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盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
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30、放任主義

「……スキルというのは私達でいうところの治癒(ヒール)です」

「あーそうなんだ」


 マリアの簡潔(かんけつ)な言に一人納得する。

 それでか。

 最初から何事も無く使用していたので、てっきり回復職というものは治癒(ヒール)が使えるから選ばれたとばかり思っていた。

 しかし、実際はそうではなく、回復職に向いているから治癒(ヒール)を授けられたということだ。

 つまり、自身が先天性であるとばかり思っていたそれは、実のところこの世界に来てから得た、後天的なものであったということだ。

 であればこそジーナの疑問にも素直にうなずけるというもの。


「ですのでリンさんにも何かしらのスキルが存在する筈です」

「なるほど。方法は?」

「言葉にすることで主に発動させますが、慣れればその必要もないらしいです」

「あー、いや、うん」


 自身が知りたかったのは使用法ではなくて、その前、所持スキルの確認法だったのだが、こちらの言葉足らずでマリアには誤解させてしまったようだ。

 申し訳なく思いながらも聞きたかったことには間違いないのでしっかりと相槌(あいづち)は打つ。


「リンっ、カードっ」


 それを見透(みす)かしたかのように横から手が伸びる。

 相変わらず察しがいい。

 言われるがまま、ポケットへと手を入れる。

 そこで気付く。

 ない。

 というよりもポケットに自然と向かったが、そもそも入れた記憶がない。

 心当たりと言えば荷物一式入ったカバンだが、間の悪い事に組合の宿だ。

 しまったというよりも致命的なミス。

 無くしたら面倒だからと持ち歩いていなかったのが原因だ。


「ジーナ」

「何てねっ。じゃーんっ、リンのカードーっ」


 何故持っているのかはこの際聞かない。

 むしろもっていてくれて良かった。

 だが一つだけ言わせてほしい。


「どうしてお腹から?」

「えー? それも忘れたのー? って、リンは聞いてなかったからねっ。大切なものだから肌身離さず持つようにって言われてたからだよっ」


 それでジーナが持っていた理由も意外な場所から登場させた理由も十分に理解できるものとなった。


「リンさん、本当に何も聞いていなかったのですね」

「早々に寝たのは間違いだったと今になって思うよ」

「疲れてたんでしょー? 仕方ないよー」

「そうでもなかったんだけどね」

「そうでもないのに寝ちゃったのっ!?」

「ははっ」

「あの、ジーナさん」

「あっ、ごめんねっ。えーと、スキルは……肉体強化、身体(しんたい)強化、その二つみたいだねっ」

「効果のほどをお聞きしてもよろしいですか?」

「うんっ、えーっと、肉体強化はパッシブのそのままで、身体強化はー、そのままだねっ」

「そうですか」

「パッシブって何か聞いてもいいかな」

「発動しなくても発動してるスキルだよっ」

「ありがとう」

「では、当初の考えにほとんど変更はなさそうなので――」

「このままじゃだめなの!?」


 竜が寄ってこないことを機に、幾許(いくばく)かの冷静さを取り戻したのであろうサラスが提言する。


「このまま、というのはこの場にて待機するということですか?」

「そ、そこまでは言ってないけど、その、このまま逃げるというか、身を隠すというか、ほらっ、ドラゴンもあっちに行っちゃってるしさっ!?」

「苦言を呈すようで申し訳ないですが、あちらが終わればこちらであると――」

「でも! そんな! えっと……死ぬかもしれないのよ!?」

「サラス」

「何よ!?」

「大丈夫だ。心配するな」

「別にアンタのことを思って言ってるんじゃなくてっ、その、いいの!? アンタたちは!?」

「構いません」

「んー、リンが死んじゃったらぼくも死ぬことになるのかなー」

「追う必要は無いよジーナ」

「でもきっと食べられちゃうねっ。ぼく可愛いからっ」

「そんなっ――そんな簡単でいいの!?」

「理由はおいておいても結末に変わりはないように思いますね」

「むーっ、そういう時は素直に可愛いで良いと思うんだー」

「心配しなくてもジーナは可愛いから大丈夫だよ」

「そんな冗談言ってる場合っ!?」

「リンさんっ――運上昇!」


 サラスの悲鳴にも近い声は、マリアの合図とも呼べるスキルの発動に因ってその効力を失う。


「あぁ」


 言われるまでもなくひしひしと伝わってくるこの感覚。

 戦意を超す殺意。

 懐かしき戦場にでも舞い戻って来たかと錯覚(さっかく)しそうなそれ。

 固定された視線、その先に映るのは言うまでも無く――。


「……リンっ! 死なないでね!」


 ジーナがサラスを連れてマリアと共に背を向ける。

 もしかしたらこれが最後かもしれないわけだが、特に掛けられる言葉も思いつかず、いつも通りと言わざるを得ない繰り返し。


「大丈夫大丈夫。さて、身体強化」


 言葉にすることで発動するのかぶっつけ本番で(いささ)か不安ではあったものの、何の問題も無くそれは自身を駆け巡る。

 体感だけでいうなら通常の二倍、いや三倍か?

