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盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
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55、不承不承

「名前は?」


 (おり)越しに男へと問う。


「グラフィ」


 男は言う。

 そこに(よど)みは一切ない。


「そうか」


 これから自分が取らなければならない方針がある程度定まり、うんざりする。


「アンタは?」


 当然のように聞き返される。


「リンだ」


 ここで嘘偽(うそいつわ)りを()べる必要はない。

 ただ目の前のグラフィと名乗った男は以前に、グロスと名乗っていたということだけは念頭(ねんとう)に置いておかなければならない。


「リンか。良い名前だ。それで、開けてはくれないのか?」


 グラフィは片眉を()り上げてはおどけるように言う。

 そこには最早自身が(とら)われているという自覚もなければ、危険な状態であるということも抜け落ちているように思える。

 言われなくともと使い物にならなくなったスコップを背に戻し、そこら中に散乱する剣を拾い上げてはこちらとそちらを分け(へだ)てる(じょう)へと振り下ろす。

 甲高い音を立てて叩き壊されたそれが地面へと鈍い音を立てて落ちる。


「いやー、助かったぜ。感謝するよ」


 グラフィは待ちわびたとこちらから手を掛けるまでもなく、その扉を開け放つ。


「それにしてもやるな?」


 グラフィはニヤニヤと値踏(ねぶ)みするように、こちらを賞賛するように、相対するこちらの出方というものを(うかが)う。


「そりゃどうも」


 相手にする気もないので当たり(さわ)りのない言葉を返す。


「ははっ、なるほどな」


 グラフィは言葉の上では納得を示す。


「それで? 何かあるんだろ?」


 その辺の嗅覚(きゅうかく)流石(さすが)と言わざるを得ない。

 やはり、一筋縄ではいかない男であることは確かだ。


「これから街へと向かう。ただ、その際の人手が足りない。手伝って欲しい」

「それだけか?」

「それ以上何があるというんだ?」

「ハハっ、いいんだいいんだ。ただ(くせ)というか、まぁ、悪い癖だよ。お前――失礼、リンのような無欲というか、見返りを求めない善人がいることに戸惑(とまど)っているだけだ」

「ならその見返りとやらに期待するとしよう」

「よせ、何も持ってないのは見たら分かるだろ」

「元気そうだな。こちらの願いには応えてくれるのか?」

「あぁ、それは勿論(もちろん)。出来る限りそうさせてもらう」

「助かる」

「おいおい、助かったのはこっちだぜ?」


 グラフィはおどけながらも同じように剣を拾う。

 それからこちらとは反対側へと向かい、檻から人々を開放していく。


「ありがとう……」


 扉をくぐる際に男から感謝が述べられる。

 もう何度目か。

 数えてはいないがそれなりの数だ。

 前回は殺しを()けた都合上、自ら剣を持って戦った者や、一目散(いちもくさん)に逃げだしたものの中から数人の死者を出してしまったが、今回は誰一人としてかけていない。

