表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
32/157

32、行き当たりばったり

 私の名前はレイナス。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 ただあえてそれ以外を取り立てて言葉にするなら、騎士、騎士のレイナスと呼ばれることが多い。

 自身でもそれが気に入っている。

 ただのレイナスでも騎士でもない。

 騎士のレイナス。

 これほど自身を何者か分からせるものは存在しないのではないかと思う。


「騎士長」


 そう呼ぶのは自身の斜め後ろに陣取っては(いか)つい顔で正に歴戦と呼ぶに相応しい男だ。

 だが、この男は私を騎士長などとその役割や役職だけで呼んでくるので実力は買っているがそれだけだ。


「何だ」


 いつも通りの反応を威厳(いげん)を持って返す。


「先日のあの男についての待遇ですが」

「あぁ――」


 あの男か。

 といってもただの資料として紙切れ数枚の中に数行現れただけの男。

 たしか――


「リン、とか言ったか」

「はい。その男ですが、隻眼(せきがん)のドラゴンを生身で止めたそうです」

「……虚偽(きょぎ)の報告というわけでもあるまいな」

「はい。現地の騎士たちの証言、痕跡(こんせき)、そして何より遺体に残された――」

「よい。ただの(ひと)り言のようなものだ。気にするな」

「了解しました」


 男はそういうとすっとこちらに対して距離を置く。

 考え事をしたいこちらにしてみればそれは非常にありがたい事だ。

 それにしてもリンか。

 面白い。

 どうりでロッテンが拾いたがる訳だ。

 いや、そういえば近くに寄る機会があったな。

 一度会ってみるのも悪くないか?




「……何で私とアンタが留守番なのよ」


 サラスが(つの)らせることなく不満を吐き出す。


「人には向き不向きというものがある」

「べっつにー、私も行きたかったってわけじゃないけどさー? こうも最初から考慮(こうりょ)にも入れられずに外されると少しは思う所があるっていうかさー?」

「後の祭りだな」

「そりゃあね? でも、あの子たちに聞かせるようなことでもないでしょ」

「聞かされる身にもなってもらいたいもんだな。別にいいんだが」

「いいならいいじゃない。それこそ? アンタも何かあるっていうんなら聞いてあげなくも無いわよ?」

「特にこれと言って話すようなこともないな」

「うっそー? 何か一つぐらいあるでしょ? こうー、人間鬱陶(うっとう)しいとか気持ち悪いとか気色悪いとか気味悪いとか反吐(へど)が出るとか、まぁー色々、ね?」

「……前から思っていたんだが本当にそう思っているのか?」


 この際だからと聞いてみる事にする。

 思えばサラスは人間が嫌いだと公言しながらもこうして人間であるこちらに対してあからさまな敵意や不信感というような一般的に悪意と呼ばれて総称(そうしょう)される概念(がいねん)の感情を向けているのを、向けられているのを感じたことはない。

 それは単純にサラスが自身の感情を隠すことに()けているのかそれとも本当に思っていないのかどちらかだとは思うのだが、ここまである程度行動を共にしてきて、どうにもそのどちらでも無い気がしてきている。

