38、間違い探し
「アイギスもそう言ってることだし、そろそろ本題に入ろうか」
アイギスを背中から引き剥がし、自身の前へと移動させる。
「現状、こちらとしては三つほどあの街に対して選択肢がある。まず一つ目は介入。二つ目は静観。三つ目は放置。皆にはリーガンを目指している最中だということも含めて意見を述べて欲しい」
「四つ目を忘れてるわ」
サラスに指摘される。
「四つ目は反逆かな」
「遠くないわね」
及第点。
「あの、リンさん」
マリアが控えめに挙手をする。
「ん?]
「私は五つ目を提案します」
「どうぞ」
「把握です」
「なるほど」
まずはどうするかではなく、そうするに値するだけの理由を探そうというわけだ。
「他は?」
「逃避なんてどうかなっ?」
「採用」
「やたっ」
「他には?」
「もういいでしょ、そのくらいで」
「ならとりあえず多数決でも取ってみようか」
「リンーっ、これで決まるってわけじゃないよねっ?」
「多数決何だから決めなくてどうするのよ」
「とりあえず、だね。たちまち自分の意思を示してくれるだけでいいよ」
「それ意味ある?」
「自分はそう思ってる」
「ならいいわ」
サラスは素直に引き下がる。
それから、介入、静観、放置、反逆、把握、逃避で挙手を募り、結果、静観一、放置一、把握二となり、結局アイギスは最後まで手を挙げることは無かった。
「アイギス、まずはアイギスから聞いても良いかな?」
「おなかへった」
「介入だね。恐らく一番早く辿りつけるのは」
補給もかねてこの街に寄ったのだが、馬車の運転手はこれを見て早々に引き返してしまった。
どうにか次の街を目指せなくも無いが、それだとご飯にありつけるかどうかはかなりの要素が運に左右される。
となると、必然的に介入が一番手っ取り早いものであることは確かだ。
「次は、自分かな。静観を選んだのは把握に意味合いが近いけど、まぁ、放置よりの把握とも言えるかな。把握が積極的なものだとするなら、静観は消極的なものだね」
「私は別に関わる必要性を感じていないから放置よ。それに今はやるべきことがある以上、むやみやたらに手を広げるべきではないとも思うわ」
「私はそこに至るまでには理由が足りていないと思います。助けを求めているのかどうか、そういったことも含めて知る必要があると思います」
「僕もマリアと一緒かなっ。今は把握に努めて、今後の方針はそれからでも良いんじゃないかなって思うよっ」
それで全員の意見が場に出揃う。
「危険度で言えば介入、把握、静観、放置の順だと思うけど」
「その分得られるものも多いと思うよっ?」
「相手次第なところが少しね……」
「であればこういうのはどうでしょうか?」
続けるようにマリアは説明する。
「まず把握、次に介入か放置、静観はことの性質上、把握と見なして消化します」
「それこそ介入は把握と変わらないでしょ」
「では、把握に努めた後、放置するかどうか、その一点のみで再び多数決を取ればいいと思います」
「まっ、それが一番折衷案としてはまともかもね」
「賛成」
「さんせーいっ」
各自から賛同の声、または合図が上がる。
決まって見れば実に擦り合わせというには簡素なものであったが、それでも各々がどう事態について考えているか、もっと言えばどう向き合っているか。
それが分かっただけでもこのやり取りには意味があったと言える。
「それじゃあ、いこうか」
方針が固まった以上、この場にいても仕方ないため行動を促す。
そうして先陣を切っては街へと舵を取る。
勿論アイギスを腕に抱えるのを忘れずに。
「リン」
数歩と立たずにアイギスが腕の中で異を唱える。
「アイギスっ、これで今は我慢できるっ?」
事詳細を話すまでもなく、ジーナは最短で最善を尽くす。
その手には乾物が差し出されるように乗っている。
「……」
「アイギスっ? いいんだよっ。遠慮しないでっ?」
最早ジーナに言葉は不要。
そして、アイギスはアイギスでそれをどう受け取っているのかは分からないが、そっと手を伸ばしては乾物を口に運ぶ。
「ありがとう」
アイギスからジーナに礼が飛ぶ。
それにジーナが笑顔で答える。
何とも微笑ましい、見ているだけで心温まる光景だ。
「リンさん」
お次はマリア。
あまり騒がしくするのは正規の道を外れているとはいえ望ましくない。
しかし――他でもないマリアがと特別扱いするわけではないが――それでも何か用があるというのであればそれを拒むという選択肢は自身の中に存在しない。
むしろ周囲への警戒を怠ることなく喜んで聞くまである。
「何かあった?」
少し、声の音量を下げては小声で聞き返す。
「その、実は、この街なのですが……新しい地図には載っていないようなのです……」
衝撃の事実。
だが、別段驚くにはまだ足りない。
そこで浮かびあがって来た質問を率直に質問として投げかけて見る。
「道はどう?」
「道は表記されています」
「街の場所は?」
「空白、というわけでもなく、森に覆われているようです」
「古い地図には載っているわけだね?」
「はい。ただ、どれ程前のものかという点につきましてはお答えできかねます」
「古い地図との相違点は?」
「範囲が少し拡大しているように見えます」
「新しい地図の方はどうかな」
「範囲はかなり近いものだとは思われますが、それ以上は何とも言えません」
「なるほど。定期的な観測はしているみたいだね。この街の今の姿を知っているのも確実か。その後の動向はどうだろう」
「一つ補足があります」
「ん?」
「南方に進路を取ったとき、この街は非常に重要と言わざるを得ません。ここを飛ばすとなれば短期的に危険な道を選ぶか、長期的に余分な物資を持ち合わせる必要があります。しかし、道中の安全は確保されていません。国という形態を取っている以上この状態は不可思議と言わざるを得ません」
「損失か……」
国のもっとも嫌うものの内の一つだろう。
であれば何故、国はそのままにしているのか。
考えられることは二つ。
手に負えない。
手が付けられないかのどちらかだろう。
前者であれば、力や数で。
後者であれば優先順位の問題だ。
だがそれにしても地図が刷新されるような期間を放っておくのはどこかおかしい。
「マリア。マリアなりの答えを聞かせてくれるかい?」
「はい。恐らくですが……そうしておいても良い理由があるのでしょう」
「例えば?」
「放って置いても解決する算段がある。放っておくことで解決する。放っておくことになっている。様々な理由が考えられますが、このまま進めば私達が解決してもおかしくはないと思います」
「なるほど。仕組まれていると言いたいのかな?」
「仕組まれた。勿論そうであろうと考えますが、仕向けられたとも考えられます。またはその両方であるとも」
「マリアは気付いていて把握を選んだわけだよね?」
「はい。それもこれも人一人捕まえて喋らせればことの済むことでしたので」
「そっか……なら、そっちは任せて良いかい?」
マリアに目配せする。
それだけで伝わるかは正直やっておきながら少し心配したが、何の事はなく、同時に右と左に分かれることに成功した。
「えっ、ちょっと、なに!?」
サラスの声が背中に反響する。
そんな中、こちらの意図に気付いたそれらは一目散に逃げだそうとその姿をなりふり構っていられないものへと変化させていく。
しかし、圧倒的なまでにその行動は遅い。
「――っと」
難なくその背中に追いついては簡単に制圧。
振り返ればあちらもこちらと同じようなタイミングで無力化に成功していた。