 そこから見ても多いのは頷けるのだが、単純に比較(ひかく)して素直に檻から出てくるものが非常に多い。

 どういうことかと考えて見ると、それもそのはずか。

 目の前でこれだけの数を(ほふ)って見せたのだ。

 帰りに希望を見出(みいだ)す者もそれだけ増えたということだろう。


「どうするよ」


 グラフィが檻から人々を連れ立ってはこちらの横へと並ぶ。

 それが指し示すのは言うまでもない。


「引きずってでも頼む」


 (いま)だに檻から出ようとしない者たちに対しての強制的な行い。

 一方的ともいうか。

 ことここに至っては救いでも善行(ぜんこう)でもない。

 自己満足に近いがそれともまた少し違うような気がする。


「強引だな?」

「そうするかは任せる」

「ハハハッ!」


 面白いとでもいうように比較的元気そうなものを引き連れては次々と檻の中へと入って行く。

 脱出する事を望んでいないというだけで反抗的とはまた違う者達を前に、グラフィは手際よく事を運んでくれる。


「済んだぜ?」


 自身も二人、両肩へと乗せた状態でこちらへと準備完了の意思を伝えてくる。


「行こうか」


 気軽な返事。

 巣窟(そうくつ)内の道すがらに見えたゴブリンは全て片付けてある。

 他所から()けつけるということがないという訳では無いが、比較的その可能性は低いだろう。

 理由は通路にでれば、というよりも、この空間を見渡せば意思の疎通(そつう)は出来なくとも理解には(およ)んでくれると思いたい。


「ひゃー、皆殺しって感じだな」


 グラフィはこちらに対して言っているのか、感想をただ(ひと)り言として吐き出しているのか、いささか反応に困る言葉を後ろで()らす。


「なぁ?」


 どうやら前者であったようだ。


「さぁ……」


 どうにもこの後の事を考えると、言葉を選んでしまう。


「リンにとっては普通、取るに足らないことだってことか?」

「どうだろうな」

「自分のことだってのに無関心なやつだな」

「そうかもな」

「ほう? なら、そろそろその子に()れてもいいか?」

「ただの仲間だ」

「へぇ? ただの、ね」


 こちらの言葉に(ふく)まれた意味をあえて目に見えて分かるように深読みする。


「あぁ」

「ふーん。失礼だが年齢……いや、名前を聞いてもいいかな?」

「アイギスだ」

「リン、お前に答えられたんじゃこっちの立つ()がないじゃないか」

「無口なんだ」

「それもその子の口から聞きたかったな?」

「……」

「どうやら本当のようだな」

「嘘をついてどうする」

「いや? 別にただの他愛(たわい)のない会話じゃないか」

「なら自分じゃなくてもいいだろう」

「何だ。迷惑(めいわく)だったか?」

「事を円滑(えんかつ)に進めるために必要なことだとは理解している」

「嫌なだけか」

「そこまでじゃない」

「苦手なのか」

「その辺にしてくれ」

「ハハハハハッ、面白い奴だな」


 グラフィは豪快(ごうかい)に笑う。

 それはいつしか見た光景と何一つ変わりない。

 ただ、こちらにはそれが虚実、そのどちらであるかなど見分けをつけようもないわけで。

 ジーナでさえ気づかなかった、いや、気付いてはいたかもしれないが、その実――嘘は言っていなかったのかもしれない。

 となると、この者に妹がいるということは本当なのであろうか?

 どう決着をつけるにしても殺すということは仮に存在しているとして考えるならば避けた方が良いのかもしれない。

 いや、そうではないか。

 そう、そうではない。

 結局決めるのは自分。

 責任の転嫁(てんか)も理由を求めることもしてはならない。

 罪は罪として、悪は悪として、それを別のものに置き換えてはだめだ。


「リン?」


 視線は真っすぐに、意識は周囲へと(めぐ)らせているのにも関わらず、その思考を(とら)えてか。

 アイギスから気遣(きづか)うような声が上がる。


「大丈夫」


 後ろのグラフィに聞かせることでもないだろうと話の流れを一言で()ち切る。


「わかった」


 それをアイギスも(さっ)してくれたのかこちらに合わせてくれる。

 しかし、グラフィは面倒なことにそれを見逃しはしなかった。


「おいおい、何がただの仲間だよ?」

「……何がだ」

「どうみてももっと深い仲に見えるぞ?」

不思議(ふしぎ)か?」


 付き合う必要はないが、今後の事も考慮(こうりょ)すればこそ無用な争いは避けたい。

 無難なところで答えを(かわ)しつつ、疑問に疑問で切り返しては攻守を逆転させる。


「不思議というか、単純に変だろ」

「自分には分からないな」

「いや、その腕に乗せてるのとかもそうだが」

「これは……まぁ、気にしないでくれるとありがたい」

「普通だとはおもってないってことが分かって安心したぞ」

「こちらからすれば普通なんだがな」

「分かった。成程な。普通だよ。リンは」

「その言い方だと語弊があるように思うが」

「大分毒されてるな」

「察しはつくが先に言っておく。アイギスは変じゃない」

「どうかしてる、って言いたいところだが、それがただの仲間に見えない理由だな」

「アイギスはアイギスだ」

「あー、いや、そうだな。普通、といったら何だが、人をそこまで受け入れられるやつは少ないぞ」

「……どういうことだ?」

「リンはその子のことをどう思ってる?」

「普通」

「それだ」

「何が」

「いやだから、その普通を他者が見れば普通じゃないんだよ」

「らしいだけだろ?」

「普通そうは思わないのさ。いや、思えないか」

「分からんな」

「リンにも心当たりがあるんじゃないか? 例えば……集団に属せないというか打ち解けないというか、余るというか?」

「それは……」


 ある。

 というよりか自身もそのうちの一人だった気がするが。


「心当たりがあるようだな。まぁ、言いたい事は他者が受け入れられないその子を受け入れているリンに対してその子はそれだけリンを受け入れているってことさ」

「長いな」

「つまりだな……ただの、ってのはおかしい」

「……どう反応すればいいんだ?」

「いや、こっちとしても反応に困ってるとこだ」

「なら終わりだな」

「まぁ、思っていた関係と違うんだからこれ以上は詮索(せんさく)しようがないな」

「詮索屋は嫌われるらしいぞ」

「相手を知ろうとする行為に難癖(なんくせ)つけるとは。なんてやつだ」

「忘れた」


 確か部下だったか、それとも上司だったか。

 敵だったか味方だったかそれも覚えていない。


「いやいや、まじめな奴だな。でも、思っていたのとは違っただけである意味それ以上の関係とも言えるのかもな?」

「まだ続けるのか」


 若干の(あき)れを交えながら言葉にする。


「おいおい、俺を一方的に悪者にする気か?」

「そうは思わないが……まぁ」


 そういうならと下手に隠すことなく直接的な疑問をぶつけることにする。

 ある意味絶好の機会と言えなくもない。


「家族はいないのか?」

「いきなり俺をすっ飛ばすか。面白い奴だなリンは」

「どうも」

「褒めてるのか自分でも微妙なところなんだが……そうだな。妹が一人いる」

「ならさっさと帰らないとな」

「あぁ、きっと心配してる」

「……」

「終わりか!?」


 グラフィの叫びが巣窟へと木霊(こだま)した。



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