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盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
42/157

42、視点

「ありがとうございます」

「ハハハッ、それで? 私達魔族がこの件に関してどう思っておるかだったな?」


 ティルスは脱線しかけた話を自ら持ち直す。


「はい。出来得る事ならば、魔族としての共通見解(けんかい)とティルスさん個人としての見解。その両方をお聞きしたいと思っております」

「ほほう? 広き視野(しや)を持ち合わせているというよりも広き視野を持ちたいようだな」

「一方的なものの見方で(かたよ)った見識(けんしき)を持つのは()けるべきだと考えています」

「ほう。ならば人間も呼んだ方がいいな。リン、お主はそれ以外と一括(ひとくく)りにしたがそれらも呼ぶかね?」

「意思の疎通(そつう)が可能であるならば是非(ぜひ)

「それは無理というものだ。奴らは単細胞ゆえ、他種族との共通した言語の取得に成功しておらん」

「そうですか」

「あまり残念そうでは無いな?」

「ティルスさんであればと考えましたが、それが甘い認識だったことに過ぎない事が証明されただけですので……」

「長々とそう自身を()めるものではないぞ」

「済みません」

「謝るな謝るな」


 ティルスがこちらの謝罪を手で制しては、お互いに次の一言を(ゆず)り合い、一瞬の沈黙(ちんもく)(おとず)れる。


「――お待たせしました」


 それを見計(みはか)らったかのように、(ひか)えていた魔族が店の奥から姿を見せた人間代表をその場へと合流させる。


「料理長のゼフンだ。言わずもがなこの料理もこの者が作った」


 ティルスはゼフンと呼ばれた男を自身の(そば)へと手招(てまね)きしては、簡単に紹介する。

 見た目も料理長と言われるだけあって、その格好から顔つきまで正に料理長という感じだ。


「初めまして。ティルス様から――」

「よせよせ。堅苦(かたくる)しいのはなしだ」


 ティルスがゼフンの言葉をつまらんと一蹴(いっしゅう)する。

 その瞬間ゼフンの体が硬直したように見えたが気のせいではないだろう。

 それだけでも人間と魔族、ティルスとゼフンの関係性とというものがある程度予測できるというものだ。


「私はゼフンと言います。本日この店で料理長を務めさせていただいております。よろしくお願いいたします」


 声は流れるように、しかし、若干の緊張(きんちょう)強張(こわば)った表情からか体は微動(びどう)だにせず、正に背中に鉄の棒でも刺さっているかのような直角的な礼をする。

 ただ、こちらもそれに対して相応(そうおう)の受け応えをせねばならない。

 立ち上がり、相手に失礼が(およ)ばぬよう姿勢を正す。


「こちらこそご丁寧(ていねい)にありがとうございます。私の名前はリンと申します。しがない冒険者ですがゼフンさんの御料理、大変美味しくいただいております」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます。幸甚(こうじん)(きわ)みにございます」

「もうその辺でよいであろう。話を戻すが、そうだな。まずは魔族全体の意見ということであれば主に三つに分ける事が出来るだろう」


 言いつつ、ティルスは手の指五本の内、三本をその場に立ててはゼフンを脇に座らせ、聞く体制が整うまで数呼吸程待つ。

 それから再び口を開くまでに自身以外の者達へとどういう狙いかはさておき、顔も表情も動かさず、目線だけ走らせる。


「まずは一つ目。これが大多数を占めるわけだが、簡単にまとめれば人間に対して好戦的な意味合いを持つものが多い。二つ目は人間(など)どうでもよいという身勝手なものだな。三つめは人間に対して一種の配慮というものをもつべしとするものだ。リンの要望通りに自身をこのどれかに分類するというのならば、それは一つ目の好戦的なものであろうな」

「成程と言ってもよいのでしょうか」

「引っ掛かりを覚えるかね?」

「覚えていないといったら失礼に値するのでしょうか」

「そのように気を(つか)わなくともよい。率直(そっちょく)な意見を()べてみよ」

「では――自分が思うに、ですが。ティルスさんは好戦的と言いましても表面上からは一切それを感じ取ることが出来ません。恐らくですがその方向性か加重というものが異なっているのではないかと、勝手ながら推測します」

「当たりだよ。やるな、リン」

「ありがとうございます」


 褒められると何だかんだ嬉しい。

 が――瞬間的に脇腹に電流が走る。

 意識を向けるまでも無い。

 アイギスが何かしたのであろう。

 それは一体何を意味するものであろうか。

 考える素振りも気にした風も目の前の者には見せてはいけない気がする。

 もしかしたらその抑え込むという感情と思考の動きすら見通している可能性は未知の者であるが(ゆえ)に否定は出来ないが、それでも極力そう(つと)める。


「まぁ、そう身構えなくてもよい。単純な話、好戦的というのも自身で好戦的だというのも、周囲からそう言われ、そう(とら)えられているからそう言っているだけに過ぎんのだよ」

