57、類は友をよぶ
「リン!」
グラフィが肩の上の二人をどこへやったのか息を切らしてはこちらへと駆けつける。
「無理じゃなかっただろ?」
わざとらしくこちらの実力を誇って見せる。
「あ、あぁ。すまん。俺が間違ってた」
「ならさっさと荷物を取ってくるんだな?」
「え、あ、あぁ! どこで落とした!?」
グラフィが慌てて来た道を戻って行く。
「拾ったらすぐ出発だ」
その後ろ姿に声を飛ばす。
「あぁ!」
それにくるっと体ごと振り返っては手を上げて了解の意思を示す。
広場は竜に因ってゴブリンの死骸が残るだけとなっているが、それでもすべてのゴブリンを片付けたわけではあるまい。
身を隠すもの。
死体の下で耐え忍ぶもの。
生存の方法は幾つも考えられ、その可能性は限りなくゼロから遠い。
「あ、あの……」
グラフィからゴブリン。
ゴブリンから声の主へと目線を移す。
「ん?」
そこに居たのは聞き覚えのある声と、その気配。
甘い香りをその身に纏う、青い髪の持ち主。
「え、えっと……そのっ」
両手を前に、視線を外しては落とす。
それから一頻りもじもじとしては、意を決したようにこちらへと向き直ってくれる。
「あっ、ありがとう、ございましたっ」
ジーナは勢いよく頭を下げる。
その表情は大地へと向けられているがために伺い知ることは出来ないが、恐らく笑顔というわけではないであろう。
それが何だが悲しく、そうさせてしまっている自分に対して何とも言えない感情が湧きだってしまう。
「いやいや、大丈夫だった? どこも怪我してない?」
「はっ、はいっ。おかげさまでっ」
こちらの言葉に笑顔を見せてくれるジーナ。
傷ついたのは体で、アイギスに因って既に見当たらないものとなっているが、それはそれとして癒されるものは癒されるのだから仕方ない。
「それはよかった。本当に」
否応なく感情が籠る。
本当にジーナが無事でよかった。
「え、あ、そのっ、はいっ。ありがとうございますっ」
再びジーナに頭を下げさせてしまう。
「あぁ、いや、その。えっと……」
そういうつもりで言ったわけではないのだが、何とも初対面ではないのに初対面である風を装わなければいかないということにいささか違和感を覚えてしまう。
というよりも察しの良いジーナのことだ。
既にそのぎこちなさというものをこちらから感じ取っては、何かしらの結論を導き出していてもおかしくはない。
「ふふっ、ジーナですっ。本当はジーナスっていうんですけどっ、そのっ、もし、良かったら。そう呼んでもらえると嬉しいかなっ……って。初対面なのにおかしいですよねっ。ごめんなさい。今のは無かったことに――」
ジーナの笑顔がずれた思考に突き刺さるも次第に曇り模様を呈していく。
「ジーナか。良い名前だね?」
それを阻止するためなら何のその。
自身が太陽となって、いや、太陽はジーナだ。
「あっ、えっと、そのっ」
「自分はリン。リン・ディー・ローリング。よろしくね」
「あっ、はいっ! そのっ、リンさん。こちらこそよろしくお願いしますっ」
「うん。よろしくね」
手を差しだす。
魔族にも通じる共通の挨拶だ。
本当はリン、と、以前のように呼んで欲しいものだが、初対面でそれを所望すればサラスやマリアの二の舞になりかねない。
ここは常識的にふるまい、何事もなく切り抜けるべきだろう。
「あ、あのっ、ハ、ハグ……とか、いや、です、よね……?」
途切れ途切れなその言葉たち。
まとめて拾い上げては脳内にてしたためる。
「大丈夫大丈夫。ただ、この子を降ろすわけにはいかないから、えっと……どうしよっか」
出した手を引っ込めてはその答えをジーナに預ける。
「そのっ、……後ろから、とか。大丈夫、ですか?」
「え、あぁ、うん。大丈夫大丈夫」
後ろから? というどうするつもりだろうかと考えたところで、結局よく分からないままに全てを肯定する。
「ありがとうございますっ」
「いいよいいよ」
「それではっ」
ジーナは言いつつこちらの後方へと回り込む。
「お言葉に甘えてっ――」
がばっと、しかし優しくこちらをその両手が包み込む。
それから少しして体重を預けてくる。
「ふふっ」
ジーナの嬉しそうな声がその体を震わせては聞こえてくる。
「何やってんのよアンタら」
そこに訝し気な視線と共に現れるのは言わずもがな。
「サラス。生きてたか」
金髪に長い耳。
最早説明不要のその者へと語り掛ける。
「だから誰よそのサラスってのは。私は――」
「あぁ、他人の空似だな。気にするな」
「なら――」
「リンさんっ。この人は知り合いかなっ?」
ジーナがこちらから手を離してはくるりと回転しながらサラスとの間に割って入る。
「知り合いというか、その知り合いに似てるというか」
「それじゃあ他人なんですねっ?」
「そこまで……」
「ねっ?」
ジーナの笑顔と共に閉じられたその瞳の奥がこちらを捉えて離さないのは何故だろう。
「う、うん」
「ならいいんですっ」
ジーナは再びこちらへと近づいてくると、アイギスとは反対側の腕をとってはその距離を物理的に無くしていく。
「別にとったりしないからそんなに見せつけなくてもいいのよ?」
「そんなのわかんないもんっ」
「それにそいつにはもうお気に入りがいるみたいだけど?」
「そっ、それは……」
「仲間のアイギスだ。無口で食べ物に目が無い」
「ほっ、ほんとうに?」
「どうだか」
「後で本人に聞いてみるといいよ」
「ううんっ。リンさんを信じるっ」
「ははっ」
「あーはいはい。お熱い事で」
「何だサラス。まだ何か用か?」
「その言い方はないんじゃない?」
「そっちこそ初対面の接し方には見えないけどっ?」
「サラスは人間嫌いなんだ」
「……まっ、この外見だもの。当然よね。で? アンタも私に何か文句でもあるわけ?」
「ない」
「は?」
「ないさ。サラスはいつもそうだからな。むしろそうじゃないサラスはサラスじゃない。らしくていいじゃないか。そのままでいろ」
「……だから私はサラスじゃないって何回言ったら――」
「なってくれないか?」
「……ちょっと何言ってるのか分からないんだけど」
「サラスに」
「……やっぱり意味わかんないんだけど」
「えっと、そのっ。リンさんは貴女を仲間に誘ってるんじゃないかなっ?」
「……アンタはいいわけ?」
サラスの視線がこちらからジーナへと横に移動する。
「ぼくは、その、見捨てられちゃったから……」
ジーナはその事実に俯く。
成程。
それでかと一人で勝手に納得する。
ジーナの周りに仲間が見当たらなかったこと。
未だにその仲間が姿を見せない事。
その両方に対して一気に説明がついた形だ。
「ジーナ。良かったらだけど。どうかな?」
あえて察しの良いジーナを相手に。
重要な部分を伏せては聞いてみる。
「ぼく、その、えっと……」
「ジーナはそのままが一番だよ」
「へ――」
「守らせてほしい」
「わ、わわわわわわっ」
「いやじゃなければ、だけどね?」
「――」
ジーナはこちらへと顔を埋めては、その表情を誰の目にも触れないようにと蓋をした。




