28、フラッシュライト
「うん。まぁ、そうよね」
サラスの声には納得というよりは至極当然の様に受け入れるだけの普通さがにじみ出ている。
むしろ、そうでなければ不自然、眉間にしわを寄せてはその不可思議に顔を曇らせるだけの説得力がある。
「でも驚いたなー。あの男の子たちがあんなにも高額な賞金首だったなんてー」
ジーナはそういいながらも驚いた風はなく、終始ニコニコと笑顔を周囲に振りまいている。
何と言うか疲れたわけではないが、癒される。
この何気ない普通というのは本当に尊いものなのだとここ最近になって非常に強く感じるようになった。
「でもさー、組合ってのは便利なもんだよねー」
「そうね。その点だけは認めて上げてもいいわ」
それは自身も同意だ。
まさか、別の街でありながらも借金が返せるとは。
ここにどの程度滞在するかはまた別の話だが、帰る手間が省けた。
「でさっ、どうするー?」
「どうするってそんなの、分かり切ってることでしょ? 買い物よっ!」
「やったーっ!」
サラスの言葉に両手をめいっぱいに使ってその喜びを表現するジーナ。
だがその気持ちも分からなくはない。
護衛の代金はその都合上支払われることがなかったが、懸賞金で借金は無事完済され、尚も有り余るというほどではないが、しばらくは何もせずとも暮らせるだけの余裕を得た。
それに折角最初の街よりも程度はあれど、華々しく、豊かであることが見た目にも分かる場所にきたのだ。
これを機会にこれまで窮屈してきた分、羽を伸ばすというのは大いに賛成できる。
「というわけで、私たちは買い物に行ってくるけど、アンタたちはどうする?」
アンタたちと一まとめにされたが、言うまでもなく、自身とマリアとアイギスのことだ。
左を見る。
マリアと目が合う。
右を見る。
アイギスとは目が合わない。
再びサラスに目線を戻す。
「つれてくか?」
「んー、どっちでもいいわよ。って言っても二人ともアンタから離れそうにないし、アンタ次第じゃない?」
言われて考える。
二人とも自分自身が関係する事以外には殆ど無関心と言っていい。
少しここに来るまでごたついたが、両者共にその顔に疲れというものは見えない。
であるならば、気が休まることが無かった中でのいい機会。
サラスについてまわるのもいい気分転換になるのではないか。
もっというのであれば、こちらに合わせてそれを棒に振るのはもったいない。
とは言ってもこの場合重要なのは二人の意思なのだが。
「行こうか。とは言っても二人次第だが」
いいつつ、先程の繰り返し。
左を見ては右を見る。
「私はリンさんが行くというのであれば同行するのが筋でしょう」
「いやじゃないか?」
「もしそうであればそういいます」
「そっか。アイギスは?」
「いく」
どうやら二人とも乗り気のようで何よりだ。
「なら決まりだな」
「そんなのアンタが行くって言った時点で決まってたわよ。言ったでしょ? アンタ次第だって」
「まぁまぁ、そこらへんにして早くいこー?」
「そうしようか」
鶴の一声。
正にそんな感じ。
ジーナの意見に反対の者はおらず、全員で席を立つと組合を後にした。
それからサラスの先導のもと、五人揃って初めに入った店は別段に驚くような要素もない普通の洋服店。
つい先日にも服を購入していたと思ったが、あれは一体何だったのか。
サラスとジーナはテキパキと服を何着か手に取ってはこちらへと戻ってくる。
「さっ、アイギスはこっちよっ」
サラスがアイギスを連れて試着室へと二人して消えて行く。
「ふっふー。マリアとリンは僕にまかせてねっ」
有無を言わせずジーナはこちらの肩幅へと洋服を合わせては次々とその装いを変えて行く。
「んー、美人ってのも困りものだよねー。何でも似合っちゃうから悩んじゃうよー」
ジーナがマリアに色彩豊かなものから、少し落ちついたもの、ふんわりとしたものにキュっとしまったものと当てては変え、当てては変えと、しまいにはこの店の商品全てでそれをするつもりではないかと思えるぐらいに次々と試していく。
「あの、ジーナさん。私には私の正式な服装というものがありますので――」
「えー、でももったいないよー。ねっ? リンっ」
「自慢じゃないけど昔からその手のものには疎くてね」
「ちーがーうー。違うってばっ。ぼくはー、リンがマリアの可愛く着飾った姿が見たくないのかって聞いてるのーっ」
「見てはみたいかな。でも、マリアがこれと決めてるならそれ以上いう気はないよ」
「つまりー?」
「つまり? つまり何だろう。つまり……見たいけど無理する必要はない? さっきと同じこと言ってる気がするけど」
