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盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
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56、つじつま合わせ

 それから毒にも薬にもならない会話を程々に。

 決して早いとは言えない足取りを気に掛けながらも、次第に本来の明るさを取り戻していく巣窟内からその出口を見据える。


「やれやれ、ようやくか」


 横並びになったグラフィから感想がこぼれる。

 道のりとしてはここからが長いのだが、それでも危険度合いで判断するなら一つの区切りであることには変わりない。


「この先も片づけてあるんだろ?」


 念のためというよりかは、既にある事実を再確認するような一種の茶番。

 しかし、それを演じているのはグラフィ、その人だけだ。


「そんなわけない」

「は?」

「そんなわけない」

「いや、聞こえてるよ。その上で、は?」

「そんなわけ――」

「おいおいおいおいおいおいおいおい。冗談はよせよ?」

「いや、本気だ」

「嘘……?」

「本当だ」

「正気?」

「至ってな」

「何で?」

「何でもなにも無い。自分の目で確かめてみるといい」


 そうして巣窟内から外へと、その足で境界を(また)ぐ。


「なッ――」


 (さえぎ)るものなど何もなく開かれた視界。

 そこに広がる何の変哲(へんてつ)もない真実。

 そして声を失うグラフィ。


「行くぞ」


 いちいち大げさなグラフィに付き合ってはいられないと、また付き合う必要性もないためもう眺めることには満足しただろうと自ら行動をもって先を促す。


「いや、いやいやいやいやいやいやいや」


 踏み出したこちらの足をその場へと留めるように、アイギスのいない方の肩を掴んではこれまた大げさに制止される。


「あれを見て……そ、それか?」

「何だ」

「いや、お前、リン。あれは、ダメだろ」

「何が」

「いや、なぁ?」

「行くぞ」

「だから待てって!」


 振り切ろうと前に出した足。

 それが大地へと触れる前に先程以上の待ったがかかる。


「しつこいな。だから何だって言うんだ」

「竜だぞ!?」


 ようやくその真相が現実問題として目の前に降りてくる。

 だが、想定外とは言え、以前に一度相対している身からすればそれがどうしたという程度のことでしかない。


「そうだな」

「あぁ、やっと分かってくれたか……って! おい! だから行こうとするなって!」


 三度目の妨害。

 いい加減このやりとりにも飽き飽きしてくる。


「言いたい事があるならはっきりしてくれるか?」

「竜は無理だろ!」

「無理じゃない」

「無理じゃないのか!」

「あぁ」

「えぇ!?」


 面倒になって無理矢理振り切る。

 対するグラフィもそれ以上は無意味であると悟ったのか、こちらを止めようとはしなかった。


「アイギス」


 竜へと視線を向けたままの状態でその名を呼ぶ。


「なに?」

「大丈夫だよな?」


 あそこまで言った手前、それなりの自信というものはあるのだが、それでも絶対などということは存在しない。

 最悪アイギスだけでもと思い、確認の言葉を送る。


「うん?」

「……危なくなったらアイギスだけでも逃げてくれるな?」


 微妙な返答にこちらのせめてもの願いを託す。


「何で?」

「いや……死ぬのは自分一人でいい」

「何で?」

「アイギスが逃げ切れる時間ぐらい(かせ)いでみせる」

「何で?」

「死んでほしくない」

「わたしも」

「……そうか」


 返す言葉もない。

 ただ、それでもアイギスを死なせる気は毛頭(もうとう)ない。

 広場のゴブリンを文字通り食い散らかす竜へと目を向ける。

 そして、自分自身想定していなかった人物の登場に、気が付くとアイギスへの配慮すら忘れて全速力で駆け出していた。


「ジーナ!」


 声を張る。

 しかし、それが届くのが早いか。

 竜の血に(まみ)れた大口が、内包された鋭い牙をその綺麗な青い髪の持ち主へと誇示(こじ)するように開かれる。


 間に合わない――。


 瞬間的に理解する。

 そしてそれは一種の諦めにも似た思考。

 感情でそれを(りっ)する。

 考えることを放棄し、体の赴くままに、その全てを活用する。


「んっ――」


 見るとアイギスが空を飛んでいる。


 何故?


