48、三桂あって
「リンさん」
道中、間に一人挟んではマリアから声が投げかけられる。
「ん?」
足を止めることも緩める事もしないままに進行方向と周囲に意識を向けながら聞き返す。
「追っ手が見えません」
それは当然の疑問。
こちらも抱いていたが優先順位というものがある以上、後回しにされていた案件だ。
「いるにはいるんだろう?」
自身もなんとなくでは捉えているものの、正確性というもので言えば朧気であると言わざるを得ない。
なんとも希薄で数こそ少ないものの、常に動き続けている位置からは想像できない程こちらにその存在を気取らせない。
だからこその目視であると言えるのだが、幸いなことか、未だに近づいてくる様子もなく、目を向ければ見えるというところにまではいたっていない。
だが、その上で聞いて来ていることから察するに、マリアは既に見えていてもおかしくない範囲にそれを捉えているのであろう。
だからこその疑問。
見えるはずのそれが見えないのだから。
「はい。数にして十五……多くても十六でしょうか」
「マリアでも難しいか」
「すみません。ただ、気配を消失させることは出来るとしても、これだけ動き回っている中で見えないというのはいささか疑問を感じます」
「あいつら……見えない。見えるとき、最後……」
間から声が上がる。
着いてからでも良いかと思っていたが、さすがに聞くべきだろう。
「名前、まだ聞いてなかったね。自分の名前はリン」
「私はマリアとでもお呼びください」
「う、うちは……ニャ、ニャメス」
「ニャメスさんか。よろしくね。それで、見えないと言っていたけれど詳しく話を聞いてもいいかな?」
「姿、見えない。声、聞こえる。でも、音、聞こえない」
省略されたたどたどしい説明だが、それでも相手の全容というものが少なからずつかめてくる。
「うん。他にも何かあったりする?」
「魔法、使う。早い、剣、まとまると、囲まれてる」
「相手の魔法の種類についてと武装についてもお聞きしてよろしいですか?」
「足、止める。斬る。絡まる、立てなくなる、苦しくなる、立っていられなくなる」
「ありがとうございます」
「武装はいいのか?」
「恐らく常識の範囲内でしょう」
「特別対処する必要はなしか」
「はい。それよりも魔法が厄介ですね。ただ、攻撃というよりも……」
そこで思考と会話を切り上げる。
ジーナたちが見えてきたためだ。
話の続きは三人を交えてからの方が有益であると判断したのであろう。
「リンっ、マリアっ」
ジーナが窪みへと招き入れるように端へと寄ってはこちらが入り込めるだけの空間を作り出す。
それに応じるようにしながらも端は自分が居座るべき位置であることに変わりはない。
危険と対処が出来るであろうマリアもそのことを理解してか、何かを言うまでも無く進んでその場所へと向かう。
「ありがとう」
礼を言いながら真ん中にニャメスを配置し、その横にジーナ、アイギス、サラスを押し込める。
「彼女の名前はニャメスさんと言います」
サラスの横に腰を落ち着けたマリアが早速と話を切り出す。
「ぼくはジーナっていうんだっ、よろしくねっ」
「私はサラスよ。こっちはアイギス」
「にゃ、ニャメス、です。よろしく、です」
ニャメスは居心地が悪いというよりも、びくびくと怯えながら縮こまる。
それをジーナが少しでもほぐそうとしてか、横から肩を抱いては背中をさする。
「あ、ありがとう、です……」
「うんっ、もう大丈夫だからねっ」
ジーナは明るくそう言い放つ。
そこには一切の嘘がない。
「あ、あい……」
目に見えて緊張が取れたわけではないが、それでも改善の余地をこちらに示してくれる。
こういうときジーナには本当に感謝というか、頭が上がらない。
「それでっ? もう方針は決まってるみたいだけどっ?」
相変わらず察しがいい。
マリアと目を見合わせ、どちらからともなく、こちらが首を縦に振る。
「はい。ジーナさんのご明察通りです。何者かに追われている彼女たちを私とリンさんは助けます」
それ以外は無いとマリアは言い切る。
「別にいいけど、大丈夫なの?」
「私の推測ではかなり厳しいと思われます」
「へぇ?」
サラスがこちらへと目を向ける。
「話を聞く限りで把握するならな」
「ですので、私は二手に分かれることを提案します」
「ダメよ」
「ダメだ」
「それはだめだよっ」
アイギス以外から反対の意見が出るもマリアは自身の考えを改める気はなさそうだ。
しかし、それにはこちらの協力が必要不可欠。
マリアもそこの所はしっかりと理解しているのか、ならばと代替案を要求してくる。
「私はこれが危険を分散させる上で最善であると考えています」
「安全も分散されちゃかなわないわよ」
「私が途中まで先導します。そこからはサラスさん主導で街へと向かってください」
「そこで合流しようってわけ? 確かに上手く行けば良い手かもね」
「では――」
「上手く行かなかったときが最悪だけどね」
その声はマリアを遮り、考え方自体を真っ向から否定する。
「アンタのいうそれは確かに最善かもしれないけれど、それは私たちの最善ではないわ」
「今はそういうことを言っている場合ではないかと。少しでも生存率を上げるために行動する事の何が不満なのでしょうか?」
「二人とも待ってっ。それよりもいい案があればいいんだよねっ?」
ジーナが間に入り、場を落ち着かせる。
「聞きます」
「言ってやりなさい?」
「リンっ、お願いっ」
ジーナが顔をこちらに向けては笑顔で主張する。
それは丸投げというのではないかと思ったが、この笑顔には勝てない。
それまでの考えをまとめて、最初の一声を絞り出す。
「そうだね。うん。二手に分かれることには賛成だ」
「ちょっと」
「続きを」
サラスが眉間にしわを寄せるが、マリアがそれ以上に時間が惜しいと制止する。
「ただ、マリアにはサラス側に行ってもらう」
「だめよ」
「……リンさん、一人では流石に荷が重たいかと」
「追いきれるか不安なのは分かる。ただ、追うのが難しいなら向かわせればいい」
「決まりだねっ」
ジーナがうんうんと頷く。
それは普段のジーナからしてやけに素直だと言わざるを得ないほどだ。
「……私はいやよ」
「サラス」
「アンタが私を守れなくて死ぬのなら納得できる。でも、今ここで譲って死んだりしたらきっと後悔するわ」
「アイギス」
「やだ」
詰んだ。




