100、ミントもなか
「はっ! やっ! ていっ!」
瓦礫の山で溢れる街を外れ、短く生えた草地の上にて。
ジーナと相対するのはいつの日か見た光景を再現するようにマリアだ。
お互いの手には刃が握られており、振られる度に青い髪と黒髪が朝日を浴びては煌びやかになびいている。
「うん、いいんじゃないかな」
そんなことを言いつつも。
自分でも何がいいのかは正直なところ誰かに教わったわけでもないので分かるはずも無く。
それでも求められている以上、過去の記憶と照らし合わせてはその評価を判定せざるを得ないわけで。
どうにかこうにかそれらしい言葉を用いては二人の反応を窺う。
「んーっ、んー……」
こちらの言葉に納得がいかないのか。
ジーナは刃物を手に、立ったまま顎に手を当てては首を捻る。
「アンタがもっと具体的に言わないからそうなるのよ」
「例えば?」
地面に布を広げては、その上で横になっているアイギスを間に。
挟む形で目線を向けると、サラスが淹れたてであろうに湯気の上がる紅茶へと口をつけている。
「構えとか、攻めの順序とか、いろいろあるでしょ?」
「んー……」
「アンタは大味なのよ。もっと身になる、こうしたほうがいいとか、こうするといいとか。すぐに実践できるような……まぁ、何かないわけ?」
「そう言われてもなぁ」
「リンさん」
「ん?」
「攻守を入れ替えてはどうでしょうか」
「あぁ、なるほど」
それは魅力的かつ、非常に理に適った指導方法だ。
というよりも少し考えれば思いつくことか。
自分でも指導者向きではない事は十分に理解しているつもりではあったのだが、ジーナに関してはマリアに教えて貰ったほうが良いのではないかと思えてくる。
「ジーナ」
「うんっ」
名前を呼ぶだけでこちらの思いに応えてくれるのは他でも無いジーナだからこそだ。
「では、いきます」
「うんっ」
ジーナの返事を合図に。
今度はマリアから踏み込んで見せては、ジーナと同様の短い刃を慣れた手つきで素早く繰り出して行く。
「っ――」
ジーナは受けるのは苦手としているのか。
最初こそ身を捩り、翻し、避けることで何とか対処していたその切っ先も。
徐々にマリアがその間隔と速度を縮めて行くことで刃で受けざるを得なくなり、上下左右へと狙いを散らされれば簡単に体勢を崩してしまう。
その後に緩急までつけられるとなるともはやどうしようもなく。
結果として勝敗という分かり易い形に現れてしまうのはお互いに真剣だからこそだ。
「ここまでですね」
マリアがジーナを組み伏せたところでマリアが立ち上がり。
ジーナへと手を伸ばしては、受け入れるようにジーナがつかみ取る。
「やっぱり、ぼくより上なんだね……」
ジーナは分かってはいたようだが、その事実をこうして突きつけられるとそれはそれでどこか思うところがあるようで。
しかし、それをこちらが特別取り繕う必要も無く。
「中々筋はいいですが、少し纏まり過ぎているように感じます」
「うーっ、ぼくはリンに手取り足取り教えてもらいたいんだけどなーっ」
「人の助言は素直に聞くものよ?」
「それをサラスがいうんだ……」
ジーナはサラスと目線を交わす。
サラスは私はいいのよと脇のカゴからいつ用意したのか、まるで意に介していないと朝食を広げ始める。
「リンさんはどう思われますか?」
「うーん……二人には既に十分なだけの素地が備わってると思う」
「では?」
「実戦あるのみ、かな」
言っては立ち上がり、靴を履く。
もちろん手には何も握られていない。
「ジーナさん」
「はいはいっ」
ジーナは言われなくともと、こちらへと歩み寄って来ては刃を手に。
持ち手側をこちらへと向けては差し出してくる。
「ありがとう」
「ううんっ」
ジーナはニコリと笑って見せては自身と入れ替わるようにアイギスの横へ。
「そういえばさ。アンタが武器もったの初めて見たかも」
「たしかにっ。新鮮な感じがするねっ」
「リンさんはスコップがお好きですから」
「あれは穴掘りの道具よ?」
「ぼくの世界でもそうだったかなっ」
「一般的にはそうですね」
「っていうか、何か言いなさいよ」
サラスの言葉に三人の目線がこちらへと集まる。
「ん?」
「理由とか、あるんじゃないの?」
「別に……穴が掘れるしな」
「いや……当たり前でしょ、それ用なんだから」
「リンは武器は武器にしかならないって言いたいんじゃないかなっ」
「成程。たしかにその通りですね」
「いやいやいや、武器が武器にならなくてどうするのよ」
「武器はそれように作られてるけどさっ、それはリンからしたら同じなんじゃないかなっ」
「え? 短剣とスコップよ?」
「どっちもリンが振り回したら一緒でしょっ?」
「…………理解出来るってのもまた可笑しな話よね」
サラスは目を細めては美味そうな朝食にただかじりつく。
「リンさん」
「ん?」
「これを機に何かスコップとは別に持たれては?」
「それは、んー、どうだろう」
「何か持たない事にも理由があるのですか?」
「うーん、ものだから壊れるのは仕方の無い事だけど」
「致命的だと?」
「うん」
「壊れないものなんてないでしょ」
「その差で死ぬことになりかねない」
「運の尽きね」
「自分だけならそれでもいい」
「あぁ……そういうこと」
それで気が済んだのか。
サラスは興味なしと空になったコップへと紅茶を注ぐ。
その数は二つで、自然とジーナの分が含まれている。
「リンさん」
「うん、準備は?」
「問題ありません」
「攻守は?」
「実戦形式でお願いします」
「分かった」
そうしてジーナに合図を任せる。
朝の清々しい空気の最中。
可愛らしくも元気いっぱいにその火蓋は切られた。