「マリアっ。リンが見たいってさっ」
「仕方ないですね……分かりました」
「ふっふー。あ、でもっ、もしホントにいやだったら言ってね?」
「ありがとうございます。ですが服装に関して、決まりや縛りはありませんので大丈夫です。ただの気持ちの問題ですから」
「そっかー。なら、こっちも気兼ねなくやらせてもらうことにするねっ」
「はい。ですが、その、お手柔らかにお願いします」
「任せてっ」
ジーナは胸を張るとドンと叩く。
そうして合わせた衣装の中からいくつか選ぶとそれを手にマリアを試着室へと誘導する。
「あ、リンはその中から好きなの選んでてっ、すぐ戻るからーっ」
ジーナとマリアの背中を見送り、小さな卓の上に広げられた幾枚かの服へと目線を落とす。
正直、今あるだけで十分に服は足りているのだが、折角ジーナが見繕ってくれたわけで。
それに応えるのもやぶさかではない自分がいる。
いくつか手に取っては広げて目の前に掲げてみる。
成程。
ジーナらしい。
こちらが服に対して殆ど執着をもっていないのは最初からお見通しで、ある程度の機能性を保持しつつもと言った感じだ。
柄や色合い、そういったものは良いとか悪いとか言える程の知識と感覚を持ち合わせていない故、余り言えたことではないのだが、何となく着ている自分を想像できる。
これならここにあるどの服でも良いのではないかという気になってくるが、それでも言われた以上、自分なりに考えては数枚にまで絞り込む。
だが、慣れない事をしているからか、悩む。
意外と悩む。
そこにアイギスを伴ってサラスがご機嫌にも帰ってくる。
「ホント、アイギスは何着ても似合うわね。悩むわ。悩むから全部買っちゃいたいわ」
「リンっー」
綺麗に着飾ったアイギスが駆け寄ってくる。
「どうした?」
聞くが返答はない。
ただ、ぼすっとこちらに手を回してはその顔をうずめてくる。
「……サラス。アイギスが困ってるぞ」
「まずその前にいうことがあるんじゃないの?」
「服のセンスはない」
「そんなこと聞いてないわよ。それに言わなくても分かるし。ほらっ、褒めなさい?」
サラスは斬新なことを言う。
褒めろと。
それに何の意味がと思うが、自信満々にもポーズを決めるサラスを見ているとそんなことはどうでもよくなってくる。
「まぁ、そうだな。目がチカチカするな」
「おい」
「あぁ、あー、あ、何と言うか、らしいな。似合ってるよ」
「最初からそういいなさい?」
「綺麗とか可愛いとかあんまりよく分かってないんだよ」
「そういうときはセンスを褒めればいいのよ」
「なるほどな。勉強になる」
「まっ、顔とかスタイルとか服とか褒められてもたかがしれてるからね。その点でいえばアンタのいう、らしいってのはある意味正解ね」
褒めた側が逆に褒められている。
少し嬉しい。
「ほらっ、アイギスにも何かあるでしょ?」
「ん? アイギス、アイギス……」
見ようにもその前面は全く見えない。
全容を見たのは一瞬で、その記憶を頼りにどう褒めようかと考えるが、さすがに厳しい。
そこで先程習ったことを早速使ってみることにする。
「センスあるなーアイギス」
「私を褒めてどうするのよ」
そういえば選んだのはサラスだった。
「いや、それでもその中から選んだのはアイギスだろ?」
「私よ」
衝撃の事実。
というまでもなく、少し考えれば分かりそうなこと。
「そうだな。アイギス。いい感じだ」
「何がよ」
「突っ込むなー」
「練習よ練習」
何のだと思うがまあ、こちらも別にそうであるならと気軽に答える。
「落ち着いたー雰囲気でいいな」
「まぁ、一言目でそれが出てればこっちとしても文句はないわね」
「そんなにか?」
「そんなによ」
適当な言葉の応酬。
そこに試着室からその装いを大きく変えたマリアとジーナが帰ってくる。
「わーっ、サラスはまたえらく派手だねー」
「でも似合ってるでしょ?」
「露出多くないー? 大丈夫ー?」
「見られて困るものなんて持ち合わせていないから問題ないわよ」
「さらりと自慢っ。でも言い返せないからすごいっ」
「ありがと。ジーナもマリアも中々だけどね。まっ、その先はリンに聞かせて貰おうかしら?」
「え?」
「えじゃないでしょ」
「リンっ、どうかなっ?」
「私は別に……」
「二人とも自分の魅力をうまく引き出してるね」
「え?」
「え?」
「あ、その、ジーナさんのおかげです」
「すごいねジーナ。でも似合ってるよ」
「ありがとうございます」
「リンが……ううん、そうだよねっ。ありがとっ」
「練習の成果ですぎでしょ」
サラスが目を細くする。
それで成功を確信した。
努力はしてみるもんだ。




