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盾1回復4の盾ですがなにか?  作者: なんちゃコフ
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19、遠出したところで

 一人。

 二人。

 三人。

 四人。

 五人。

 六人。

 七人。

 八人。

 九人。

 十人――。

 足を折られ、脳を揺さぶられ、痛みに意識を刈り取られ、倒れて行く。


「リン。あれ」


 肩の上からアイギスが指し示す。

 その先に目を向ければ、これまさしくと指揮官風の女がこちらを見据えている。

 自然、目が合い、次の瞬間にはその女に因ってこちらへと兵が差し向けられる。

 五人、十人、十五人、まだ増える。

 手元を見やれば、鋭利に煌めく刃物。

 それも切るというよりは叩き切ることを目的としたような大型の剣。

 こちらの戦いを良く見ているといっていい。


「サラス、歩けるな?」


 背中越しに語り掛ける。


「えぇ、そのくらい大丈夫よ」


 声には疲れが見られるが、それでも頑張ってもらうほかない。


「ジーナ。無理を承知で頼む」


 これも背中越しに声をかける。


「うん……ぼくは大丈夫だよ」


 とても大丈夫そうには聞こえないが、それを追求した所でやってもらうほかない。


「アイギス、降りる気は?」

「……」


 聞いてか聞かずか返答はない。

 つまりそういうことだ。


「行くぞ」


 合図とともに進撃を開始する。

 出来ることは限られている中で選択肢があるとすれば、この場から逃げることか、果敢に攻め入ることだけだ。

 だが、逃げるとして、どこに逃げるというのか。

 見回すまでもない。

 ここは自身たちが帰るべき場所。

 名前も未だに知らないが街なのだ。

 組合があり、冒険者と呼ばれるものたちが出入りし、警備のために兵も駐屯し、そこで生活を営むものたちが数多く暮らし、日々を生きている。

 それを我が物顔で蹂躙してよい筈がない。

 しかし、相手もそれを知っているからこそのこの戦力。

 分かっているからこそのこの有様。

 あるから奪い、邪魔だから排除する。

 そしてそれをするだけの価値がここにはあったというだけのこと。

 そうでなければ最初から標的になどなりはしない。


 殺していいならもっと楽なんだがな……。


 ふと、もう既に覆る事の無い問題が頭をよぎる。


「甘えか……」


 自身の能力不足を嘆いても仕方が無い。

 今ある全力でこの一瞬、一瞬に挑むのみ。

 こちらと指揮官との間を遮る様に、埋め尽くすようにして街のあちらこちらからとめどなく兵が湧き出てくる。

 だがそれ自体は問題ではない。

 むしろ好都合とも言える。


「こちらが少数である以上手を回すにも限界があるからな」

「余裕そうね」

「人間相手ならな」

「大事なのはアンタと私達の命よ。忘れないでね」

「殺しはしない。これは決定事項だ。ただ、そのあとその者達がどうなるかはこちらのあずかり知らないところだな」

「もうアンタの中じゃそんなところを見てるのね」

「不満か?」

「不安の間違いでしょ? まっ、そう言いきられちゃこっちとしても何もいうことないけどね」


 サラスが言い切る。

 同時にこれ以上入りきらないと集団から押し出された者達がこちらへとその距離を詰めてくる。

 こちらの進攻速度はジーナとサラスを考慮して非常にゆっくりとしたものだが、それでも接敵にはさほどの時間を要さない。


「フンッ!」


 数歩とかからないうちに敵の間合いへと入り込む。

 対するように大地を踏み鳴らしてはこちらを確実に死に至らしめるであろう一撃が振り下ろされる。

 それに本日もう何度目かというような繰り返し行われた、しかしだからこその磨きがかかった一連の動作にて対処する。

 身を翻しては刃に対して平行になるよう背を向け、避ける。

 半身から姿勢を正面へと戻す際に回し蹴りの要領で頭部を打ち抜く。


「がっ――」


 奇怪な声を残して舞台から袖にはけるように吹き飛ぶ。


「おらっ!」


 お次は振り回し。

 胴体を狙った横一線の流れ。

 タイミングを見計らい、肘と膝で挟み込むようにしてへし折る。

 刃を失った剣は空を彷徨う。

 最早脅威にはなりえない相手に対して問答無用の蹴りを繰り出すことで強制的に目の前から退場させる。


「チィッ!」


 これだけ見せれば兵も迂闊には飛び込んでこなくなる。

 だが下がる事はその後続の者達が許さない。

 後がないことを知ると運任せに切りかかってくる。

 そのような剣筋、待つまでもない。

 こちらから踏み込み、刃が届く前にその望みを叶えてやる。

 そうして右に、左に。

 人が飛ぶ。

 時には壁にぶつかり、時には遮るものなく大地をよりどころにしてどこまでも転がって行く。


「……お、おいっ……づ、ど、どうすんだ、どうすんだ? えぇ!?」


 繰り返せば繰り返す程に恐怖と混乱、困惑が広がって行く。

 徐々に徐々に。

 そんな中で自身の出番がもう近いと悟れば、知ってしまえばもう抑えられない。

 全てを置いて逃げ出そうとする。

 崩壊。

 四散。

 だがそれをみすみす許す様では指揮官たりえない。

 いや、そのようなものが指揮官である筈がない。


「静まれッ!」


 怒声とも言うべき高圧的な声が辺りを突き抜ける。

 自ずと視線が向かい、集まる。

 一瞬の静寂、しかし、こちらまで止まってやる必要はない。

 何人かの意識が音と共に失われたところで再び統制を失う。

 それでも何人かは未だ指揮官へと目線を注いでいるところからしてそれなりに人心は掌握しているのであろうことが遠目からでも伺える。


「道を開けろ!」


 指揮官が大仰に手を振り、既に開きつつあった人による壁が完全に開かれる。

 そこでもこちらがあえて付き合ってやる必要はないからにして近場の者から引き続き地に伏してもらう。

 

