68、お色直し
「って、いたいたー!」
サラスがその姿を小綺麗にも一新させて、後は会計を待つのみだとこちらに知らせてくる。
「あぁ」
それに応える形で金貨を三枚ばかり手にしては、それ以上のやり取りを省くようにその手元へと放物線を描かせる。
どうやらお互いに大金であるという自覚が少々足りないようだ。
しかし百二十枚も持っているとどうにもその価値観がおかしくなってしまう。
「どーもっ」
サラスはその三枚を当たり前のように手中へと収めてはそういえばと言葉を続ける。
「おつりは?」
「どっちでも」
「りょーかいっ」
サラスは鼻歌でも口ずさみそうな勢いでもって踵を返していく。
こちらの足元に転がる者に対して最初こそ驚いたように反応して見せたものの、目を向けるだけでそれ以上は触れようとしないあたり相変わらずと言わざるを得ない対応力だ。
「さて……」
フードの下に興味があるわけでもなし、この者が男であると仮定して話を進めるが、男の言う通り事が進んでしまったのであれば早々に行動へと移さねばならない。
ただ、その言葉通りであるとするならばその行先には心当たりがある。
男を起こしてその真偽を問い質すよりもこの場から直行したほうが相手の裏をかく意味でも確かめる意味でも時間の短縮に繋がる可能性は高く、何よりも物事を単純にする上で分かりやすい。
「サラス――」
男を脇に抱え、値切るだの値切らないだの揉めているその背中へとそろそろ時間だとして声をかける。
「……分かったわよっ。まっ、金貨二枚ってところかしら?」
「えげつないほど値切っておきながらなんて偉そうな……」
店主であろうか。
苦い顔をしながらも、抜け目なくお前さんからも何とかいってやっておくれよという視線を送ってきている。
「金貨三枚でどうですか?」
「ちょっと! 何言ってんのよ!?」
「くくくっ。話が分かるじゃないか。坊や」
「ただ、お願いがあります」
「内容によるね?」
「……ならそれとそれとこれも貰っていくわよ。文句ないでしょ?」
「くくっ、今更一つ二つ増えたところで金貨一枚分には遠く及ばんよ」
「ならそれとそれとそれとあれとこれと――」
サラスは必要ないのではないかと思えるほどに片っ端から商品をその代金へと含ませていく。
その様子を見ていた店主がこれまた苦い顔をしているが、サラスのそれはきっと冗談ではない。
「正気かい?」
店主の歯に衣着せない物言い。
商売人としてのその気持ちも正直分からないでもない。
「最初の三つだけで結構ですよ」
「ほう? 益々中身が気になるね?」
「自分でいうのも何なんですが、大したことではないですよ」
「もったいぶるね?」
「いえ、そのような。お願いというのはただ、この者を然るべき場所へと突き出して頂きたいのです」
「それはまぁ、構わないがね……ただ、然るべき場所というのはどこなんだい?」
「実はこの街に来たのはつい最近でして……」
「そうなのかい? それにしても見たところ冒険者だろう? 組合にでも持っていけばいいんじゃないのかい?」
「実は仲間が攫われていまして」
「……は?」
「時間が無いので代わっていただけないかと……その、もし賞金がかかっているようでしたら受け取っていただいて構いませんのでどうにかお願いできませんか?」
「いや……そういうことならこんなところで油売ってる場合じゃないだろうに……」
「正にその通りですね」
「呑気にしてる場合かい。ほらっ、後は若いのにやらせておくから。さっさといくんだね?」
「ありがとうございます」
「荷物はまとめておくから終わったらいつでも寄っておくれ」
店主はそういっては強引にこちらの背中を押す。
「……別に。一々説明しなくてもついて行くわよ?」
そのままの流れで飛び出した店先にて、サラスは明後日の方向を向きながらも何やら気を遣わせたのか。
こちらが何か言う前にその手間を自ら省いてくれる。
「あぁ」
それは正直にいってありがたい。
というよりも説明した所でうまく納得を得られるとは思えない。
前回がそうであったがために今回もそうであろうという考えのもと動いているなどと誰が信じようか。
しかし、行けば分かる。
それだけははっきりとしていることだ。