 正確な数値など分かりようがないが、これでだめなら納得も出来るというもの。

 足を広げては受け止めるべき体勢を形作る。


「そう言えばこの後のことを考えていなかったな……」


 今更だが、聞こえる事が無い程に離れたであろう仲間たちに対して、何ともふがいない自分を詫びる。


「大丈夫」


 そんなことを余所に肩から声が掛かる。


「アイギス……」


 最早、そこに居るのが普通過ぎて降ろすのを忘れていた。

 時間はない。

 ここで耐えきることができなければアイギスが死ぬ。

 そんな現実とこちらが向き合うよりも早く、その者達は竜を引き連れる様にして突然現れた。


「オイ! 何をやってる!」


 続けざまに逃げろだの避けろだの声が聞こえるが声の方向に意識を向ける余裕などない。

 迫る。

 迫る。

 迫る。


「ッ――!」


 歯を食いしばる。

 手を伸ばす。

 掛ける。

 掴む。

 押し込む。

 押し込まれる。

 (けず)れる。

 裂ける。

 ブチブチと嫌な音を立てて自身が崩壊していくのが感じられる。

 しかし――。


中治癒(ミドルヒール)中治癒(ミドルヒール)中治癒(ミドルヒール)


 その回数にして三度。

 壊れた体に再び相対するだけの活力を与える。

 だが、止まらない。

 ギリギリと歯が軋み、音を上げる。

 それは悲鳴。

 だとしても引く訳にはいなかい。

 アイギスにかすり傷とて負わせるわけにはいかない。

 自身が終わればすべてが終わる。

 ジーナもマリアもサラスも。

 気合を入れる。

 根性で耐える。

 気持ちで押す。

 そんなありもしない、目に見えるものでもないものに頼らなければいけないほどに相手は強敵であり絶対的だ。

 それはどうあろうと揺るがない。

 どうにもならない。

 そんなことは分かっている。

 分かっていて尚、どうにかしようとここに立っているのだ。

 靴の底が擦れ、その役目を放棄する。

 代わりにそれ以上のモノが大地に接してはその役目を果たそうと奮起する。

 頼りは自身の肉体のみ。

 小細工など一切通用しない。

 力勝負。

 頭はただついているだけ、命令などする必要もない。

 なんならその中身を筋肉に入れ替えれば少しは役に立ったかもしれない。

 ないものねだり。

 空想。

 そうして気付く。

 アイギスの行いに因って。

 気付かされる。

 その真意に。


「身体強化! 身体強化! 身体強化――!」


 重ねる。

 重ねる。

 幾度と無く。

 数える事無く。

 ただ、止まるまで。

 止めるまで。

 意識が遠くなっていくのが分かる。

 しかし反するように強まって行く力。

 どこまでもどこまでも。


「ッ――アイツ! 止めやがった!」


 どこからかそんな声が聞こえる。

 いや幻聴かもしれない。

 そうであったらいいという自身の思いが具現化したか。

 まさか夢であるというわけでもあるまい。

 そうであるなら今頃ジーナたちはどうしているだろうか……。


「今だ! 翼を削げ! 尾を落とせ! その首に我らの全てを捧げろ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 声が反響する。

 頭の中をただひたすらに。

 それが真実なのかどうかは重要ではない。

 ただ、この朦朧(もうろう)とした意識と(ほとばし)る肉体。

 それだけが自身のあずかり知る全てであり世界だ。


「うおおおおおおおおおおおおおお!」


 うるさい。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 静かにしてくれ。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 やまない。

 続く。

 終わりが見えない。

 そしてその意味を教えてくれたのは他でも無い、アイギスだった。


「リン、終わった」


 あぁ――そうか、それで。


「良かった」


 ただ、純粋に思いのたけが溢れ出た。

 同時に、ここまで何が在ろうとその主導権だけは手放す事の無かった意識さえも、その役目を終えるかのように途切れては自身の手を離れていった。



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