「チッ――狂人め」


 そんないら立ちにもにも似た声が漏れ聞こえてきたのをこちらは決して見逃さない。


「私の名はライナス! 貴様に一騎打ちを申し込む!」


 腰に下げられた細身の剣を抜き放ってはこちらへと向ける。


「よもや断ったりしないだろうな?」


 歩みよってくる相手に対してこちらの歩みを止める。

 代わりに手数を増やし、被害を蓄積させていく。


「オイ! 聞いているのか! 一騎打ちだ!」


 手の届く範囲以外にも手を伸ばしていく。

 手段としては敵から奪った武器、転がる瓦礫、飛散する破片、さらに敵そのものを以ってして投げつける。


「オイッ! 私を無視するな! ……チッ、クソったれめ!」


 うおおおおおっという激しい掛け声と共に女が迫る。

 それを児戯に等しいと軽くいなす。

 同時に足をかけては派手に転がす。

 それで終わりではない。

 追撃。

 握りしめられたままの貧相な剣を拳ごと破壊するが如く踏みつぶす。


「――ッ」


 流石指揮官と言ったところか。

 兵の士気を下げまいとしてかみ殺した声はきっと自身以外の誰にも聞こえなかったことだろう。

 ならば、と。

 更に追及すべく力づくで仰向けにし、馬乗りになっては容赦なく顔面を殴りつける。

 一発、二発。

 三発とかからずに意識は飛び、鈍い音をさせるだけの人形と化す。

 それでも手は緩めない。

 相手の戦意を削ぐように、また、相手にこのまま続ければどうなるかを教え込むように殴り続ける。


「リン……」


 ジーナがこちらをうかがい知るような声を上げる。

 それはジーナなりの優しさからでたものであろうか。

 既に女の顔はその区別がつかなくなってしまっている。


「やりすぎよ。それ以上やったら死ぬわよ」


 サラスから非難めいた言葉と共に目線がこちらを射抜く。


「この程度で死ねるなら幸せだろうな」


 この者に待つ、その先の未来を見据えては自業自得かと勝手に納得する。


「それでもよ。周りを見て見なさい」


 言われて見るまでもない。

 敵のその殆どは逃げ出している。

 残っているのはそうすることが出来ないもしくはそうする必要のないものたちだけだ。


「やめなさいっていってるでしょ?」


 それでも尚止めないこちらに対して見かねたようにサラスが腕ずくでこちらの手を掴む。


「やりすぎよ。それ以上はアンタの仕事じゃない」

「……やりすぎぐらいやっておかなければ後で苦しむはめになるぞ」

「……何が言いたいの?」

「分からないならそのほうがいい」


 再び腕に力を籠める。


「ちょ、ちょっと、だからやめなさいって」

「止めてはなりません……。彼は今、後の報復から彼女たちを救っているのです」


 想定外にもその声は脇から聞こえて来た。

 つまり、マリアが目を覚ましたのだ。


「マリア。大丈夫か?」


 大丈夫でないから今まで気を失っていた。

 それくらい分からなくてどうすると思うが、それでも聞いてしまう。

 それは少しでも本人の口からやせ我慢でも大丈夫という旨の言葉を聞いてただ一方的に安堵したいだけなのかもしれない。

 サラスに目で合図し、女から手を放してはマリアを少しでも楽にしようと大地へ寝かせる。


「はい。夢を、見ていました。ただ、見ていたことは確かなのに、思い出せないのです」

「マリア……私、その、良かった……」

「心配は無用です。それよりもリンさん」

「ん?」

「アナタは言いました。神に会ったことがあると」

「うん」

「私も会えたような気がしてならないのです」

「どうだった?」

「いえ……それが……思い出せないのですから困ってしまいますね」

「また会えるさ」

「ふふっ」


 マリアが笑った。

 不意打ちの如く見せたその顔を見ていると、大人びてはいるが年相応の女の子に見えてしまうのだから笑顔というのはその者を童心に帰らせてしまうのかもしれない。

 それにしても存外にと言ったら少しあれだが、いつもの様子からは全く想像できないぐらいよく似合っている。


「その時はご一緒にどうですか?」


 笑顔のままマリアはこちらに問うてくる。


「喜んで」


 それに深く考えるまでも無く即答する。

 とはいっても次会う時はきっと死んだ後だろうが――マリアの笑顔にはそれすら笑い飛ばせてしまうほどの破壊力というものがあった。

 疲れた体に一番効くものは何か。

 そう聞かれたきっとこれからはこう答えるであろう。

 笑顔だと――。



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