 考えるまでも無い。


 どうして?


 聞かれるまでも無い。


 答えはその全てを肯定する。


「アイギス!」


 自分で放り投げて置きながら何を間抜けなと思ってしまうが、それよりも事態の収拾に一瞬でもその時間を割きたい。

 いや、そうしなければ、そうできなければ何もかも終わりだ。

 そんな中。

 奇跡には程遠い、偶然ともいうべき産物。

 微かな光明と呼べるものが、その一手に因って作り出される。

 ジーナの頭上にて動きを止めているそれは、竜の意識がアイギスへと逸れたために他ならない。


「身体強化――」


 最早そのようなものが自身の内側に存在しているのかどうかすら怪しかったが、それでも可能性があるのならと僅かばかりの期待を込めて口にせずにはいられなかった。

 しかし――。

 現実は非情。

 だが、不思議と焦りはない。

 ただ走る足を止めることなく、ひたすらに動かし続ける。

 接敵まであとほんの数秒。

 アイギスが竜に触れるのはそれとほぼ同時。


 歯を食いしばる。


 拳に全てを籠める。


 そして――叩き込む。

 全身全霊を。


「――」


 それでも竜はびくともしない。

 残るのは肩まで使い物にならなくなったのではないかと錯覚するほどの激痛。

 だとしても問題はない。

 押し返され始めている腕に回転を加えていく。

 そうして肘を下向きに。

 更に体制を殴打から次の段階へと切り替える。


 足は……何倍だったか。


 ふと頭を過ぎったその考えを脇に置き。

 受け皿としての役割を果たそうと待機するそこ。

 肘へと渾身(こんしん)の膝を打ち付けた。


「――!?」


 竜の困惑が手に取るように分かる。

 同時にアイギスが空中から降ってくるのを受け止める。

 それから感覚の無いただの棒と化した腕を竜から引き抜く。


「――!?」


 血が噴き出す。

 例えそれがとても小さな穴だったとしても。


「っと――」


 竜の尾が痛みに反応してか振り下ろされる。

 これが横薙(よこな)ぎであったならジーナを(かば)って被害を(まぬが)れなかっただろう。

 既に竜の視界にはジーナが映っていないことの表れか。


治癒(ヒール)


 アイギスからすかさず回復が施される。


「アイギス――」

「だいじょうぶ」


 大丈夫というのだからこの際その言葉に甘えさせてもらうことにする。

 恥を忍ぶも何も、今は目の前の竜を何とかするのが先だ。

 アイギスのスキルに因って再び活力を取り戻した腕に力を籠める。

 そこからはこちらとあちらとの根性比べ。

 穴だらけにするのがこちら。

 空に逃げる事も出来るがそうはしないあちら。

 理由は考えるまでも無く、そうするに値しないから。

 だがその慢心こそこちらの付け入る隙。

 尾を躱し。

 牙をへし折り。

 翼に亀裂を。

 そしてその体に無数の穴を。


「グギャアァアア!」


 幾度目かのこちらの攻め。

 思わずと言ったところか、怒りとも悲鳴とも受け取れる声が竜から上がる。

 それを最後に翼を上下にはためかせてはその場に無数の体液をまき散らし、空へと昇って行った。


「アイギス――」


 竜を目線の先で捉えながらもこちらから離れて行くのを確認して声をかける。


「だいじょうぶ」

「本当に?」

「おなかへった」

「帰ったらすぐご飯にしよう」

「うん」


 アイギスは静かに(まぶた)を閉じると寝息を立て始める。

 いつでもどこでも睡眠を取れるという事は極めて優秀な証拠だ。

 戦場で出会った内の誰かがそう言っていたような気がする。



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