2、低血圧あそび
「あの~」
頭上、それもかなりの至近距離から声が掛かる。
「そろそろ起きてもらってもいいですか~?」
寝起きで未だ目がしょぼしょぼとしている最中、甘ったるい香りを乗せたその声がこちらの意識をゆっくりと覚醒させていく。
「あ、目が覚めたみたいですねー。おはようございますぅー」
言いながら既に近い距離を更にずいっと寄せて、いや詰めてくる。
「……おはよう、ございます?」
「はい、おはようございますですー」
眼前にまで迫っていた顔がピタリと止まり、ニコリと笑うとその位置を正常な距離にまで戻していく。
「あー、えーっと……」
横になっていた体を起こし、座ったまま辺りを見回す。
「皆さんはー……つまり、そういうことで?」
自身の周りに各々の距離感をもってして斜に構える者や、壁に背を預けるもの、その場に立ち尽くすものと三者三様。
そして、その内から自身の常識に照らし合わせるならば神官風の衣服に身を包んだ長い黒髪の女性が近づいてくる。
「神を信じますか?」
「会ったことあるよ」
「え――?」
突然の言に何の事だかよく分からないが死んだあとの事を思い返して何となくアレが神なんだろうなと思い、素直に答える。
だが、相手の顔には思いがけない驚愕と畏怖が浮かび上がっている。
「あ、あぁ、いや、冗――」
「もう分かったでしょ。ここに残ってるのはそんなのばっかりよ」
こちらの言を遮って聞こえて来た声の主へと顔を向ける。
そこにはスラっとした金髪の、敢えて特徴を上げるなら耳の長い女性が居た。
「あははっ、それを自分で言うかい? ふつうー」
対しておどけるように言葉を拾うは先程自身を起こした女の子。
「男の癖して女の真似事なんかしてるあなたにだけは言われたくないわね」
……男の子だったようだ。
「でも似合ってるでしょー?」
「ちょっと、見せつけないでよ気色悪い」
「えー、似合ってると思うんだけどなー、うん。ねぇ! 君はどう思う?」
形成悪しとこちらへと舵を切ってきた奇抜と言わざるを得ない、明るい青い髪に泣きぼくろの敢えて言うまでもない男の子がビシっとポーズを決めて問うてくる。
「似合ってると思うよ」
単純に性別関係なく着こなしているのでありのままを伝える。
「え――そ、それってもしかしなくても口説いてるー?」
「バカね。お世辞でしょ」
「本当に似合ってるとは思うけどね」
「アンタ……正気?」
耳の長い女性はあからさまにどうかしているという顔をする。
「ふーんだ! ふーんだ! でも、ありがとうー」
怒った後、こちらへと良い笑顔で礼を言う。
「うん、で、だけども。つまり、ここに残っている5人でパーティーとやらを組むということでいいのかな?」
念のためと確認の意味も込めて今まで話に入ってくるどころか微動だにしていない女性へと視線を向けて問う。
「まっ、仕方ないでしょ。それは。誰か置いて行く訳にもいかないしね」
「優しいんだな」
「人間に言われてもうれしくないわ」
「ははっ、素直じゃないなー。彼女エルフだからさ。だからさってのもおかしな話なんだけど、人間嫌いなんだよー。こわいよー、たべられちゃうよー」
「まぁ、所謂一つの個性ってやつだな」
「……それは、ちょっとちがうんじゃない?」
「僕はむしろ好きだけどなー。君のそういう考えかた」
「いいから。ほら、もう誰も居ないんだしさっさと行きましょ。続きは馬車の上で――」
「さんせーい!」
「そうしようか」
そうして、満場一致とはいかないまでも過半数の了解を得て舞台は馬車の上へと移った。