていないのか。
それとも見えていてそうなのか。
近いとはいえさすがにその表情から窺い知るにはいささか難易度というものが高いと言わざるを得ない。
「しっかり捕まってろ」
いうだけ言って、剣を空中へと放り投げては素早くその先端を入れ替える。
「えっ、えっ、えっ?」
サラスの呼吸に合わせるように飛んできた何か。
上手いこと立ち止まることなく避けるか撃ち落とすかのどちからにて対処する。
「チッ――」
それは当たらないことに対してか、それともまた別の何かか。
居場所をお互いに把握している中での舌打ちはただの抑えきれない感情表現の一つに過ぎない。
「……サラス。見えん」
元から何も見えてなどいないが、それでも視界を塞ぐようにして覆いかぶされると見えるものも見えてこない。
「どっ、どうせ見えてないんでしょっ!?」
「だからと言ってだな……」
そういうことを相手の前で、それもわざわざこちらへと刃物を投げつけてくるような者たちを前にしていうのは何かこう違う気がする。
「やれやれ……」
されどこちらが指摘するまでもなく痺れを切らしたのか。
前方から距離を詰めてくる気配が一つ。
いや、二つ?
……三つ?
「多いな」
それで入り口からここまで止めることの無かった足をその場で止めては、軽く剣を振り回すことで地形を探る。
広さは十分。
高さも問題ない。
相手は左に二、右に一。
どうやらサラス側から攻めてくるつもりらしい。
「サラス。治癒だ」
「へっ? あ、うん。治――」
「まだ早い」
そう言って遮ってはサラスを地面に落とす。
「うぎゃっ」
「少しの辛抱だ」
伏せるように指示はしないが不意に落ちた手前、必然的にそうなるのが筋――と思っていたが何と言うべきか。
サラスはその持ち前の身体能力でもってして崩れた体勢をこちらの意図しない形で立て直してしまう。
「寝てろ」
説明している暇はない、問答無用の足払いにてその安全を確保する。
「にゃっ――」
見えないが顔からいった気がする。
今度はサラスの身体能力を過剰に評価し過ぎたためだ。
しかし、それもこれまで。
「さて」
言いながらサラスを口ではなく足で押さえつける。
「出方を見る必要も無いな」
見えないので。
などと言うまでも無く、持っていた剣を自身からして右側の一人へと向けて投げ飛ばす。
「――!?」
まずは一人。
どこに当たったかまでは分からないが防ぐのに失敗したらしい。
金属の接触する音も無く、その場で足が止まったのを確認する。
「チッ――」
ここへ来てから二度目の舌打ち。
先程と同じようでありながらも、その意味するところは向けられた対象が違う事によって別物と化している。
言うなれば味方に対するそれは苛立ちだ。
「動くな」
何となくそれを手にしては言葉にしてみる。
しかしその者は止まらない。
それも当然の事。
見えていないのか、そうするまでもないか。
ただ、二人の内一人は足を止めてくれた。
「おいッ!」
無駄に見えているのか。
見えてしまったのか。
そのようなことはどうでもいい。
こちらの言葉に臆したのであればそれもまたよし。
弱さを見せたその者に対して突き付けたそれを投げつける。
「うっ――」
鈍い音を立てては命中。
膝から崩れ落ちるのを確認する。
「チッ――」
三度目の舌打ち。
ただの石ころにしか見えないが、やはり突きつけられればその動きを止めるに値する物であったようだ。
「肉体強化――肉体向上!」
最期の一人へと向き合った直後。
聞きなれない言葉が目の前の者から己を鼓舞するように叫ばれる。
「剛撃ッ!」
上段から振り下ろされたそれは、避けるかと一瞬そう考えさせられる威力だけではない迫力を同時に内包したもので。
「ッ――!?」
だがそれも剣あってのこと。
折れてしまえば斬るものも斬りようが無い。
「スキルか。武器が武器なら死んでたかもな」
最後の手向けにと決して皮肉ではない素直な賞賛を目の前の者へと送る。
「……オラァッ!」
しかしやけになったか、途中から刃の無いそれを握りしめてはあくまでも続行だと拳を打ち出してくる。
だが同じこと。
相手の剣をへし折ったように、その場で回転しては蹴りを繰り出す。
拳は半身になった状態でこちらを掠め、正面へと向き直った際にその顎をこちらの踵が捉える。
それから追撃を加えようとして――その手を止めるまでには、それほどの時間はかからなかった。