 というよりも、する。

 具体的に言えば、根幹に嫌悪感というものは持ち合わせてはいるが、あくまで人間という種に対してであって個人に対してまで向けられているものではないように思える。

 またはその逆で、ある特定の個人にだけそういった感情を向けているに過ぎず、その一環でそうしているだけに過ぎないのかもしれない。

 こうして考えて見ると、結構根深いもののように思えて、聞くべきではなかったのではないかと今更になって思えてくる。


「別に? 人間は嫌いだけど、アンタやあの子たちはまた違うでしょ」

「人間という同じ(くく)りというわけではなくか?」

「ふふっ、そんなに知りたい? 私のこと」

「いや、そんなに」

「おい」

「何だ。聞いて欲しいのか?」

「聞かせるほうの身にもなってほしいわね」

「いや別に理由が聞きたいとか気になってるとか知りたいとかってわけでもないしな」

「欲しがりね」

「本音だ」

「それはそれでちょっと腹立つわね。少しは興味持ちなさいよ」

「エルフって何で耳が長いんだ?」

「そこっ!?」

「まぁ、割り切れているってことだろ。何となく分かった気でいることにする」

「だから話してあげるって言ってるじゃないの」

「違ったのか?」

「それは――違わないけどね。でもそこに至るまでが面白いんじゃない」

「自分で言うか」

「アンタならきっと楽しめるわよ」

「その言い方だとあたかも聞いて欲しいのが見え見えだぞ」

「何? 結局、聞きたいんじゃない」

「エルフって長命なのか?」

「そうね……私はしがないどこにでもいるエルフだったの」

「また今度な」

「まぁ、仕方ないわね」


 お互いに目で合図ということもなく、かといって代わりに見合わせるという訳でもなく、こちらが率先(そっせん)して立ち上がっては扉へと向かう。

 そして、扉が数回、叩かれたのを確認しては、はいはいとあたかも今気付きましたよという風を(よそお)っては、ゆっくりと開ける。


「……ふん。お前がリンとやらか?」


 そういい訪ねて来たのは見知らぬ女性が一人。

 こちらを一通り隠すことなく下から上まで値踏(ねぶ)みした後、こちらの名前を確認する。

 格好からしてそれなりの暮らしをしているように見えるが、それだけで、それ以上は読み取れない。


「はい、そうですが、何か御用ですか?」


 なければこないだろうという突っ込みが飛んできてもおかしくは無いが、名前を聞くこともすっとばしてその用件を手っ取り早く聞く。

 というのも人違いである可能性が現状、否定できないからだ。


「私はレイナス。まぁ好きに呼んでくれて構わない」


 しかし、こちらの意図を知ってか知らずか、ご丁寧(ていねい)にも名前からきっちりと紹介してくれる。

 ただ、当然の様に名前に見覚えはなく、誰かから聞かされたという記憶もない。


「何、そう不審(ふしん)がるな。今日はただお前に会いに来ただけだ。少しばかりの興味を()ってしてな」

「どこの関係者の方かお聞きしても?」

「ははっ、関係者か。成程な。だが私は今現在、ただレイナスとしてここに居る。それでは不満かな?」

「いえ……」

「少し話でもどうだ? (おご)るぞ?」


 レイナスは手で外を指し示し、こちらを誘う。

 正直、これに乗る理由は無い。

 断るべき。

 そう思うが、不意に――。

 こちらとレイナスとの間を繋ぐ一言が、後方から嬉々(きき)として飛んで来た。


「リンっ、行きましょうよ! 折角の誘いなんだし、それに奢りだっていうんだから何も問題ないでしょ?」

「その通りだよお嬢さん」

「暇だとか退屈だとかってのも勿論あるけどね? そんなのはもののついでよ?」


 それが真実であるとか本命であるかとかそのようなことはこの際どうでもいい。

 サラスが乗り気なのが非常に気になる。

 怪しいのは分かっているだろうに。

 それでも聞かざるを得ない。

 言葉にしなければ分からないこともある。


「実際のところは」

「近所に高いけど美味しいって評判のお店があるのよ! あっ、でも、そっか。私はともかくアンタのその格好じゃ……」


 入れないとでもいいたげだ。

 動きやすくて通気性も抜群な軽装(けいそう)だというのに。

 勿論、他の服もそれこそ着替えれば普通に入店を拒否されるということもないだろうが、ここであえてその選択肢を口にしなかったのはサラスなりの探りといえなくもないか。


「私が通そう」


 対するようにレイナスは、それが至って普通だと言わんばかりに、隠すことなくその片鱗(へんりん)を見せつける。

 これだけでも正体がばれたところで問題ない、いわば困らないだけの力を持っているか、正当な者であるということが推察できる。

 そのどちらでもあるという可能性もそれ以外であるということも重々に考えられるのだが。

 

「分かりました。これも何かの縁ということで、ご馳走(ちそう)になります」

「そうこなくちゃ!」

「では、その店とやらに案内してもらえるかな?」


 また一つ。

 この者に土地勘がないということが分かった。

 それ即ち、外からの来訪者だとも言い換えることが出来る。

 まぁ、全てがそう思わせるためのこちらに対する罠だとも考えられる訳なのだが。

 ぐだぐだ考えていても仕方が無い。

 (さい)はもう投げられたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