66、既定路線
「で?」
ベッドの上に腰掛けてはサラスがこちらに投げかける。
「薬は効いたみたいだな」
ほんの数秒前まで死にそうな顔をしていたとは思えないほどの快復ぶりに、やはり高いものは高いだけあるなと感心する。
「見れば分かるでしょ?」
サラスは一々言うまでも無いと眉を若干ばかり吊り上げてはその答えとする。
「あぁ、そうみたいだな」
むしろ平時より調子が良さそうだ。
「んー、先に聞こうかと思ってたけど、おなか減ってきちゃったわね」
サラスは片手を腹部へと当てる。
食欲があるということは何よりも健康であることの証明に他ならない。
「そういうと思って……じゃーんっ。具沢山スープーっ」
ジーナが待ってましたとばかりにカゴから小さな鍋を取り出す。
卓の上へと乗せ、蓋を開けると、つい先ほど済ませたというのにも関わらずその香りに食欲が刺激されてしまうのだから何とも単純だ。
「やるじゃない」
素直にサラスがその準備の良さを褒める。
ジーナもそれに満更でもなさそうだ。
「じゃーんっ! すぷーんも二つあるよっ?」
両の手に掴んで見せては片方をサラスに、もう片方をアイギスへと差し出す。
その手際の良さは正しく、正しく……何だろう。
お姉さん?
自身にはいなかったためにそんな感じではなかろうかという想像でしかないのだが、そこには出会って二日という時間の短さをまるで感じさせない長年連れ添った先に到達する、一種の安心感すら存在している。
「ありがと」
アイギスが受け取るとジーナに礼を返す。
「うんっ、すぐよそうからねっ」
それにニコっと笑顔を向けては再びカゴへと手を入れる。
ほどなくして器を二つばかり取り出しては、流れるように大きな杓子で以ってその器を満たしていく。
「どうぞっ」
「うん。いただきます」
アイギスが待ちきれないとばかりに手を合わせる。
器からは美味しそうに湯気が立ち昇り、アイギスは冷ますかどうするか悩んだ挙句にそのまま口へと放り込む。
どうやら程よい温度加減であったおかげか、火傷はせずに済んだようだ。
「アンタはホント、いいお嫁さんになるわね」
「えへへっ」
「リンにはもったいないぐらいよ」
「だってっ。リンっ?」
「精進するよ」
「えへへっ」
「で? って、いただきます? だっけ」
「あぁ」
「いただきます」
サラスが昨日教えた通りに手を合わす。
別にいただきますでなくともいいのだが、食前と食後の挨拶は重要だ。
「どうぞっ」
ジーナがおかわりもあるからねっと杓子を鍋に、その上から冷めないようにと蓋をする。
「リンさん」
「ん?」
卓を囲んでこちらの横に位置しているマリアから声がかかる。
「見られてます」
それは報告。
簡素で、それ以外がごっそりと抜け落ちた、言わんとすることが伝われば問題ないとする形式的なもの。
「うん。とりあえず、今はいいかな」
「分かりました」
マリアは何事も無かったかのように変わりない態度を示す。
「……何か物騒な事に巻き込まれてるみたいね?」
「あぁ、まっ、心配ない」
「アンタ基準で物事を考えられちゃこっちの身が持たないわよ?」
「大丈夫大丈夫」
「今その言葉はむしろ逆効果だと思うけどね」
「安心していい。これからするのは言ってしまえばただの狩りだ」
「ただの、ね」
「あぁ。ただの、だ」
「まぁ、話してみなさい?」
「まず、この街から犯罪者を消す。その次に協力者を消す。終わりだ」
「……私が間違ってたわ。物騒なのはアンタよ」
「気にするな」
「……殺すの?」
「いや、全員捕まえた上で不死鳥の灰とやらが本当に存在しているのなら買い取る。勿論交渉はするが」
「交渉ねぇ……」
「百二十でも買えるらしいからな。問題ない」
「アンタっ……そんなに貰ってたの?」
「小さかったんだけどな」
「……何が?」
「竜」
「それって、どういう意味で言ってるの?」
「そのままの意味だが」
「……謙遜とかそういうのじゃないってわけね……分かったわ。もう好きにしなさい?」
「一緒に来るんだぞ?」
「いやよ」
「今回は全員で行動する。欠けると面倒な事にもなりかねないからな」
例えるならば攫われたり。
助けることに変わりはないのだが、いや、どうだろう。
既定路線を走った方が良いのであろうか。
「危険に飛び込むならアンタ一人で十分でしょ」
「……そうだな。二手に分かれるとしよう」
「何でそうなるのよ」
「え?」
「続き」
「え、あ、あぁ。いや、別にそれでもいいと思ったからだな」
「……やっぱり私はアンタについていくことにするわ」
「まぁ……うん。そうなるか。ジーナ」
「なにっ?」
「マリアとアイギスを頼めるかな」
「えーっ! って、そのイヤってわけじゃないんだよっ?」
「リンさん。私にお任せを」
「アンタら二人は十分強いんだからアイギスをしっかりと守ってあげなさいよ?」
「そのつもりです」
「ええっ、もう決まっちゃった感じっ?」
「お土産、買って帰るよ」
「うーっ、でもっ、まっ、仕方ないかなっ。うんっ。リンっ?」
「ん?」
「お土産、楽しみにしてるねっ」
「うん。ありがとう、ジーナ」
「えへへっ」
ジーナは姿勢を正すとこちらへと身を寄せてくる。
「リンさん」
「あぁ、分かってる」
ジーナは撫でて欲しいのであろうが、ここはぐっと堪えて伸びそうになる手を抑え込む。
「リンっ」
そんなこちらを知ってか知らずか。
ジーナのことだ、知っていてそうなのだろうが、どういう意図か。
こちらの頭へとその手を伸ばす。
「よしよしっ」
何故か撫でられる。
「リンっ。早く帰って来てねっ」
そうして既に近いというのに。
その距離を更に縮めてきては耳元でささやく。
対するこちらはと言えば。
何か特別な事をするでもなく。
ただ、小さくも確かな頷きを以ってして、こちらの意思をより明確なものとした。




