47、それというのはハートでつけるのは火
「寄せるよっ!」
ジーナがマリアの言葉にすぐさま行動を開始する。
具体的には開かれた道の真ん中を進む馬車を脇へと向かわせる。
「数は?」
それを少しでも早めるように大地へと飛び降りては、後に続くマリアへと声を掛ける。
勿論こちらの腕の中にはアイギスが居るが、最早不思議ではなく、極々当たり前のことでしかないのはマリアの反応を見ればわかるというもの。
「多いですね。ただ、どうにもまとまりが無いように思えます」
こちらが未だにその姿を捉えられていない以上、マリアのその言葉を土台として早急に対策を組み立てて行く必要がある。
ただ、現時点でこちらの問いに対して抽象的な答えしか持ち合わせていない所を見ると、距離はかなりのものであるとも受け取れる。
「速度は?」
「かなり早いですね。……何かに追われている? ようです」
「接触する可能性は?」
「高いかと」
「……ジーナ!」
考えをまとめながら馬車を木の陰、茂みへと止めるジーナへと意見を求めてはその背中へと呼びかける。
「作業しながらでいいっ?」
「あぁ、数は多い、追われている、速度は速い、時間はない、接触する可能性は高いまででいい案はあるかい?」
「潜伏……かなっ」
「マリア」
「場所の選定に移ります」
そう言ってマリアは駆け出す。
ジーナを手伝うことも可能だが、邪魔になりかねない。
ここはサラスを荷台から移動させるのが最善か。
「サラス」
言って荷台へと足をかける。
「じょっ、状況は?」
思ったよりも意外に冷静なサラス。
これなら事も円滑に進みそうだ。
「戦闘になるかもしれない。潜伏してやり過ごす」
「荷物はどうするのっ?」
「最低限だ」
「仕方ないわね……」
二人して各々の荷物を掻き集める。
それからジーナと合流してはマリアの後を追う。
とはいっても馬車からそれほど離れていない場所であるからにして。
木の根部分が隆起するように、若干の窪みが生まれているところからマリアが顔を覗かせては傍へと誘う。
そこへ姿勢を低くしたままの状態でもって駆け込む。
「リンさん」
「あぁ」
ついて早々マリアから声がかかるが、その内容は聞き返すまでも無い。
その場にアイギスとジーナ、サラスを残しては目視での索敵を開始する。
「気をつけてっ」
ジーナの声。
二人して頷いては茂みの中の地面を這う。
「マリア、心当たりは?」
目にすればいずれわかる事だが、相手の正体に考えを巡らせるのは悪い事じゃない。
「人間ではないですね」
「ゴブリンでもないように思える」
「ではその間でしょう」
「エルフか」
「サラスさん基準でもありえなくはないですね」
「精度は?」
「そういった方々であれば納得もいきそうなものです」
「そうなってくると追われてる方よりも追っているほうに重点を置くべきのような気がしてきた」
「同感です」
「……あれか」
茂みの間から視線を伸ばしては、足を止めてその先を見据える。
「……やはり、そのようですね」
こちらの視界に収まる影。
それはただ全てを差し置いて生き残るためだけに走る、獣の耳を頭に生やした自身の常識にはない初めての者達だった。
「エルフ、というよりも魔族に近い印象を受けるな」
「見た目こそ人間のそれに近いものですが、ある一部分の変質だけで乖離しているという点。確かに外見だけを照らし合わせればその通りですね」
「中身はどう思う?」
「……必ずしもそうであるとは限りませんが、実際、遠く及ばないように感じます」
「どっちよりだろうな……」
「少なくとも意思の疎通は可能であってもおかしくはありませんね」
「こっちにくるな……どうする?」
幾人ものうちの一人がこちらへと進路を取っているのが見える。
「情報が欲しいところですね。ここは危険を冒してでも接触するのが今後という面から見てもよろしいかと」
「決まりだな」
微妙な位置取りを最適なものへとマリアと共に変更していく。
それからさほど時間を置くこともなく、既定路線でこちらへと到達したその者をあくまでこけたように見せかけ茂みの中へとその姿を消失させる。
「――!」
受け身を取る事無く、地面へと成すがままににして倒れるその者。
こちらを認識した瞬間に目が大きく見開かれ、声を上げようとしたところをすんでのところでマリアが押さえ込む。
「安心してください。私たちはあなた方の敵ではありません。何があったのか事情を説明していただければ手助けすることも可能です」
マリアが必要な点のみを簡潔にまとめては伝える。
加えて、擦り傷だらけのその体に治癒を施してはこちらにその気がないという事を強調する。
「いいですか? これから手を離しますが、大声を上げたり、立ち上がったり、逃げ出そうとしたりといった行動をとった場合に、私たちは身の安全の確保のため制圧に動かざるを得ません。私はあなたに理性的な行動を期待します」
言ってマリアが口元を覆っていた手をまず最初にどける。
それから何も言わないのを確認してはその身の自由を確立させる。
どうやらこちらの言葉は上手く伝わっているようだ。
「何に追われているのですか?」
マリアが優しく、しかし、自分からは何もしゃべり出さないその者へ対して、話の切り口というものを与えては様子を見る。
「に、人間……助けて……お願い……皆……ひどい目に合う……逃げなきゃ……」
「リンさん」
「あぁ、どうやらそういうことらしい」
マリアの目に、久しく見なかった救いの炎が灯るのを感じられる。
「とりあえず合流して意見を集約しよう」
結果は見えてるが。
しかし、過程は踏むことに意味がある。
そうして三人と数えてよいのかいささか謎ではあるのだが、その者を連れ立ってジーナたちの下へと急ぐことにした。




