101、チャカバナナ
「どうされますか?」
それは目の前に竜がいることで上がった問いではあるのだが。
「どうするもこうするも、どうすんのよ」
それは竜に対して向けられたものでは無く。
「あわわっ、当てが外れちゃったっ?」
むしろ生気の無い竜からこちら側へと投げかけられたもので――。
遡る事数分前。
レーシアから竜が向かったとの通達。
簡易的に立て直された宿屋から出て待機。
程なくして竜襲来の知らせ。
予定通り向かう。
そして、接触する間もなく――竜は瓦礫の上へと叩き落された。
一人の少女に因って。
「……会議だな」
振り返っては全員を前に、困ったと素直に告げる。
「今更何を話し合おうっていうのよ」
「色々」
「はっきりお金って言ったらどうなのよ」
「それ含めだな」
「私は今の生活を捨てる気はないからね?」
「ぼくは働くのも悪くないと思うんだっ?」
「私も同感です」
「いや……流石にね」
「別にいいんだよっ? ぼく一回ウェイトレスさんになってみたかったんだーっ。ほらっ、服もかわいいでしょっ?」
ジーナは言うと、長い裾を持つようにしてはその場でくるりと回って見せる。
「えへへっ」
着てもいないのにと思うかもしれないが、それは非常に板についていて、何よりもジーナの魅力を引き出すその姿は誰をも惹きつけるであろうことは明らかだ。
「良く似合ってるよ」
「ありがとっ」
「着てもいないのによくそんなこと言えるわね」
「あーっ、やきもちだーっ!」
「はいはい、って、アンタもまさか見たいっていうんじゃないんでしょうね?」
「いや何がだ」
「私の給仕服姿」
「いや勝手に――」
「殴るわよ」
「何でだよ」
「私は何着ても似合うのよ?」
「元が良いからな」
「殴るわよ?」
「何でだよ」
「もーっ! いちゃつくなーっ!」
物騒なことを平然と言い放つサラスに対して何故か割って入るジーナ。
理由はどうあれ殴られることを回避できたのは幸いだ。
「この場合……私も着るべきなんでしょうか」
マリアがこちらを真っすぐに見据えてはその答えを求めてくる。
「いや――」
そんなことを聞かれてもと返すまでもなく。
「マリアはきっと似合っちゃったりするからだめだよっ」
「似合うものを着るなと言われたのは初めてですね」
「マリアにはもう修道服があるでしょっ?」
「そういえばアンタ。何で私が買ってあげた服着ないのよ」
「着てますよ?」
「寝るときにでしょ」
「はい」
「普段から着なさいよ。折角買ったんだから」
「それは……」
マリアの目線がサラスから外され、何かを求めるようにこちらへと移る。
「サラ――」
「アンタは黙ってなさい」
「ほどほどにな……」
「あぁ、アンタが見たいって言えば着るんじゃない?」
「サラスっ」
「そうよっ、マリアもそうでしょ?」
「私は……」
再びこちらへと向けられる視線。
しかし今度は控えめで、尚且つすぐに外されてはサラスのもとへと舞い戻る。
「リンっ、ほらっ、アンタが言えばそれで全部解決よっ」
サラスは何も問題ないと話を一人進めて行く。
しかし、そのやり方はいささか強引と言わざるを得ず。
「サラスっ、やめなよっ。マリアが困ってるでしょっ?」
だからといってこちらが声にするまでも無く。
ジーナはきっと、何もかもを察しては言葉にしてくれている。
「ジーナさん……」
「ぼくはべつにっ、リンの興味がマリアに向くのが面白くないだけだからっ」
「正直ですね」
「ふーんだっ」
マリアは少しばかり口元を緩め。
ジーナは頬を膨らませてはそっぽを向く。
何とも微笑ましい光景か。
「悪気があってやったわけじゃないけど、私って悪者?」
サラスがこちらの横に並んでは理解しろと言わんばかりに肘で小突いてくる。
「賢い子たちだ。分かってる」
一々言葉にしなくてもと思うが、それでも自分以外の誰かの口から聞きたかったのであろう。
何かを決心したというにはいささか大袈裟な中、サラスは二人の下へと歩み寄って行く。
「マリア」
「はい」
「その、ごめんなさいね」
「いえ、こちらこそご期待に応えられず……すみません」
「アンタが謝ってどうすんのよっ」
「いえ、そのっ、はい」
「ふふっ。まっ、色々あるんだろうけど。好きにすればいいと思うわよ?」
「……と言いますと」
「給仕服とかさっ、私も結構似合うと思うわよ?」
「それは、その……」
「あーっ、サラスーっ?」
「いいじゃないっ、本人が着たいって言うんならさっ。私も正直見てみたい気持ちもあるし?」
「もーっ、どうなってもしらないよーっ?」
「ふふっ」
「むーっ、こうなったらサラスにも着てもらうんだからねっ」
「あっ、あのっ!」
マリアがこれまでの流れを断ち切るように。
声を少しばかり張り上げてはその先を遮る。
そうして自然と視線が集まるのは極々当たり前の反応であり。
「給仕服は、ちょっと……私には、その……少し、かなり……難しい、かと……」
何とか文章にこそ成り得ているものの。
そこからは自分を卑下するというよりも、過小評価し過ぎているように感じられる部分が多く。
「似合うと思うけどね」
率直な意見で以って、ただ背中を押す。
「そっ、その――あの、えっと……ありがとう、ございます」
「ん? うん」
「アンタね……」
サラスが細めたその目でこちらを射抜く。
「どうした」
「その内刺されるわよ?」
「サラスっ、リンはもう刺されてるんだってばっ」
「私はまだ刺してないわよ?」
「えぇっ!?」
ジーナの驚きが周囲に木霊する。
サラスは半ば人に向かって刺すと言っておきながらもとても楽しそうだ。
「まっ、元気が一番だな」
「そうですね」
「あぁ……って」
「だれっ!?」
ジーナの声に全員が同じことを思った。