「では本命は別にあると?」

「ハハハッ、そうだな。本命というよりは本質か。お前にとっては朗報だとも。私は二つ目でも三つ目でもない。ただ、身勝手なだけなのだよ」

「自分に正直なのでしょう」

「よく言えばな? ハハハッ」


 ティルスは笑う。

 だがそこには、純粋に楽しいから笑っているという意味意外にも、自身で自身を(あざけ)るという実に(いびつ)な感情も(ふく)まれているように思える。

 とは言っても、ティルスからはそれすらも甘美(かんび)なものとして味わっているかのような節が感じ取れてしまうのだからいかんともしがたい。


「さて、自分語りも度が過ぎると見苦しいからな。ゼフン、お前の番だ。内容は言わずとも分かるだろう?」

「はい。では僭越(せんえつ)ながら。私ども人間視点でものを申させて頂くならば、魔族とは善悪の悪。正邪の邪。そういったものであります。しかし、私一個人としての感覚では正に逆であるとも見て取れます」

「ほう? 面白いな。続けろ」

「はい。人間として人間側に立ち、魔族を見た時、それは正に(にく)むべき存在であり、全ての怒りの矛先(ほこさき)であると思っておりました。ですが、人間として魔族の方々にこの街が占有(せんゆう)されてからというもののそれが間違いであったと幸運にも気がついてしまったのです。人間とは何と(おろ)かな者達の総称であるのかと、自身がその内の一人であることを悲しみ()やんだ日も一日や二日ではありません」

「であれば? 何だというんだ」

「人間という種から見た魔族の方々は正に悪としての象徴(しょうちょう)でしょうが、個人から見た魔族の方々は一種の隣人に過ぎないという事です」

「ハハハハハハッ! 面白い事を言うではないか!」

「ありがとうございます。そして、そう考えた時に、個人から見た人間という種は例え悪ではないとしても、善ではないのです。それはいくら取り(つくろ)おうとも(くつがえ)らせることの出来ない事実に他なりません」

「言い切るか。リン、お前は今の話を聞いてどう思っている? 私はお前の話が聞きたくて仕方ないぞ」


 ティルスは酷く上機嫌な上に、若干の前のめりな姿勢を加えてはこちらに意気揚々(いきようよう)と問うてくる。

 しかし、それにこちらが答えることは無かった。

 いや、答えるまでも無く、ここまで無言を(つらぬ)いていた自分以外の者から声が上がり、それが結果としてティルスの期待を裏切ることとなってしまったのだ。


「面白い話をするじゃないか。この売国奴が」


 お嬢さんと呼んでいる女性が食事を済ませ、口元を軽く()いた(のち)

 はっきりとした口調で悪意を(にじ)ませるどころか相手に()びせるように発言する。

 それはこちらとしても予想外だったが、ティルスとしても予想外だったに違いない。

 あからさまに何だコイツはという今まで眼中になかった者が、初めてその視界に収まっては自身を飛び越えてゼフンを(おそ)った暴言に眉を()り上げる。

 が、それはそれとして、こちらはこちらで脇腹を再び小突かれる。

 見るまでもなくアイギスであろうが、そこで視線をアイギスへと向ければ、ティルスの興味を引きかねないと同時にティルスが意識をこちらから外しかねない。

 しかし、最早(もはや)見るほかないであろう。

 当初、ツン、程度であったものが、今やツンツンツンツンを通り越してツンツンツンツンツンツンぐらいになっている。


「ご不快な思いをさせてしまったのであれば謝罪いたします。申し訳ございません」

「今の発言。謝れば済むとでも思っているのか?」

「これは誠意の問題です。私個人の考えについては貴女様にどうこう言われる筋合いはないかと思いますが、意図せずともそれで貴女様をご不快にいたらしめてしまったというのであれば、もっともな意見として謝罪するのが相応(ふさわ)しいと勝手ながらに判断いたしました。重ねて謝罪させていただきます」


 ゼフンは席から立ち上がると頭を深く下げる。

 それはこちらに挨拶したときと変わりない角度だが、中身が違い、重さが違う。


「私は――」


 そう言いかけた所でティルスが卓を叩く。

 いや、叩いた衝撃でその部分だけ(えぐ)れたため、叩いたとは見た目的にも心情的にも言えない気がする。


「謝れば済むとでも思っているのか……だと? お前こそ私の貴重な時間を奪っておきながら、謝れば済むとでも思っているのではないだろうな?」


 ティルスの(しび)れを切らした意識と視線がお嬢さんへと向かう。

 いささか鬼気(きき)(せま)るティルスから視線を外すのは危険と言わざるを得ないが、それでもここしかないであろう。

 アイギスへと振り返る。

 そして、衝撃の事実が同時に発覚する。

 こちらをつついていたのは卓の下から伸びたサラスの足だったのだ。

 ティルスからもゼフンからも見えないようにつつくその芸当は、何とも器用だと言わざるを得ない。

 感心しつつもアイギスを見やれば、いつでも準備完了とその口を押えては(ほお)をもごもごと(ふく)らませている。

 つまりそういうことなのだ――。



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